イベントレポート「生業としてのものづくり」ディスカッション編
2021年10月にケーススタディスタジオ・BaBaBa(高田馬場)で開催されたEMARF初の展示会「EMARFでつくる新しい生業 -自分を解放するものづくり-」。そのクロージングイベントとして4名*の出展者をお招きし、「生業としてのものづくり」をテーマにトークセッションを行いました。*出展者は計9組
イベントレポート・後編では、本展覧会のテーマにもなっている「生業」と「ものづくり」の関係とその価値について、多角的な視点からディスカッションしていきます。
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💡EMARFとは
デスク、椅子、棚などの家具から建築まで、木製プロダクトのデザインからパーツの加工までがオンラインで完結されたプレカットサービスです。ニーズや好みに合わせた思い通りのオリジナル製品をボタンひとつで素早くカタチにできます。https://emarf.co/
愛情の裏返し?仕上げ工程との向き合い方
長岡 皆さんのお話を聞き、有機的な形に対する「頑張ってヤスらないといけない問題」が個人的に気になっています(笑)。EMARFを使うと思わず曲線を使ってデザインしたくなりますが、直線のものに比べ滑らかな曲面は人に「触れたい」と思わせる力を持っているため、しっかり研磨しないといけないんですよね。
ワークショップなどで見ていると、皆さん愛情を込めて黙々と研磨しています。他人事だったら「いいよね」と言えるけど、自分でヤスるとなると結構しんどいというか。
もしかすると僕自身、根本ではDIYに向いてない人間なのかもしれませんが(笑)、そこに向き合えない僕はモノに対して愛情がないのだろうかというトラウマから、普段は研磨好きなふりをしているというジレンマがあります。今日公の場でカミングアウトしてしまいましたが(笑)、皆さんは作ったものを仕上げる工程に対してどのように取り組んでますか?
田邉 EMARFさんって、有料オプションで仕上げを選べるんですよね。今回僕はケチって選ばなかったのですが、時間もない中でいざ大きいベンチをヤスるとなったときに、頼んでおけばよかったと思いました(笑)。
長岡 一度自分で経験すると、誰かにやってもらうときに感謝の気持ちが芽生えるよね(笑)。デザイナー視点で発注だけしていると、研磨してもらうのが当然というか。自分でやると、その大変さも含めておおらかになるというのが今の正直な気持ちではあります。
藤田 勉さんみたいなトラウマはありませんが、僕自身研磨は大好きです。ただ建具の場合は、1〜2mm違うだけで結構ずれてしまうので、内側の滑らかな部分はひたすら気持ちよくヤスりましたが、外側はやりすぎるとガタついてしまうという(笑)。
大西 タスクになってしまうと辛いですよね。VUILDさんとベンチを作った際に、「これまでものづくりに触れてこなかった人もEMARFを使い始めるような世界になったらいいですよね」と話していましたが、それって例えば、編み物楽しんでいる人たちの感覚と似ているんじゃないかと思います。だから、仕事じゃないんですよね。そういう編み物を楽しむような感覚で磨ければ楽しいんじゃないかな(笑)。
長岡 編み物やる感覚で、「よしよし」的なね(笑)。笠置さんはどうですか?
笠置 親父の仕事が塗装関係で、磨きは必ずハンドサンダーを使えと教わってきたこともあり、大変だった記憶があります。最近はNTドレッサーとスポンジサンダーをよく使います。長岡さんにもオススメします(笑)。最終的には塗装した後に研磨して、ツルツル感を出すというのが良いのではないでしょうか(笑)。
長岡 やっぱり磨きに込める愛情や思いってありますし、皆さんの話を聞いて、磨くという工程に改めて向き合いたいと思いました。
「生業」と「ものづくり」の関係とその価値
長岡 ニッチなディテールの話になってしまいましたが、今回の「ものづくりと生業」というお題に話を戻したいと思います。戸倉さん、このテーマについて少し説明をお願いします。
戸倉 本来「生業」とは、生きるために銭を稼ぐという意味だと思うのですが、それを建築やプロダクト、都市などの多角的な視点から考えた時に、EMARFを一つのツールとして捉え、身体を拡張してラピッドにモノを作るという行為はどのように考えられると思いますか?その可能性について話を伺えればと思います。
長岡 こうしたらもっと楽しく使えそうという提案や、こうなったらいいよねというご意見も含めて伺いたいです。
藤田 建築を作るときって色々なファクターの調整業務なので、しんどい部分が結構多いじゃないですか。そういうものから解き放たれているときの楽しさは、今回純粋に感じたことのひとつです。ものづくりって普通に楽しい、みたいな。
長岡 建築家の告白みたいになっていますが(笑)。
大西 EMARFに初めて触れたときの興奮やライブ感は、体験した人にしかわからないことですよね。一度体験すると一瞬にして、「みんなやってみればいいのに」と思うくらいには楽しい!
