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イベントレポート「生業としてのものづくり」プレゼン編

2021年10月にケーススタディスタジオ・BaBaBa(高田馬場)で開催されたEMARF初の展示会「EMARFでつくる新しい生業 -自分を解放するものづくり-」。そのクロージングイベントとして4名*の出展者をお招きし、「生業としてのものづくり」をテーマにトークセッションを行いました。*出展者は計9組

イベントレポート・前編では登壇者の方々に、これまでの活動を振り返っていただきながら出展作品についてプレゼンしていただきます。

💡EMARFとは
デスク、椅子、棚などの家具から建築まで、木製プロダクトのデザインからパーツの加工までがオンラインで完結されたプレカットサービスです。ニーズや好みに合わせた思い通りのオリジナル製品をボタンひとつで素早くカタチにできます。https://emarf.co/

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左から長岡勉(モデレーター)、藤田雄介、大西正紀、笠置秀紀、田邉雄之

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戸倉 展覧会の担当をしたVUILDの戸倉です。本日は、「生業としてのものづくり-プロダクト・建築・都市からみる自分でつくることの価値-」というテーマで、作品を出展していただいている4名の建築家やデザイナーをお招きし、トークしていきます。この後はモデレーターを務める長岡勉さんにお繋ぎします。

長岡 モデレーターを務める長岡です。僕はVUILDのメンバーとして活動しながら、POINTという設計事務所でも活動しています。VUILDに入ってからデジタルファブリケーションやEMARFに触れ、自分で自宅の家具を作ったりするようになりました。今日はプロアマ関係なくものづくりの喜びを共有したいと思い、出展している4名の方々と、広い意味でのものづくりやデザインを考えること、場づくりの可能性について話したいと思っています。早速、皆さんの活動について簡単にプレゼンをお願いします。

Camp Design / 戸戸 藤田雄介

藤田 Camp Designという設計事務所と、「戸戸」という建具のメーカーをやっている藤田と申します。設計事務所では主に団地やマンションのリノベーション、新築の戸建て住宅や集合住宅における建具や境界の設計を重視しています。

その活動から派生する形で「戸戸」では、職人さんや作家さんと共に建具や小さいドアノブ、レバーハンドルやつまみなどの木製建具にまつわる部品を制作し販売しています。それらの活動を通して、建築単体に収まらない都市的な広がりを作りたいと考え、建築設計と部品制作を両立しながら都市の境界を描くということを実践しています。

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▲木製のガラス引き戸や、布をDIY感覚で張り替えられる布框戸、布框戸の屏風バージョン、極限まで見つけ*を細くした木枠建具など。その他にも、時に伝統工芸の職人とコラボレーションすることで、陶器製や漆、藍染で仕上げたドアノブやつまみを作っている。それぞれプロジェクトごとにカスタマイズできる仕様にしているため、場所に合わせてアジャストさせていくことができる。*建具の正面からの寸法

これはCamp Designと戸戸のネットワーク図です。戸戸では基本的に作り手を明らかにしていて、設計、職人さんや作家さんによる生産、そして流通という3軸の体制をとっており、作り手(生産者)が持つ技術によって新しい部品が生まれたり、作り手が持つネットワークに繋がることで新しい技術に出会うというように、派生しながら商品を作っていく仕組みを育んでいます。建築は1つの敷地内で完結しますが、この円環が渦巻くことで敷地やプロジェクトの境界を越えたりする、そんな拡散性を持てるようなシステムを作ろうとしています。

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今回展示しているのは、合板を使った建具です。通常建具は枠材を組みそこにガラスをはめるのが一般的ですが、今回は合板をサンドイッチする工法を考案し、枠部分には溝を掘ることで本格的な建具の作りにしています。その上で、内側の形状はEMARFで自由に作ろうと考え、裏面のサンドイッチ部分が表から垣間見えるような形にしています。

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▲ガラスの代わりに、EMARFで加工したアクリルを使用(左)

今回はプロトタイプとしての位置付けだったため窓の形は自由に描いたのですが、将来的に製品化する際には、例えば、手書きのスケッチを線データ化して枠を作るというように、更に色々な展開ができればと思っています。以上です。

長岡 ありがとうございます。藤田さんは設計と製作、提供を一貫して事務所内で展開しているのが素晴らしいと思いました。

田邉 スタディでいくつか形があったと思いますが、今回展示しているデザインで作ろうと思った決め手はなんですか?

