早稲田大学マスコミ研究会〜ぶんげい分科会〜

早稲田大学マスコミ研究会ぶんげい分科会です。ぶんげい分科会では、文芸作品を創作、公開していきます。

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早稲田大学マスコミ研究会ぶんげい分科会です。ぶんげい分科会では、文芸作品を創作、公開していきます。

最近の記事

【マスコミ研究会・企画×文芸小説】   台場編①「君の光は海の色」 作:すばる

企画概要  マスコミ研究会の分科会の垣根を超えたコラボ企画。今回は「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」企画(以下スケジューリング企画)とのコラボ小説を執筆。  スケジューリング企画では、「予定を立てるのが苦手」という悩みを解決すべく、事前に設定を考えた上で理想のスケジュールが実行可能か、体当たり取材を決行...!   一方の文芸分科会ではスケジューリング企画内で考えた「行先」と「行く人物の設定」を基にオリジナルの物語を考えた。  企画の内容は、フリ

    • 【マスコミ研究会・企画×文芸小説】   台場編②「散る」 作:平八郎

      企画概要  マスコミ研究会の分科会の垣根を超えたコラボ企画。今回は「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」企画(以下スケジューリング企画)とのコラボ小説を執筆。  スケジューリング企画内で考えた「行先」と「行く人物の設定」を基に文芸分科会がオリジナルの物語を考える。  設定された行先は「新宿」と「台場」。それぞれの場所で、どんな物語が生まれるのだろうか。マスコミ研究会の分科会の垣根を超えたコラボ企画。今回は「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングに

      • 【マスコミ研究会・企画×文芸小説】   新宿編①「再会」 作:雅哉

        企画概要  マスコミ研究会の分科会の垣根を超えたコラボ企画。今回は「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」企画(以下スケジューリング企画)とのコラボ小説を執筆。  スケジューリング企画では、「予定を立てるのが苦手」という悩みを解決すべく、事前に設定を考えた上で理想のスケジュールが実行可能か、体当たり取材を決行...!   一方の文芸分科会ではスケジューリング企画内で考えた「行先」と「行く人物の設定」を基にオリジナルの物語を考えた。  企画の内容は、フリ

        • 【マスコミ研究会・企画×文芸小説】   新宿編②「忘却」 作:きっこうまん

          企画概要  マスコミ研究会の分科会の垣根を超えたコラボ企画。今回は「君とのデート大作戦 ~もうスケジューリングには困らない~」企画(以下スケジューリング企画)とのコラボ小説を執筆。  スケジューリング企画では、「予定を立てるのが苦手」という悩みを解決すべく、事前に設定を考えた上で理想のスケジュールが実行可能か、体当たり取材を決行...!   一方の文芸分科会ではスケジューリング企画内で考えた「行先」と「行く人物の設定」を基にオリジナルの物語を考えた。  企画の内容は、フリ

          小説『石膏像の涙』(作:平八郎)

           美術準備室の奥にある石膏像の顔には傷跡がある。そんな噂のような都市伝説のようなものを初めて聞いたのは、私が高3になって少し経った時のことだった。 「1年の時の美術の授業で、友達を描くって課題があったの覚えてる?クラスの中で2人組になって、お互いの顔を描き合うってやつ。あれでたまたまクラスの人数が奇数だった年があって、一人だけ余っちゃった子がいたらしいんだよね。その時にその子だけ、人の顔じゃなくて石膏像を描くことにしたんだって」  有彩の芯の強い声は壁の絵の具に吸収されること

          小説『石膏像の涙』(作:平八郎)

          小説『夏みかん』(作:雅哉)

           僕は、あの子の素顔を見たことがない。あの忌々しいウイルスから僕たちを守るため、大人たちはマスクの着用を義務化した。だから僕は好きな女の子どころか同級生の顔もまともに見たことはない。不便かって言われたらそりゃ不便だけど、病気になりたくなければするしかないよね。コミュニケーションはもっぱら目の部分を見て。ただ人と目を合わせるのはなんだか気恥ずかしい。そんな状況だから、くしゃっと目を細めて軽やかに笑うあの子に、僕は強く惹かれた。あの子の笑顔をずっと見ていたいと思う。たとえマスクの

          小説『引き出しの中身』(作:こね)

           マスクに絵を描くのが好きだ。折り畳まれた不織布を丁寧に開き、折り目を指で潰しながらなぞる。鍵を開けてアクリル絵の具を取り出し紙パレットを一枚めくった。白くツルツルした表面を乾いた筆で撫でながら、何を描こうか夢想する。  傘の内側から見る今日の街は暗くて静かだった。色を奪った雨粒は木々の緑をより鮮やかに際立てて、僕のズボンをじっとりと濡らした。マスクの内側はひどくこもって、不織布が顔にまとわりついてくるようだった。くしゃみをしないように息を詰めて、帰り道を友達と歩いていた。僕

          小説『引き出しの中身』(作:こね)

          小説『名もないマスク』(作:雫)

           美術室の鍵はもう誰かに借りられていたらしい。自分だけの楽園に侵入者がいると思うと、私は美術室に行くのがとても億劫に感じられた。毎週木曜日の放課後に私が一人で美術室に籠っていることは、美術室の鍵を管理している根本先生しか知らない。学校内に特別仲がいい友達もいない私にとっては、毎週木曜日のこの時間が唯一の楽しみであった。これまで、放課後にわざわざ美術室に来るような物好きな人もいなかっただけに、いつもマスク越しでもわかるほど笑顔が眩しい根本先生が困った顔をしてきた時は心底驚いた。

