プロジェクトをスケールアップさせる鍵とは?〜ソーシャルなものづくりで学生の枠を超えていく2人〜 EMARF学生アンバサダー紹介vol.4
VUILDがローンチした日本初のクラウドプレカットサービス「EMARF」を使い、「ものづくりの文化を広げる」とともに、「学生ひとりを独立した企業家に育てる」ことを狙いに3ヶ月に渡り活動するEMARF学生アンバサダー。7月頭にスタートをきってから、2ヶ月が経過しました。
7月末には月次報告会を終え、残り2ヶ月の活動予定をメンバー同士で共有。活動期間残り1ヶ月を残した今、このnoteでは、多くの応募のなかから選出された10組のアンバサダーの方々にインタビューを実施し、応募当時の思いと、これまでの活動、そして今後の活動予定について伺いました。
第四弾は、想定外の出来事も設計と施工を繰り返しながら前に進む小西隆仁さんと、より広い視点を得るために周囲を巻き込んでコミュニティを広げていく様子が印象的な杉山真道さんのインタビューをお届けします。
設計と施工の反復、その繰り返しを楽しみながら前に進む 小西隆仁
ー 大学で学んでいることを教えてください。
東京藝術大学大学院の建築設計の分野で、藤村龍至研究室に所属しています。主な研究内容は意匠設計で、集団での設計プロセスや実施設計、また、ニュータウンに入って町づくりに参画したりしています。
実は昨年から海外留学をしていたのですが、新型コロナウイルスの影響で中断せざるをえなくなったため、今年の春に帰国しました。今は、研究室のプロジェクトで関わりのあった埼玉県の鳩山ニュータウンというところで修士設計などの制作を進めたいと思ったことをきっかけに、4月から学生シェアハウスに居住しています。
鳩山町は高齢化と同時に空き家が問題になっているのですが、僕が入居したシェアハウスは、そのうちの一つを改修してできた鳩山町初の国際学生シェアハウスです。入居者には若い力で多様性を生んだり、まちづくりに貢献することが求められています。また、住みながら町の中心の公共施設「鳩山町コミュニティ・マルシェ」で活動するというのが居住条件となっており、現在はバックグラウンドが全く異なる学生計3名が入居しています。
ー アンバサダーに応募したきっかけを教えてください。
アンバサダーに応募したのは、もともとコンピューターを使用することで設計と施工が自分の手の中で完結していくデジタルファブリケーションに興味があったことがきっかけになっています。それを大きな規模で行っているVUILDのEMARF3.0は、自分の関心にとても近く、βテストにも参加していたこともあり、参加するしかないと思い応募しました。
ー 7月に制作したものを教えてください。
シェアハウスのワンルームのための机を製作しました。スーツケース1つでここに引越して来たので部屋にはベッドしかなく、家具を調達する必要がありました。シェアハウスということで、1人でつくるのではなく人を巻き込みながらつくった方が楽しくなると思ったので、同じく建築を学んでいる同居人と「自分の机をつくりたいんだけど」という雑談からはじめ、模型を交えて意見交換をしながら設計初期の段階から相談していました。また、建築を学んでいない同居人にもヤスリがけを手伝ってもらったりと、つくる楽しさを共有しながら製作しました。
面白かったのは、意見交換の中で「より大きなテーマを掲げて建築として設計してみたらどうか」という声があり、最終的に“コロナ禍におけるワンルームの空間の分節” がテーマになったことです。
一般的には壁などの間仕切りを用いて部屋を分節することで空間に違いを生みますが、狭い部屋では無理があります。そこで、壁との向き合い方に注目しました。角度を振ることで様々なふるまいが生まれ、それだけで空間に変化を与えることが出来るのではないかと考えて設計しました。1人でやっていたら自分の欲求だけを詰め込んだものになっていたと思いますが、他者と話しあうことで設計が前に進んだ実感があります。
ー 話し合いの中でEMARFはどんな働きをしましたか?
「ShopBotがある他の工房で発注するのと何が違うの?」という意見がありましたが、僕としては、モデリング(Rhinoceros上)でつくったものをすぐ見積もることができ、その結果をまたすぐにフィードバックして、設計を次々と前に進められる作業の回転の早さがとても良いと思っています。
また、EMARF専用のプラグインが使えることでより設計や施工の課題も解決しやすくなるという話をしました。さらに、設計段階であえてプラグインを使う時と使わない時で違いを明確にするということを実験的に行うことで、設計から施工まで一連の流れを意識した設計を行うことができました。
ー 机を組み立ててみてどうでしたか?
思ったよりも時間がかかってしまい大変でした。(ヤスリの)粒度100番で削って滑らかにした後、塗装のために400番で削ってクリアのニスを塗装。乾かして、2度塗りしてまた乾かす、など、理想に近づけるために多くの工程が発生しました。また、組み立てようとすると部材同士がはまらず、また削ったり・・など、想定していたよりも時間がかかりました。僕自身、設計と製作をどちらもできるのはメリットだと思ってるのですが、両方やると当たり前に時間がかかるということを実感しました。
ー 手間や想定外のことを楽しめる人と楽しめないひとがいると思うのですが、小西さんの場合はどうでしたか?