藤田 かわいいからという気軽な動機です(笑)。せっかくEMARFを使うので、普段自分で作ろうと思っても作れない形のデザインにしたかったということもあります。

田邉 確かに、自分で切ろうと思っても切れそうにないですもんね(笑)。

長岡 作りやすさとかわいさが合ったということですね。

グランドレベル・大西正紀

大西 ベンチプロジェクトを展示させていただいているグランドレベルの大西と申します。

グランドレベルは「1階づくりはまちづくり」を会社のモットーに、パートナーの田中元子が2016年に立ち上げた会社です。建物やまちの1階の在り方は、人々の生活の営みにさまざまな影響を与えます。だからこそ、建物も空地もまちも、1階の在り方を大切にしてデザインしていくことを目指しています。

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我々がプロジェクトを行う際は、案件ごとに最適な建築家さんをセレクトさせていただき、パートナーになっていただいて設計を進めます。ハードやソフトはもちろん、それらを取り持つオグルウェア(OGRWARE)という視点も大事にしています。「人がその場所でどれだけ能動的に活動できるか」ということは設計の微座で意外と変わるものなので、その場に立つ人とのコミュニケーションや、どういう態度でその場に臨むかという点も含めて、建築家と意見交換しながらデザインしていきます。

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「どんな人にも自由なくつろぎ」。これは、喫茶ランドリーという最初に手掛けたプロジェクトのコピーなのですが、この理念はどんなプロジェクトにおいても継承するようにしています。喫茶ランドリーのように全ての世代の人に開かれていて、誰もがやりたいことを気軽に実現できる場所を作ることを「理念のフランチャイズ」と呼んで、どのプロジェクトにも、その理念をインストールしていくことを目指しています。VUILDさんにご協力いただいた、渋谷キャストとの公開空地のプロジェクトや、末広町で進行中のちょっと変わった学習塾のプロジェクトも同様です。

このような活動をする一方で、ある日、日本にはベンチが少ないことに気づきました。海外に行くとたくさんのベンチを見かけます。調べてみるとベンチには色々な効用があり、ニューヨークでは数億円を投資して街にベンチを設置したり、コペンハーゲンではベンチのあることが日常化していたりすることがわかりました。にもかかわらず、様々な理由で日本には少ないのです。日本にもベンチを増やしていこうということで「JAPAN/TOKYO BENCH PROJECT」というものを立ち上げました。

プロジェクトの中でいくつかのベンチをデザインしてきましたが、これまでのものは重いものがほとんどでした。そこである時、もっとカジュアルなベンチが欲しいと思い、VUILDさんに連絡しました。すぐに「何でも作れますよ」とお返事をいただき、一気にプロジェクトが動き出しました。自分たちで作った模型を図面化していただき、ディテールを詰めながら、あっという間に出来ていくことに田中と強烈に感動したのを覚えています。

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そして誕生したのが、今僕が座ってる「マイパブリックベンチ」です。ベンチの基本的な構造は釘やネジを使わず、ダボだけでつくることができたり、背面や座面はどこでも購入できるような材にしたり、座面は鉛筆を1本分の間隔を開けてネジで止めていけば綺麗にディテールが収まる工夫がされていたりします。

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あと、ただ座るだけじゃなくデコレーションしたりして楽しんで欲しいという思いがあったので、引っかかりとなるような穴が空いていたり、後ろに突っ張り棒を入れたりして、アレンジされることも考えられています。

お家やお店の軒先でカジュアルに使っていただけるようなベンチに育っていって欲しいです。現在は鎌倉のまちづくりなどでも活用していただりしています。個人と近い関係にベンチということで、今後さまざまな使われ方がされていくことを期待しています。

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長岡 計画することと作ったものを実際に目にして話すことって、すごくギャップがあるじゃないですか。VUILDは工房にShopBotがあるから、その場で現物を作ることができる。現物が目の前にあると、そこで生まれるコミュニケーションにもリアリティが出てきて、話がすごくスムーズになります。全員が同じ意見にならなかったとしても、「なんとなく言ってることはわかるよね」みたいな感じで、ライブを共有したときの共感に似た感覚が生まれるんですよね。

笠置 人が警戒しない、非常にスタンダードな形になっているところが素晴らしいと思いました。スタンダードな形の中に穴があることによって、色々な拡張性があるというのも良いですよね。昔の自転車って金具でキャリアをつけたりとかしますが、それと似たような拡張性があるなと。

