読書の話
わたしは活字が苦手だ.
小中学生の頃は"朝読書"なる習慣があり,毎朝30分程度本を読まされていた.「読まされていた」と言ってしまうほどには自ら積極的に本を嗜むことは昔からしてこなかった.朝読書という文化がなくなった高校時代は本を借りるために図書室を利用したことは一度もなかった.
わたしの友人に読書が趣味の子がいる.彼女は大学時代の4年間,テレビのない生活を送りその代わりにたくさんの本を読んだという.
本を読むことが好きな彼女は言葉の選び方がきれいだ.そもそも優しい性格をしていることもあるだろうが,とにかく相手を不愉快にさせるような言葉を使ってこない.話していて心地良いと感じる.
わたしは自身の語彙力に自信がない.それ故にぽろっと口から出た言葉が意図せず相手を傷つけたり不快にさせてしまうような気がしてしまう.だからわたしは電話も嫌いだし,人と話すときは聞き役に回っている方が楽だ.
本が好きな友人と本を読まない自分には大きな差ができているように感じる.たくさんの言い回しを知り語彙力をつけることはわたしにとってプラスに働くはずだ.そう思い,半年ほど前に1冊の本を買ってみた.
クリープハイプというバンドが好きだということもあり,クリープハイプのボーカルを務める尾崎世界観が書いた"祐介"という本を買った.
わたしはクリープハイプの歌詞も好きだし,彼から生まれる活字たちもきっと好きになれると思った.しかし,未だに読み終えていない.
文字の大きさも大きい方だと思うし,ページ数もそれほど多いわけではない.ただ読み進められないのだ.
"祐介"では生々しく性的描写がされることが多々あり,尾崎世界観独特の言い回しによるその言葉たちがどうもわたしの手を止めるのだった.クリープハイプの音楽に乗せられたエロは好きでも,音がなく文字だけで表されたエロはどうも好きになれなかったようだ.
好きなアーティストが書く本すら読めないわたしにはやはり読書を趣味にするのは難しいのではないかと半ば諦めていた.祐介を半年前に買って以降,本を買うことなく7月も後半になっていた.
それがつい昨日,わたしは本を買ったのだ.
Amazonプライムでみた"劇場"が相当気に入ったわたしは原作を読みたくなった.バイトが終わってそのまま本屋へ行き"劇場"を買った.普段そういった本を買わないものだから探すのに少し時間がかかった.映画を公開している最中なのだから,目立つところに置いてあっても良かったのに,と思った.
内容をある程度知っているからなのか,又吉直樹が生む言葉が好みだからなのか,さくさく読み進められた.活字が苦手だったはずのわたしがすでに3分の2まで読み終えている.
本には映像がない分,自分の中で文字から風景を創り上げることが求められる.映画ではなかったシーンを自分の頭の中だけで山崎賢人と松岡茉優が演じている.ひょっとしたら読書が好きな人たちはこれを楽しんでいるのかもしれないと思った.
これがきっかけでわたしが読書を趣味にできるかと言えばそれは分からないが,少しだけ本を嗜めている自分を嬉しく思う.
劇場を読み終えたらまた1冊何か小説を買ってみようと思っている.
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