俺の生態学

俺は大学をサボってサイゼで氷結レモンを飲んでいた。この前サイゼに来たとき、外で安い氷結レモンを買って鞄に忍ばせておき、コップを自分でドリンクバーの横から持ってきて、飲めばいいのではないかと思い付いた。安い赤ワインでも頼んで店員が伝票を持ってきて、あの特徴的な筒に入れて、どっか行った後に鞄から取り出せば、堂々と飲んでいてもバレやしないと思った。しかし、結局俺はそんなことはせず、氷結レモンを注文した。2つで700円だ。こんな馬鹿馬鹿しいことがあるか?と思ったが、俺はそれ以上考えるのをやめた。俺はこれからもこの馬鹿げた購買行為を定期的に行うのだろう。

こんな具合に、他所で買えばもっと安いものに高い金額を払っていることに対する気だるい気分が自分の中に充満しているのを感じていたのだが、ふと嗅覚が俺の意識に不快感を訴えていることに気がついた。かすかに"あの"匂いがする。何でこんなところで、"あの"匂いがするのだろうと思ったが、同時に、俺が今座っている席は、サイゼの店内の席の中で、"あの"匂いを発生させる行為をするのに適しているとも思った。

なるべく意識を向けないようにしようと試みたが、そういう風に意識することこそが、より意識するということに他ならなかった。

俺は観念して、"あの"匂いを徹底的に意識し、名探偵よろしく推理を始めた。俺は、この空間が発する残り香のあまりの強さから推察して、決定的な証拠が足元にでも転がっているのではないかと思い至った。だが、念入りにテーブルの下を隈無く見渡したものの、それらしいものは見当たらなかった。それどころか、机の下に潜って、嗅覚を全力で働かせてみたが、むしろ"あの"匂いは弱まり、普通に姿勢を正して、席に座っていると、じわじわと鼻腔を"あの"匂いが満たした。

俺は手がかりが特になさそうだということがわかると、推理をやめた。名探偵が聞いて呆れる、諦めの早さだ。だが、俺は名探偵ではなく、ただのサボり大学生であり、仮に真実を解き明かしたところで、俺が氷結レモン2つに700円払った事実がどうにかなる訳でもない。

俺はサイゼを出て、本屋に立ち寄った。特に読みたい本はなかったが、相変わらず、東大・京大で一番読まれた"あの"著書に芸能人のコメントが書かれた帯が付いているなぁと思った。いつになったらこの帯は外れるのだろうか。俺は核戦争によって文明が崩壊したポストアポカリプスの日本の、かつて本屋だった場所でこの本が瓦礫に埋もれている光景を想像した。やっぱり帯が付いていた。

俺はさっきからあまり気分が良くないことに気がついていたが、本屋の中をウロウロしていると、突然立ちくらみがした。

「うっ…持病の文学大欠乏症か。」と俺は頭の中で呻き、本屋を出て、電車に乗って鞄の中に入っていた本を取り出して読んだ。さらに気分が悪くなり、何故か異常な空腹感に襲われた。

俺は練馬でラーメンを食べた。久しぶりに食べるラーメンは死ぬほど旨かった。胃は重くなったが、気分は多少良くなった。俺は家に帰ってすぐに死ぬほど寝た。

深夜に目が覚めた。こういう夜は死ぬほど退屈だ。何もすることがない。大学をサボるみたいに夜もサボりたいと思った。俺は最近こういう夜はホラーゲームの実況をYouTubeで見るようにしている。女性VTuberが家のリビングを探索しているときに突然悲鳴を上げた。俺はまだ全然ホラーパートじゃないと思っていたため完全に虚をつかれ、心臓がぽっぴんジャンプ♪した。どうやらソファーの上のクッションが生首に見えたらしかった。「見えんし。」と内心毒づいた。俺はいつも通り、これから本格的に怖くなりそうなところで見るのをやめて寝る。明け方には眠りにつけた。

翌朝、さらに体調が悪くなっていた。ダラダラとコーヒーとわかめスープを飲み、惣菜パンをしんどそうに食べた。もうすでに大学をサボろうとこの時には決断しており、さらにダラダラと髭を剃り、ついでに久しぶりに眉毛も整えることにした。いい感じに整って、結構気分がよくなった。「これなら普通に大学行けるな。」と思った。2限はダラダラ準備していたから、間に合いそうになかったため、3限から行くことにした。一緒に授業を受けている友人から「今日もサボりすか笑笑」とLINEが来たので、「3限から行きまーす」と返事をした。3限も普通にサボった。


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