大西 読み取り方は人によって様々ですよね。他のプロジェクトでいつも感じることですが、僕らよりも一般の人の方が飛躍的に変なことを考えたりするんです。そういうものを引き出せるといいなという思いもあって、たとえばきっかけ作りのひとつとして色々なところに穴をあけました。

また、ベンチの形については、いつもできるだけ普通なデザインにしましょうと言っています。ベンチのデザインを奇抜にする風潮もあったりもしますが、ベンチのデザインはベンチ自体がいかに普通に「どうぞ」と言ってくれているかが大切です。その表情をどうデザインするか。そのことに重点を置いて今回も考えていきました。

長岡 グランドレベル(1階)という場所をフランチャイズ化したいというよりは、皆に開かれた場所をどう作るか、というベースにあるスタンスが、具体的な活動とセットになることで、多くの人に共感されていると思いますし、グランドレベルさんが大切にしている理念なんだと思いました。

小さな都市計画/ mi-ri meter・笠置秀紀

笠置 小さな都市計画の笠置です。展覧会では、今私が座っている「Mower Chair」という椅子を展示しています。

私自身は、mi-ri meterというユニットで2000年から活動しています。今はほとんどアートプロジェクトのようなことをやっていますが、元々は公共空間で「自分の場所」を作る活動をしていました。一方で、公共空間を使った社会実験や、あるいはプレスメイキングと言われるような潮流が始まったことに対して、社会実装できる組織を作りたいと考え、2014年に小さな都市計画という法人を作りました。

2000年から活動しているので一覧を見ると非常に散らかっていますが(笑)、主な軸として、mi-ri meterでは都市をリサーチしながら色々なプロジェクトを展開しています。そこからフィードバックを得ることで、小さな都市計画の活動ではコミッションワークとして社会に落とし込んでいき、更にその活動からもフィードバックを得ながら、次のmi-ri meterのプロジェクトを立ち上げる、という円環があります。

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一番最初の活動は、間取り柄のレジャーシートを渋谷のど真ん中に広げて自分の場所を作る「MADRIX」というプロジェクトです。当時は地べたリアンが多く、若者は腰が弱いだとか社会的には批判されていました。その一方で、「これだけニーズがあるじゃん」ということと、携帯電話をはじめとするパーソナルツールが増えてきていたこともあり、公共空間の感じ方が変わって来ていたため、自分は建築家だけど、プロダクトで都市を変えていきたいという思いから制作に至りました。

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▲渋谷や公開空き地にゲリラ的にシートを置いて展示したり、パッケージ化してプロダクトとして売り出した

そんな中、小さな都市計画でもプロジェクトを始めました。一番大きなものですと、歩行者空間を拡張して憩いの場にする「SHINJUKU STREET SEATS」(2017)があります。実際には、都市の中で流通をスムーズにさせるための荷捌きや駐車問題などの課題を解決する目的もありました。

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▲針葉樹合板をベースに、歩道のグリッドと同じ角度で回転するデザインを考えた

初年度は背もたれを付けることに難色を示す人もいましたが、徐々に背もたれをつけたり、丘を作ったりしていきました。すると、今度は寝転がる人が出始めたりして、都市のど真ん中で空を見る体験ができたりする。そんな仕掛けを作りました。

想定してない場所にカップルが座っていたりというように、ユーザーがその場所を読み込んで使い方をカスタマイズしている様子を見ると、設計者としては、自分の想定を逸脱してはいるけれど、非常に嬉しい瞬間が現れるという発見もありました。

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▲丘をベンチとして使う人や、寝転ぶ人

そして今回の展示では、「Mower Chair」という椅子を出展しています。5月1日、これが何の日かというと、長岡さんが企画したプロの家具/プロダクトデザイナー向けワークショップ「EMARF 3days Workshop for Pro」の初日です。

これは最初のスケッチなのですが、ラップトップで仕事をしたりお茶を飲んだりできるような可動式の椅子を作りたいと考え、それが草刈機をやっている人によく似ていたので、「Mower Chair」と名付けました。

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ワークショップはほとんどリモートで行われたのですが、参加デザイナーたちとZoomで話していると、プロからの鋭いツッコミがどしどし飛んできました(笑)。予期せぬことでしたがスケッチにリアルタイムで意見を書き込んでくれて、VUILDさんにも構造的な意見を頂いたりしながらブラッシュアップされていくという、大学生のような気分を味わいました。

