性加害のない世界を目指して (日本ペンクラブ女性作家委員会シンポジウム)
9月8日、日本ペンクラブ女性作家委員会が、シンポジウム「私たちは宣言します!性加害のない世界を目指して」を都内で開催し、約150人が参加した。第1部では、性暴力とハラスメントの問題点について大沢真知子さん(日本女子大学名誉教授)が話し、第2部で「国内人権機関」について小川隆太郎さん(ヒューマンライツ・ナウ/弁護士)が登壇。第3部では女性作家、ジャーナリストらがそれぞれ宣言に対する思いを発言し、最後にステートメントが発表された。
■無視される性暴力
大沢さんは2022年に行なわれた性暴力実態アンケート(NHK)に関わり、約4万件の被害報告の自由記述を読み、「伝えなくては」と思ったという。被害者が責められ、結果的に加害者を守る社会構造の中で性暴力を「いたずら」と表現し軽視する一方、被害者の67%が重いPTSDを発症していることなどを指摘。
さらに、二次被害対策や被害直後のケア、救済制度の不備を挙げ、性暴力の99%が無視されている現実を突きつけた。それらは男性中心社会の構造に起因するとした。
また、深刻なPTSDが就学や就労に影響し、社会的損失額は8兆円以上との試算も紹介。社会全体で被害者の救済と性暴力の根絶をと訴えた。
■独立性ある「国内人権機関」を
小川さんは、性暴力被害者が救済される一つの制度として「国内人権機関」について語った。
1993年に国連で採択されたパリ原則に基づき、世界118カ国に設置されている。既存の立法・行政・司法では救済できないマイノリティの人権救済機能を果たしている。加えて、政策提言や法律の問題点への指摘、人権教育、国内の人権侵害への実態調査なども「国内人権機関」の役割だ。
特に大切なのは、政府からの独立性。それを保つためにも世界各国が所属する国内人権機関世界連合(GANHRI)が、パリ原則を満たしているか評価する。日本では、国際法や国際人権法について、司法試験でも学ばず、裁判で取り上げにくい状況がある。「国内人権機関」ができることで、人権水準が国際基準にまで引き上げられることが期待される。
■社会を変えるために
女性作家委員会のステートメント発出の前に、作家、ジャーナリスト、弁護士ら有志が性暴力・ハラスメントの根絶を目指すそれぞれの思いを発言した。
作家・柚木麻子さんは、DVの概念がない時代から性暴力の問題を学び日本に伝えた長江美代子さん(日本フォレンジックヒューマンケアセンター副会長)との出会いに触れ、「言葉は(認識するために)大事。言葉で可視化することで人権意識が変わり、世の中も変わる」。
作家・篠田節子さんは「発出するステートメントを、具体的抑止力にしなければならない」とし、性暴力の予防と根絶、救済の具体化について「声を上げられないという重い事実を、どうすくいあげるかが喫緊の課題」と語った。
教育ジャーナリストの品川裕香さんは「障害のある女性は2〜3倍、性暴力被害に遭いやすい」という国際的統計を挙げ、家庭や学校など、本来守られる場所での被害が非常に多いとし、「政府は、全国の実態調査をすべき」と訴えた。
作家・山内マリコさんは、汚れた水槽にいる金魚は汚れに気づけないが、外側からはよく見えると、日本の人権状況を水槽に例え、「社会を変えるためにステートメントを口実にして、取り組む流れを作ってほしい」と伝えた。
ジャーナリストの白河桃子さんは共感力の欠如、男尊女卑の価値観、優越的・独裁主義的な“ハラスメント因子”を持つ人がいると言い、「周りにその発動を許容する組織、社会がなければ発動しない。許容しない社会を作ることが重要」と語った。
弁護士の伊藤和子さんは、「社会は、声を上げれば変わる」と断言。性暴力に関する刑法改正への道のりを語り、今後は「出版業界における取引の全てに、ステートメントの主旨が貫ければ、日本のカルチャーを全部変えられるのではないか」と期待をこめた。
最後に、作家でペンクラブ会長の桐野夏生さんが、4年間の女性作家委員会の活動について語り、30年前に自身が受けた「性差別によるいじめ」を告白し、その時から「戦うことにした」と発言。「ステートメントが伝播し、社会が良くなり、子どもたちのためにも性暴力のない社会を目指したい」と語った。
この日に発出されたステートメント全文、及び賛同団体はペンクラブのHPで見ることができる。
(「i女のしんぶん」2024年9月25日号)
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