もしこの感覚を世界中の人が体験できるチャンスがあったら、普段目にする家具や欲しいと思っているものに対して今までと違う思考になると思うし、そこから生活が豊かになったり、チャレンジするということに繋がっていくと思いました。今回作ったベンチに関しても、これが完成形ではなく、ここからより広がりを見せることができたらいいなと思っています。
長岡 今回の展示では、スケッチしてもらってその場で作る「カタチラボ」というアクティビティを用意することで、体験のリアリティをわかりやすく感じてもらえたかなと感じています。
EMARFの魅力は実際に体験してもらうことで広がっていくと思うのですが、草の根的な活動でファンを広げていく以外に、どういうことができると思いますか?
笠置 藤田さんの、「仕事がしんどい」という話がありましたが、それって、色々なクライアントワークがある忙しさの中で、なかなか実験ができなくなっている状況から来ていることだと思うんです。でもお客さんは「商品」として購入しているから、もしそこに認識の齟齬があるとクレームの対象になりかねないんですよね。
だから、研磨作業も含めて実際につくるという体験をしてみると、お客さんとしてではなく、ユーザー、そしてクライアントとしてすごく成長すると思います。
ゼロからEMARFを使ってみるということじゃなくても、例えば建築家と一緒何かやってみるとか。そういう体験をすることで、仕事の質が=「仕事」ではなく=「生業」になっていく。本当に自然な活動の集合として、ものづくりが一般化するのではないかと思いました。
田邉 建築に対して、自分で作ることと任せることの間を行ったり来たりしているなと感じています。任せる際には、選ぶという作業がどんどん増えていき、カタログの寄せ集めになっていく。僕はそこに息苦しさを感じたときに、「やっぱり自分で作りたい」と感じますが、実際に作り込むと、身体的にはキツイなとも感じるんですよね(笑)。
そこで、EMARFはそのキツさを和らげてくれるツールなのかなと思っています。今回の美容室の場合は「セミDIY」と呼んでいるますが、昔はジグソーで切らなくてはいけなかったものを今はEMARFが代わりにやってくれるから、その分楽になった。
「やらなくてはいけない」という部分をEMARFがやってくれるし、値段もすぐにわかるので、その辺のハードルが下がったのはとても良かったと感じています。
長岡 楽になるということはつまり、負担が1つ減るということ。そして、負担が減るということは、楽しかったり、作ること自体を楽しめるということに繋がっていくということですよね。
田邉 はい。凄くキツかったという思い出よりは、また次もやろうかなと思えるような。
長岡 話がまとまってきたところで申し訳ないのですが(笑)、最後に、EMARFは皆さんに使ってもらうことでより良いサービスになっていくと思うので、改善してほしい点やこうなればより使いたくなる、というようなご意見があればぜひいただきたいです。
藤田 先ほども話にありましたが、EMARFを使う中では、自分で手を動かす部分も割とあるので、自由に手を動かせる場所があるといいなと思いました。切って送ってもらうだけではなく組み立てもできるような場所があると、ものづくりの楽しさがより伝わる気がします。
長岡 ヤスリ問題に関しても、家でヤスるのって超大変ですもんね。木屑だらけになって、奥さんに怒られるみたいな(笑)。
大西 例えばショッピングモールでポップアップショップを出すとか、それくらい市井の人々の生活に近いところに出没してくれるとより浸透していくのではと思ったりします。EMARFとの接点のというか、きっかけ作りがもっともっとあると、よりEMARFの世界は楽しくなってくるのかなと。
笠置 僕は木目を知りたいです。木材にはそれぞればらつきがあるので、ひとつひとつデータ化して、EMARF上で反映されるみたいな機能があったらいいなと思いました。
長岡 そういうテック系の話は秋吉さんはじめVUILDの皆さん大好きだから、ぶん投げるとやってくれる気がします(笑)。
笠置 それがバーコードになることで、商品管理もできるようになりますよね。
田邉 今の話に繋がるかもしれないですが、オリジナルの材料があるといいですね。「EMARFに頼まないとこの集成材は手に入らない」みたいなこともアリなのかなと。
組み立て家具って、どこかでチープに見えてしまう側面が若干あると思うので、組み立て部分や木口、そして断面含め、高級感のある仕上がりに見える、というように、材料自体を変えていくこともできるのかなと思いました。
長岡 残り1分ということで、最後にEMARFに対するご意見もいただきありがとうございました。全体の話題としては脱線することもありましたが、ものづくりに対するスタンスやデザインすることとつくること、そして場作りを実践されているそれぞれの立場から、イメージを膨らませられるヒントを沢山いただけたなと感じました。
今回のテーマである「生業としてのものづくり」に正解はないので、ここで話をまとめるというよりは、今日の議論をきっかけに各自想像力を膨らませてもらいつつ、今後も密にコミュニケーションを取りながらまたEMARFを使って頂けたら嬉しいです。
展示は明日*までなので、ぜひ遊びに来てください。そうすると先ほどの話にあったように、「こんな思いつきでも形になるんだ」という体験ができると思います。ということで、今日は皆さんありがとうございました。
*2021年10月23日(土)会期終了済み
2021年10月22日BABABAにて
▼会場となったBABABAのWEBで公開されているイベントレポートはこちら