エラーをどう克服するかというのは楽しいと思っていて、ある種「失敗を許容する」ということが大事になってくる思います。以前レーザーカッター等のデジファブツールを使ったことがあるのでその経験から、いくらコンピューターが正確に切れるとしても木材によって違いがあることや、湿度によって膨張したりするということを知っていました。その点はどうしてもシミュレーションしきれる部分ではないので、その都度、これらのエラーをどうフィードバックして乗り越えるかのようなことを考えるのは楽しいなと思っています。
ー 8月の活動について教えてください。
もともと鳩山町で人を巻き込んで活動がしたいと思っていたこともあり、8月は移動式屋台ような什器をつくっています。シェアハウスの同居人と、その什器を引き歩いて町の人とコミュニケーションをとるプロジェクトを企てているところです。
具体的な内容としては、移動式のマルシェような活動を企てていて、積極的な住民のエネルギーをこの什器、このプラットフォームによって受け付けて運び、また別の場所に届ける、こうしたことを繰り返すことで町全体のネットワークを繋いでいくことを狙いとしたプロジェクトです。
このプロジェクトは、実際に町に住むことでわかってきたことをまとめ、フィールドワークをし、提案に至りました。自分たちの提案を町の方々など、たくさんの方にプレゼンテーションしながら前に進めています。設計物だけを設計するだけで終わることなく、実際にこの什器と共に町で活動していくために、どういった物であれば販売や交換といった行為が可能か、公園や道路などの公共空間を使用するのにどういった許可を取る必要があるかなど、様々な機関や役場等にも実際に確認をとりながら進めています。
今回は、什器の木部を出力するためにEMARFを用いています。ホームセンターでも切り出せるような合板をEMARFで切るか否かという議論もあったのですが、EMARFを使うことで(ホームセンターよりも)自由な形状がより正確に切り出せるということ、7月の机制作を前例に納期の早さも見込めたこと、さらに出力確認の素早さなどが利点であると話し合いの中で整理をして、結果的にEMARFで切り出すことになりました。今後、一般的な設計や施工の中で、自然に「EMARFを使おう」という流れになるようなイメージを肌で感じたような気がしています。
ー EMARFアンバサダープログラムの前半を終えた感想を教えてください。
プログラムに参加することでものを作れる環境にいるということが素直に嬉しいのと同時に、1ヶ月に1つ作らなければいけないという状況も僕にとっては嬉しいことです(笑)。ちょうどシェアハウスに引っ越したタイミングとプログラムが重なったので、「EMARFを使えばこれができる」という考え方と経験が積み重なっていくのを実感しています。勢いとしては月1つ以上つくりたいと思っていたのですが、意外と時間がかかることがわかったので、最低月1つはつくることを目標に頑張っています。
2ヶ月のプログラムを経てEMARFの使用感について欲を言うと、EMARFは自動でネスティングしてくれますが、その配置を自分でいじることができるような自由度も欲しいと思いました。例えばレーザーカッターではレーザーの強さなどの細かい調整を自分ですることができ、僕自身はその操作感も楽しんでいた方なので、その辺も自分で調整できるようなオプションがあったらもっと楽しくなる気がします。
ー 昔からものづくりする機会はありましたか?
実施設計などで手を動かす機会はありましたが、自分のために家具をつくるのははじめてです。というのも車を持っていないこともあり、ホームセンターなどに材料調達に行くことが難しく、「何かを作ろう!」と思ってもその手段がありませんでした。
そのため、自宅まで届けてくれる「EMARF3.0」のサービスにはとても期待していました。コロナウイルスの影響で動きづらいというのが重なったこともあり、オンラインで発注できて、材料の調達がしにくい場所まで部材を送ってくれるなら「めちゃ助かる!」と(笑)。EMARFによって運搬や材料調達のハードルが下がっているので、今後は自分でつくろうと思えるものが増えてくると感じています。
ー ものづくりが好きという人の中でも、どのプロセスが好きかは人によって違いますよね。
自分はものづくりにおいて苦手なプロセスがなく全てのプロセスが好きな方ではあるのですが、一方で、純粋なものづくりのプロセス(例えばデザインや設計、組み立て)以外にかかってくる材料調達などの手間はなるべく省きたいと常々思っています。そのため、EMARFは材料調達や運搬、見積もり、最近ではバリ取りや表面加工などがパッケージングされているので、自分にとってありがたいプログラムなのは間違いないですね(笑)。
ー 9月の活動予定を教えてください。
自分がこれまで鳩山町での生活で築いてきたネットワークを生かして何か作りたいと思っていて、現段階では、鳩山町の住民の方々から何かしらの制作依頼を受けてものづくりすることが決まっています。
ー プログラム終了後の予定は何か決まっていますか?