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▲リモート通話を通して次々と意見が書き込まれていった

デザインのミソとしては、マウンテンバイクのハンドルやスケートボードのホイールを取り付けることで、移動できるようにした点です。実は美学的には僕はほとんどデザインしておらず、左側にテーブルをつけることと、移動できること、この2つを条件にする中で徐々にデザインを作っていく、というように、いつもと違う形の生成の仕方を経験をしました。以上です。

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長岡 戸倉さんをはじめとするEMARFチームの人たちは、思い立ったら30分ぐらいでモデリングして、30分で切り出して家具を作ることができるラピッドプロトタイピングというスキルを持っているんですよ。「勉さんもできなきゃダメだよ」と言われたりしながらも、それに比べると時間がかかるから悔しくて(笑)。なので、笠置さんがその場その場で対応して生み出す自由な構造形は素敵だなと思いましたし、その場の空気感を楽しませて頂きました。

笠置 普段DIYをしていると、簡単な図面を書いて、作りながらその場で考えていったりというように、細かいところを決めずにやっていくモノとの対話のような時間があります。都市や物質との関わり方はいつも考えながらやっているので、今回はそれがうまく働いたというか、3Dの中だけで考えたものがアウトプットするところまでいけるというものづくりは、反射神経でやっていく感覚がありました。

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▲EMARFの入稿画面。ちょうど合板1枚に収まった

長岡 「反射神経」というのは今回のキーワードのひとつでもあると思いました。話は変わりますが、大西さんたちはわかりやすいベンチを作ることで、誰もが気軽に座れて、かつそこで自由な振る舞いが起きるものを作っていますよね。一方で、笠置さんは、都市にある人の行儀の悪さも含めて、人が自由でアグレッシブになる機会を与えている気がしています。

パブリックな場所における若者の振る舞いって行儀が悪いんですけど、その行儀の悪さが持っている自由さって魅力的なんですよね。笠置さんはこれまでかなりやんちゃなことをしてきているけど、いい意味で人を行儀悪くするアグレッシブさがあって、微笑ましかったり楽しく見えるんです。つまりそれは人が潜在的に持っている能動性にスイッチをかけるということだと思うのですが、お2人のプレゼンを聞いて、一緒になにかやると掛け算があって面白いのではと思いました。

大西 僕らは、mi-ri meterさんの活動は初期の頃からウォッチさせていただいていて、共感することがいつも大きいです。だから、モノのデザインに対して人間がどう反応するか、動くかということに対する興奮も、きっと私たちと似ているんだろうなと思ってます。

先ほど「ベンチはベンチらしければいい」という話をしましたが、一方で、海外ではベンチのようなデザインにしない“座るための何か”が大切にされていたりもします。笠置さんの「SHINJUKU STREET SEATS」って、これですよね。得体が知れないけども、愛くるしいからから近づいてしまう。その上で人が自然と反応しておのおのに過ごしはじめる。非常に都市的で、最高なデザインだと思いました。

藤田 飛び出しを付けず設計したあえてのデザインが、使い手によって予想外に変換されるということが先ほど見せていただいたカップルの写真では起こっていますよね。

これまで沢山の建築家が外部の空間をハックしたり、居場所を作るために活動してきたと思いますが、コロナ禍を通してこれまでくすぶっていた人々が外部の良さを見出して、自然に外で振る舞ったり屋外を楽しむ人が増えてきたということはすごく感慨深いことだと感じています。笠置さんが20年以上前から実践されてきたということも素晴らしいと思いますし、これからもっと良い使われ方がするだろうなと思いました。

田邉雄之建築設計・田邉雄之

田邉 田邉雄之建築設計の田邉です。今回展示しているものに繋がるような話から始めます。

これは、20年ほど前に修士設計で作った羽田空港の模型です。敷地部分はアルミをレーザーカットで加工しているのですが、当時すでに働いていて時間がなかったこともあり、外注すればパーツは作れるだろうという考えがありました。

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長岡 学生の手口じゃないですね(笑)。
 
田邉 そうそう(笑)。当時は武蔵小山に住んでおり、近所にいた町工場のおじさんに「こういうの作ってよ」とお願いしました。鉄は重さで換算されるので、鉄板の加工であれば数千円で加工してもらえます。20年前にはデジファブという言葉はありませんでしたが、当時すでに、鉄はレーザーで、しかも安く加工できるということがわかっていました。

