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『馬』ショートショート

また恥ずかしげもなく自作の作品を投稿します。
30年近く前に書いたものです。
当初これを詩の形式で書こうかと思っていました。
でもショートショートのミステリーもしくはラブストーリーにしようと思いました。すべてモノローグで書いてしまい、なんかすべてに中途半端になってしまいました。ま、それはそれで自分の人生にふさわしいのかも
(^_^;

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『馬』



やぁ、お疲れさん、待ってたんだ。雪融け水で大変だったろう。
流石だね、ここまでひとりで登ってこられるんだから。
で、例のもの、あの雪渓の向こう側だ。ここにいても臭うだろ。
最初は俺、死んだ後に禿げワシかなにかに、体をついばまれたのかと思ったんだが、間違いだった。
あ、ごめん、ごめん、疲れてるだろ、こんな山奥だもんな。

まずは座って、あ、それ広げるとイスになる、そう。
いまコーヒー沸かすから、テントの中にあるから取ってくる、待ってて、
タバコはその缶の中。まぁ座ってて。 コーヒーおかわりどぉ、
タバコいいよまだあるから。で、一休みしたらあれをみてみないか、陽の高いうちに。あっ、急がなくていいよ、ゆっくり飲みなよ。
どう、研究室のみんな元気でやってる?
本当は、みんなに知らせるべきなんだけど、ものがものだからなぁフィールドワークの長い君に見せてからと思ったんだ。
彼とはうまくいってる? あっ、ごめん、別れたんだよな。ごめん。

まずは、歩きながら経過説明。最後に君に連絡したときは、まだ半分凍ってた。
で、一日半たった今、完全に融けちまった。あれを入れとく冷蔵庫も無いし、この馬鹿陽気だろ、お天当様のきまぐれ? あぁ、温室効果てやつね。
まったくいま何月だと思ってるんだ、あっ、そこ滑るよ、気をつけて。もうすぐだから。

あれは大体、そうだなぁ、5千年から1万年位前の氷河に閉じこめられていたと俺は思う。君の意見を聞きたい。
あっ、意見は現物を見てから、そうだよね。で、俺の意見ではあれはこの前、いきなり融けて大洪水を起こしたあの氷河の一部だったと思うね。
氷河があったのはそこの河の上流だし。解凍の仕方が悪かったね。
そ、急速解凍。融ける前は、かなり保存状態はよかったはず。
そのままで発見したかったね。 いままで調べて、解ったことは、まってね。
メモ出すからね。なに、なんか落ちた? お札だよ。いろんなもんと一緒くたにつっこむから、これでよく金をなくす。

んで、あれは馬です。奇蹄目ウマ科足の指でこれは確定。
奇蹄目の中でもバク科、サイ科とくらべて、他の身体的特徴から、あれは馬です。クアッハかマウンテンゼブラかと、最初おもったけど、年代的におかしいし、メソヒップス・・・多分それはないよなぁ、
からだの大きさが違う。ほとんど現在の馬と体長は同じだもんなぁ。
手持ちの顕微鏡で比較的腐敗の少ない皮膚組織を観察したんだが、あれはアルピノです。色素がほとんど無かったです。で、他の特徴はと、

あっ、ついたつきましたよ。


どう?凄いにおいでしょ。シートめくるからね。ちょっとさがってて。
あっ、ごめん、びっくりしたでしょ。この羽虫、蠅、すごいでしょ。
こればっかりはどうしょも無い。あっ、しゃがみこんでる、無理もないよなぁ、
このにおいじゃなぁ。おおい、大丈夫か。じゃないだろうな。いったん帰ろうか。
なにっ大丈夫だって・・・でも無理しないで。

だから手短に観察しよう。やはり骨格からみるとウマ科だと解るよね。
内蔵は液状になって、とっくに流れ出してる。眼球も同じ。そこが眼窩。
皮膚組織はほとんど崩れかかっている。はやめに採集しといてよかったよなぁ。
この馬が生きていたときは、このあたりはまだ緑の草原で、思い切り駆け回っていたんだろうな。
だから、歯は草食性のそれ。で性別は判定不能。
死亡原因は不明。この川辺に乗り上げなければ、きっと海まで流れていってしまっていた事だろう。

・・・最初に言ったろう、死んだ後、禿げワシに襲われたんじゃないかって、そう思わせたのがこれだ。
この馬の背中を見てくれ。これがこの馬の一番の特徴だ。
この馬は、全然別のものなんだ。
俺の手を握ってくれ。 今、君に言える。嘘じゃないんだ。
君が好きだ。
この馬がこれを言う勇気を、与えてくれたんだ。
さあ、この馬の背中をよく見てくれ。

素晴らしいじゃないか!!!

この馬の背中には翼がはえていたんだ!!!

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