          小説『名もないマスク』(作:雫)

          小説『頬から垂れた絵の具』 (作:京々)

           教室に入ろうとしたら、鍵がかかっていた。がちゃがちゃとドアを動かしていると、隣の教室に人が入るのが見える。あ、間違えた。  記念すべき初回授業が行われる教室に入ると、既にちらほらと人がいる。皆、私より地味な格好をしている。流石に大学デビューにかこつけて髪を真っ青に染めるのは早かったか。このクラスのメンバーとは週に何度も会うから、人間関係の形成にはちょうどいい。中高時代も初動が「クラスの立ち位置」を決めたから、早めにインスタを交換するのが大事だ。もちろん「#春から○○」も学部

          小説『頬から垂れた絵の具』 (作:京々)

          小説 『マッチングアプリ ヒャッパー』(作:雅哉)

           おれは今、人生で一番最高な時を過ごしている。大学入学から、苦節三年。やっとおれにも彼女ができたのだ。きっかけは、マッチングアプリを始めたことだった。マッチングアプリ「ヒャッパー」は、「一か月以内にあなたの理想の恋人に一〇〇パーセント出会える」がキャッチコピーで、実際その通りになっていると巷で話題になっている。大学生活も残りわずかとなったおれは恥を忍んでアプリを入手。理想の恋人像に関する質問に答えたのち、一週間後にはアプリが提案してくれた子と初対面。三回目のデートでめでたくお

          小説 『マッチングアプリ ヒャッパー』(作:雅哉)

          小説 『思い出の味は』(作:きっこうまん)

           もう20年前にもなる話だ。  俺の実家は中華料理屋だった。薄汚くて、5個しかないテーブルが油ぎって鈍く光っているような、どこにでもある小さい街の中華屋だった。「だった」というのは、再開発が決まって立ち退いたのを機に、親父が店をあっさりと閉めてしまったからだ。それだってきっとどこにでもある、なんでもない話だ。 「立ち退きってこんなに貰えるのな。」 と通帳を満面の笑みで眺める親父の顔が思い出された。その時、親父が店に何の愛着も持っていなかったんだと悟ってから、もう俺は無邪気に笑

          小説 『思い出の味は』(作:きっこうまん)

          小説 『花になった女』(作:いるかペンギン)

           花になりたい。それが彼女の夢だった。  幼い娘が美しい花弁に魅了され、自己を花に投影しているとしたら、それはまだ可愛げな話として理解が追いつく。しかし、来月に30を迎える人間が抱くような夢としては、いささか狂気的であると言っても過言ではない。  何も昔から、将来の夢が花になることだったのではない。ふとした瞬間に、頭の中に赤い花弁が浮かび、それが自分の求めていたものだと知ったのである。その赤い花というのは、まさしく彼岸花であった。なぜ彼岸花なのか。それはきっと、道端に咲いてい

          小説 『花になった女』(作:いるかペンギン)

          小説 『境』(作:こね)

           腹が減った。  我に返ったのが舞台上だったから最悪だ。慌ててプラスチック製の焼きたてパンを貪り食って取り繕う。舞台でのみ華やかに輝く銀色の食器を握り締め、何もない皿からスープを飲む。ぐうっと喉を動かして、俺はセリフを吐き出した。 「うまい……!」  巨大な黒い観客は音を吸う。密度の高い視線が次の演者へと移動した。硬い食品サンプルに顔を埋めるふりをして、息を吐く。どこもかしこも白飛びするほどの光を浴びて、視線からは逃げられない。薄くクラシックが流れている。何度も繰り返した風景

          小説 『危険な竿先』 

          「こうやって、釣り竿を上下に揺らすと釣れやすいよ。ほら。」  彼は私の釣り竿に手を添えてゆっくりと動かした。強く竿を握りしめている自分の手汗に触れないよう、さりげなく自分の右手を下にずらす。  幸い、彼は何も気づかず竿を動かし続けていた。『ありがとうございます』『不器用ですみません』自分が何か答えるべきだと分かっているのに、どれも不相応な気がして言葉に詰まってしまった。波の音が静寂の時間を引き延ばす。 「あ、まずい。」  やがて彼はパッと私の竿から手を離すと、コンクリートの

          小説 『とりとめのない秋の日の話』

           散歩をしよう、ということになった。ちょうど近くの公園のいちょうが見頃だから、ということで。  適当な服装を、適当な上着で隠して、適当な靴をひっかけて、外に出た。こうやって二人で並んで歩くのも、もう何回目かわからない。  大学3年のゼミで知り合って、ぽつぽつ連絡をとるようになって、二人でご飯に行くようになって、告白されて付き合い始めた。一般的な恋愛だなと思う。  卒業して、社会人として働き始めて1年。同居しようと言い出したのはどちらだったか。お互いの会社の真ん中のあたりのアパ

          小説 『とりとめのない秋の日の話』

          小説 『エゴイスティック』

          「好きよ」 ――どうして? 「どうしても」  彼女は僕に言い放つ。いつだって、どこまでも透き通ったことば。それが僕は怖かった。  いやだ。  その純粋が僕を貫くの。  いやだ。  彼女は僕の肩を後ろから抱き寄せるのが好きだった。すこやかにのびやかな腕は、僕のすべてを許しているみたいだった。でも、許されたい訳じゃないの。 「好きよ」 どうして彼女は、そんなことばをくれるのだろう。 「おまえがあたしを嫌いでも、好きよ」  そのことばと同じくらい透明な涙が頬を伝ったとき、僕ははじめ