これは、2005年に受託した住宅の仕事です。予算が厳しく家具にコストを掛けられなかったので、それなら自分で作ろうと思い、鉄工所でフレームを組んでもらったりしました。この時にまた、自分で作ればキッチンなどの作り付け家具がすごく安くできてしまうことを知りました。

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今回展示している「hair atelier bruno」という熱海の美容室の話に移ります。もともとはインテリアの依頼でしたが、ビルのオーナーさんがエクステリアもやって良いと仰ってくださったので、ランドスケープデザイナーのhondaGREENさんが命名した、木杭で作る「クウキベイ」を採用し外に並べています。僕自身、なんとなく領域を分けることに興味があったので、外に並べた空気塀が中までズルズルと入っていくといいなという思いが起点になりました。

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今回EMARFで加工していただいたのは、カット台やベンチです。手作業の場合、自由な形は原寸図でしか加工できませんが、EMARFの場合はデータで入稿するので、レーザーカッターで加工したアルミ部分とぴったり同じ値で作ることができました。

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このベンチは、厚み30mmの集成材を2枚重ねています。集成材は精度が良いとはいえ厚みがあるので、重ねると少しの隙間は出来ますが、これも手でやると難しいんです。この辺の繋ぎの部分は、曲がり方や強度を見たかったのでいくつか試作しました。

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「これは作れる」と一度思ってしまうと徹底的にやりたいし、その方が安いということを知っているので、小さいパーツまで作ってしまおうと。違うところに発注しても、データなのでぴったりはまるということが今回の面白さでした。

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▲アルミ板をパタンと折って作った留め具。インパクトを打てるように真ん中に穴を開けている

長岡 自由に楽しそうに制作されていて、羨ましいです(笑)。「hair atelier bruno」は凄く良い精度でできたいうことですね?

田邉 はい。集成材を使ったのが精度良く出来たポイントだと思います。ただ、EMARFで切り出していただいたベンチは孔をキチキチで作ってしまい、梅雨時期で木材が膨らんだこともあり、棒を通すのが大変でした。スタッフが「手の皮剥けながらやすった」と言っていたので(笑)、もう少しクリアランスを取るべきだったと感じました。

長岡 やはりこれだけのパーツ数を差し込むとなると、クリアランスが難しいですし、クレームになってしまうこともあります。その点、田邉さんはモックアップをいくつか作られたということで、かなり手練れだなと思いました。

ものづくりにおいて重要なのは、一度試作したものを検証してフィードバックすることだと感じています。EMARFチームのメンバーもラピッドにモックアップを作ったりしていて、少しやりすぎじゃないかと思ったりすることもありますが(笑)、確かに、精度の良さを過信して試作をしないと当然どこかで狂うんですよね。ものづくりする際は、試作を通して起きたエラーに対して調整していく必要がある、ということを認識することも重要だと思います。

そういうことも含めて、自分たちでやすりまくったり何事もなかったように楽しんだりするという、作ることの大変さに対する許容値とおおらかは、ものづくりにおいてポイントのひとつだと感じました。その点田邉さんはしれっとやっていて、しかも大変そうに見せずにやっていることに凄さを感じます。

藤田 田邉さんは経験値が高いというか、プロとしての経験の深さがありますよね。僕はShopBotを動かすことも含めてEMARFを使うのは初めてでしたが、それらのツールを最大限に生かすためのポイントをいかに掴むかが大事だと感じました。作る工程には自分で手を動かさないといけない部分がもちろんありますし、機械だけで作品が完成するわけではないということです。つまりは、好きにカットしてくれる凄く便利な機械だなと(笑)。

長岡 そうそう。文句言わずに黙ってね。

藤田 精度は高いし溝も掘れるし、アクリルも切れるし、みたいな。でもそれだけでは建具も家具もできないので、それをどう生かすかという点では、田邉さんのように経験値が必要ですよね。

その一方で、建築の仕事をされていない方にとっては、それとはまた異なる、しがらみのない発想を生かせるツールだと思いました。今回僕は組み立て時にボンドを使ったりもしましたが、楔(くさび)を使ったりするのも方法としてはアリですよね。EMARFにプラスアルファの使い方として、それぞれのアイデアが生きてくるんじゃないかなと思います。

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プレゼン形式でお届けしたイベントレポート・前編。後編のディスカッション編では、本展覧会のテーマにもなっている「生業」と「ものづくり」の関係とその価値についての熱い議論をお届けします。お楽しみに!

▼会場となったBABABAのWEBで公開されているイベントレポートはこちら