小説 『マッチングアプリ ヒャッパー』(作:雅哉)

 おれは今、人生で一番最高な時を過ごしている。大学入学から、苦節三年。やっとおれにも彼女ができたのだ。きっかけは、マッチングアプリを始めたことだった。マッチングアプリ「ヒャッパー」は、「一か月以内にあなたの理想の恋人に一〇〇パーセント出会える」がキャッチコピーで、実際その通りになっていると巷で話題になっている。大学生活も残りわずかとなったおれは恥を忍んでアプリを入手。理想の恋人像に関する質問に答えたのち、一週間後にはアプリが提案してくれた子と初対面。三回目のデートでめでたくお付き合いに至ったのだ。
「町田くん、今日はもう帰り?」
そうおれに声をかけてきたのは、ゼミの同期の田川サキだ。身長は女子の平均くらいで、顔はまあまあかわいい。ゆるく巻いた髪が女の子らしい服装とよく似合っている。
「そうだよ。今日はもう帰る。」
「あっ、そうなんだ。あのね、今日ゼミの何人かでごはん行くんだけど、町田くんも一緒にどうかな?」
「あー。ごめん。今日はこれから彼女とデートなんだ。」
そうなのだ。今日は待ちに待った彼女とのおうちデートなのだ。一緒に映画を観にいったのち、おれの家に彼女が来て、朝まで過ごす。もう昨日の夜から楽しみすぎて、期待に胸もアソコもいっぱいいっぱいなのだ。
「え、あ、町田くん、彼女いたんだ。え、てか、いつから?」
「みんなには言ってなかったけど、つい最近からお付き合いを始めたんだ。また今度誘って。またね。」
「う、うん。またね……」
部屋も掃除したし、この日のために色々準備したし、今のおれに不足はない。あぁ、待っててね、えれなちゃーん!

「ボス~。進捗いかがでやんすか?」
「あぁ~今やってるよ。今月の売り上げはざっと一〇億ぐらいかな。もう少しいくと思ったんだが、ここにきてアメリカの介入があって思うようにはいかなくなってきやがる。」
「しかし、よく思いたでやんすね。わが星で生産される格安人型ロボットに理想の恋人像の情報をインプットして、地球人と付き合わせるだなんて。」
「いい案だろ。最近の地球人は自分で出会いを見つけられないから、アプリで恋人を探しているという情報を手に入れてさ。アプリの利用料を取る代わりに、理想の恋人に付き合えるようにする。ただ、その恋人は外見だけ整えられ情報をインプットされただけのロボットだなんて、間抜けな地球人は気づかないってわけさ。」
「まさにヒャッパー(アプラプサ星語でカスタムの意)ってわけでやんすね。地球侵略の資金稼ぎにマッチングアプリを始めるって聞いたときはまじで焦ったでやんす。今はもうその手腕に恐れすら感じるでやんす!」
「ロボット自体はうちの星で格安のが手に入るから、アプリの利用料金だけでも採算は取れるし、あとはメールマガジンの配信料とか、結婚式の仲介料金とか適当なこと言えば、金はいくらでも引き出せるからちょろいもんだ。地球人は理想の恋人と付き合えるし、おれ達アプラプサ星人は地球侵略のための資金稼ぎができる。しかも、ロボットと子供はつくれないから少子化は進むし、人間が少ないほど侵略が簡単に進むってわけ。あー、おれ様才能ありすぎてこわい!」

皆さま、この度マッチングアプリ「ヒャッパー」は10億ダウンロードを突破いたしました。これからも皆さまのお幸せのお手伝いをさせていただきたく、精進していく所存でございます。どうぞ、末永くよろしくお願いします。

おまけの話
「ぐすっ、ぐすっ。えーん。町田くん、彼女できたんだって。絶対私の方が先に好きになったのにぃー。」
「まあまあ、実はとてつもなく金遣い荒いとか、モラハラ野郎とか、とにかくやばいやつだったかもしれないし、そんなに泣かないで。」
「さりげなく荷物もってくれたり、毎回挨拶してくれるような人がそんなわけないじゃーん。あやなちゃん、慰めるの下手すぎだよぉ。」
「てかこんなにかわいいサキの好意に気づかないことがまずダメ。私だったら、少しでも悲しい思いはさせないのにっ。」
「え?それって、どういう……?」
「え。あー、言うつもりなかったのに!私は、サキのこと、一人の女性として、恋愛的な意味で、好きなの!町田なんかと付き合うんだったら、私とつきあってください!」
「あやなちゃーん。ぐすっ。私あやなちゃんと同じ気持ちではないかもしれないけれど、あやなちゃんのことは誰よりも知ってるつもり。こんな私でよければ、その、お付き合いしてください。」
「サキー!うぅ、ありがとう、幸せにするからねぇ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
深夜二時、サキの失恋慰め会はあやなの告白によって幕を閉じた。翌日、大量の酒にも関わらず、記憶がしっかり残っていた二人はその後恋人として交際をはじめ、その後最期まで仲睦まじく過ごしたとさ。めでたしめでたし。