本気度の高い来場者にプロの仕事を魅せる、若手大工のハレの舞台|大彦株式会社 野上浩幹さん
今回は、昨年11月の和歌山ものづくり文化祭2022に参加された大彦株式会社 代表取締役・一級建築士 野上浩幹さんのインタビューです。
(聞き手:和歌山ものづくり文化祭 サポーター 橘麻里)
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―今日はよろしくお願いします。まずは創業150年を超えられているということですが、事業内容について教えてもらえますか?
うちは住宅・社寺・店舗などの設計・施工やリフォームをする会社です。代々工務店として社内に大工を抱えており、私で7代目になります。
曽祖父は腕利きの大工で、名前を野上彦五郎といい、「大工の彦さん」から社名が「大彦」になりました。戦前戦中と山階宮様がご滞在なされた「秋葉山荘」や、和歌山城のすぐ近くにある「葵庭園」(元のお家を建てたのが大彦)など、数多くのお家やお寺等を手がけてきました。
ー「大工の彦さん」で大彦さん。まさに職人さんの会社といった成り立ちですね。
そうなんです。なので、現在も腕の良い大工職人の集団であることを大切にしています。
大工というのは一人前になるまでにかなり年月がかかりますが、今の時代、大工になりたいと思う人がとても減ってしまっているんですよね。このままでは自分達が150年間、親方から弟子へと伝え守ってきた大工の技が伝承できなくなってしまう。
大彦では一貫して社員大工体制を守り続けてきましたが、「これまではやってきた仕事が将来出来なくなってしまうのではないか」という危機感から、若い職人を積極的に雇用し、自分達で一から育てています。
現在大工は9人ですが、70歳を超える大ベテラン棟梁と弱冠30歳の棟梁を中心に、20代の若手も5人いて、みんな切磋琢磨しています。
ーそんな大彦さんが、和歌山ものづくり文化祭に出展されたきっかけを教えてもらえますか?
大工の腕の見せ所に「墨付け※1」と「手刻み※2」がありますが、棟梁でなければ「墨付け」は出来ません。そこで、大彦では日ごろから「わざわ座」や「手刻み同好会」という全国的な活動に参加して、若い大工たちに「墨付け」に挑戦する場を設けてきました。
ところが、昨年は新型コロナウィルス感染拡大を受けて、イベントがなかったんですよね。
もの文のことを知ったのはそんな折で、募集締切のぎりぎりになって知り合い伝手に話を聞いて、すぐに連絡しましたよ。若い大工たちの経験の場にもってこいのイベントだと飛びつきました。
―当日は棟上の実演が盛り上がっていましたよね。出展内容はどうやって決めたのですか?
これまで、椅子作りや格子作りなど「大工の周辺の仕事」のワークショップをやったことはありました。もの文に参加が決まった当初は、そんなワークショップをやろうかと思ってたんですよ。しかし、他の参加企業さんを知ったら、それぞれの道のプロがいらっしゃった。笑
そりゃあ敵わんなということで、自分達もいかに「大工としての仕事を現地で見せるか」ということを、僕と若手の中心核の棟梁とで考えましたね。その結果、「実際に棟上※3をする」という内容がメインの出展内容になりました。
担当になった若手大工は、開催までの1ヶ月間、仕事が終わってから残って準備していましたね。棟梁ならば1週間あれば出来ることだったかもしれませんが、自分で一から考えてやったのですから。
ーもの文だからこそできるチャレンジですよね。本業ならば出来ないことができる、若い職人のチャレンジの場として出展されたのですね。
とても良い経験になったと思います。
当日は思ったよりも多くの方がいらっしゃったのには驚きました。他の出展された企業さんも素晴らしかったですし、来場者の方も本気度が高い方が多かったように思います。
当日見に来たスタッフが、「うちももっと大工の本気なところを魅せれたんちゃうか?」って話だったんで、今年はその辺りを頑張ろうか!と話しています。
ー昨年よりも、もっと本気なところですか!期待が高まります。
さて、参加していちばんよかったことはなんでしょうか?
それはやはり、もの文を通じて若者3名の入社希望の応募があったことです。うち2人が入社しました。
大彦は大工チームと設計チームの組織体制でやっています。大工チームの作業場と設計チームの事務所は同じ会社内にあり、設計の初めの段階から両チームが連携して一軒を完成させていきます。
一般的には先生と呼ばれる設計士の設計を受けて、大工は請負仕事というイメージがあり、職人の地位は低いと言われる業界ですが、大彦は違います。なにせうちは大工から始まったので、大工チームが中心に会社がまわっていて、職人の地位が高いのが特徴ですね!
ものづくりの仕事や職人という仕事は、今はなかなか人気の仕事ではないですよね。ところが、こうやって職人の仕事に実際に触れてもらうことで、入社希望者と出会うことができた。本当に、もの文という場だからこそ生まれた縁ですね。
ー採用にも繋がったというのは素晴らしいですね。
そんな大彦さんの、もの文2023の取り組みを教えてください。
大彦は、「超プロ集団」を目指しています。そんな僕たちの仕事を、今年はもっとリアルに感じてもらいたいですね。
なんといっても、もの文はいらっしゃる方々も、出展される他の企業さんも本気な方が多い。だからこそ、例えば「作業場を会場に再現し、リアルな大工仕事というものを見ていたただき、体験していただく」というような、プロの大工の実際の仕事を見て、体験してもらいたいですね。
ーこの空間が会場に再現されると思うとワクワクしますね。今年の出展も楽しみにしています!
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