EMARFアンバサダーとしての活動を含め、現在鳩山町で進めているものが修士制作になる予定です。プログラムが終了した後も制作は続き、EMARFを利用する機会もあると思います。EMARFアンバサダーでの経験活かしながら、これからも精一杯活動できればと思っています。
▶︎7月に製作した机について小西さんがnoteでまとめています。
「【EMARF】ワンルームの中に多様なふるまいを生む家具 設計編」
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次は、「例え迷惑になり得ても周りの人を巻き込むことでなにか得ることができる」と語ってくれた杉山真道さんのものづくりをご紹介します。
周囲を巻き込むことがより広い視点でのものづくりに繋がっていく 杉山真道
ー 大学で学んでいることとアンバサダーに応募したきっかけを教えてください。
芝浦工業大学の建築学部でトムへネガン研究室に所属している杉山です。これまでデジタルファブリケーションは大学にとっても僕にとっても身近な存在ではありませんでしたが、大学で今夏からShopBotの導入が検討されていることとEMARFアンバサダーの募集が重なったこともあり、デジファブによるものづくりに興味を持つようになり応募しました。
また研究室以外の活動として、芝浦工業大学内の学生プロジェクト(学生が新しいチームを組み、それぞれ企画・実行していく活動に対し、大学が資金援助をするというもの)の一つである「富浦プロジェクト」に所属しています。これまでの活動としては、子供がデザインを考えるワークショップ型の竹灯籠祭を企画したり、原岡桟橋周辺に設置されるベンチを制作しました。
子供がデザインを考えるワークショップ型竹灯籠祭(左)、原岡桟橋周辺のベンチ制作
ー 7月に制作したものを教えてください。
実家の父のために本棚を制作しました。父は本が大好きでよく大量の本を借りてくるのですが、いつも無造作に置いてあるだけなのでそれをかっこよく収納できないかなと思い本棚の制作に至りました。木と針金を使った可変式のカスタムできる仕様になっており、昔から家にある地球儀や12時ちょうどで止まった時計も一緒にディスプレイできるようにデザインしています。
ー プロジェクト内容をお父さんに話したときの反応はどうでしたか?
父には特に何も言われませんでしたが、その一方で、母は自分のものを考えるかのように色々と提案してくれました。その結果、本棚としての用途だけでなく他の小物を置けるような仕様に変更したり、もともとはワッフル状のデザインになる予定だった箇所が針金を使うことになったりと、デザインに変更がありました。
ー 8月の活動について教えてください。
学生プロジェクトのメンバーに、リノベする学生団体「DaBo」に所属している後輩がいたのですが、その学生団体はもともと一軒家を施工しながらデジファブを使ってなにか空間表現ができないかと計画していたそうです。その話を後輩から聞いていたので、僕も8月からDaBoのプロジェクトにジョインしています。
一軒家改修でEMARFを活用する箇所は、2Fにある6畳の畳空間です。その畳空間は団体メンバー用の部屋になる予定なので、そこと廊下を分ける間仕切りを制作しています。
一軒家の改修後はDaBoのメンバーが使えるアトリエとして機能し、その後は賃貸として使われていきます。そのため改修のテーマとして、“人が変わっても成り立つデザイン”や、 “たたみを生かした和風デザイン”などを検討しています。9月の1週目に2回目となるのモックアップを作り、20日には発注する想定です。
ー 一軒家改修プロジェクトの他に進める予定のものはありますか?
秋吉さんのアドバイスもあり、一軒家改修と並行して一軒家内に置く家具をリノベーション団体の学生と一緒にデザインしていこうと考えています。施工と設計を同時進行していく最終月になると思います。
ー 今回EMARFを使ってみてどうでしたか?
EMARFを使ってみて、ものをつくる権利を与えられたような気がしています。これまでは生活環境のちょっとした不便さを解消することや、家具配置を動かすことに対するモチベーションはあまり高くありませんでした。ですが、ものをつくるという行為とオンラインで発注して部材が届くというサービスが頭の中でつながったときに、今の生活の中で何が不便なのだろうかと自分の環境に改めて目を向けるきっかけになりました。EMARFにより簡単にものづくりができるようになったことで、自分の視点が変化していることに気がつきました。
ー EMARFアンバサダープログラムの前半を終えた感想を教えてください。
所属している研究室で意匠デザインを研究していることもあり、これまではかたちを先行して考えることが多かったのですが、EMARFで身近なものをつくる際には「どうやったらこれがつくれるんだろう」という構造的観点も大事な要素になってきます。もちろん建築でもこの視点は大切ですが、見過ごしていたものに気が付くきっかけになりました。
ー プログラム終了後の予定は何か決まっていますか?
今回このプログラムを通して学んだノウハウを、芝浦工業大学の学生プロジェクトに持ち帰りたいと思っています。また、他のアンバサダーの方がEMARFを使って卒業設計を行っているのを見て、自分も何らかのかたちでEMARFを研究に活用したいです。これまで大学の設計課題では模型で止まっていたので、構造面の一部をモックアップでつくるなど実寸大をつくることを視野に入れたいと思っています。
また、なんの肩書きのない個人であっても、例え迷惑になり得ても周りの人を巻き込むことでなにか得ることができると常に意識して動いているので、大学外での活動にもさらに力を入れていきたいと思っています。