みせとものときろく "British wax-jacket market"
はじめに
Barbour(バブアー)
昨今の女性人気もあり、日本国内においても市民権を得てきている印象が強いイギリス生まれの王室御用達ブランド
そんなBarbourを中心としたワックスジャケットを常時数百着取り揃える夢のような場所が日本、しかも都内からは少し離れた「東逗子」にあるBritish WaxJacket Marketさん
様々なメディアに取り上げられる有名店ですが、オーナーの山岸さんはとにかく謙虚な方で、取材にも快くそして真摯に答えていただきました。
オープンしたばかりの「夢の劇場」に、ものときろくの代表神谷、現役アパレル勤務のTY(お子様同伴)、実店舗オープンを目指すオンライン古着屋Mt. Oldclothingのオーナー古山、卒業論文で古着について執筆している鶴田、代表神谷の大学の同級生でダンス仲間のLaicaオタクdのカメラマン鷹羽の4名で伺いました。
朝から晩まで1日掛り、前週のポップアップへの往訪を含めると1週間にも及ぶ濃密な取材内容。ここでしか読めない山岸さんの少年時代のルーツも含めて、完全保存版で是非お楽しみ下さい。
前日譚
取材1週間前に伺ったポップアップは「ものときろく」とも縁のある土地
経堂で最高クラスのコーヒーをいただけるロースターRaw Sugar Roastさんへの訪問。2Fのイベントスペースでは、2022年11月に『ものときろく』の世界観を伝えるPOP UPイベントを開催させていただいた場所でもあります。
Raw Sugar Roastのオーナーさんと旧知の仲であるBritish WaxJacket Martketのオーナー 山岸さん。Raw Sugar Roastオープン時もこちらでPOP UPを開催していました。コーヒーの香る1Fを抜け、2Fへの階段を上がるとオイルの香りと数十着所狭しと並ぶワックスジャケットに圧倒されます。
POP UPからも新たな挑戦への「可能性」と『ワックスジャケットへの想い』を感じ、一週間後の取材への期待が高まります。
そして1週間後。いよいよ店舗に伺う時が来ました。
取材当日
東逗子駅に到着
10月末の某日。
エルニーニョ現象による記録的な暑さの影響で10月とは思えない最高気温が続いていたが、この日は前日の雨がほどよく朝の気温を下げてくれました。
まだTシャツ姿の人を尻目に、勝手にBarbour日和と脳を騙し、しっかりとBarbourを着用し、目指したのはメンバー全員が初めて降りた『東逗子駅』。想像以上に周辺にも何もなく、駅前のコンビニがローソン×スリーエフだったのが印象的。
Barbourといえばイギリス物で、おしゃれな大人が着ていてスタイリッシュ。最近は女性人気も高く、一昔前とは違い、様々なところで目にするようになってきている。そんなイメージと相反する郊外の街並みは「こんなところに本当に店舗があるのだろうか?」と思わせると同時に、期待感を高めるスタートとなりました。
店舗へ到着〜店内探索
住宅街の中を約10分ほど歩くと現れたのは、潮風で少し錆びた雰囲気のある建物
街のコントラストに馴染む味のある外壁は、雰囲気のある木材と大きなガラスで作られた入口。絶妙なバランスで鎮座している。そう。ここがあの「British wax-jacket market」の新店舗です。
ここで改めて、「British wax-jacket market」様のご紹介
英国のワックスジャケット専門のショップとメンテナンスサービスを展開。本国から直接買い付けたアイテムの販売だけでなく、リペア、クリーニング、リワックスも手掛けています。以前は渋谷区幡ヶ谷に店舗を、神奈川県逗子市に工房を構えていましたが、この度逗子に集約してリニューアルオープンしました。
開店時間前だったため、正面玄関は開いておらず、駐車場隣の非常口?から顔を覗かせると、忙しく1Fの階段から2Fに行き来する山岸さんと目が合いました。ご挨拶もそこそこに、取材前にまずはお店をご紹介いただきながら探索させていただきました。
1F リペア・リプルーフ工房
「STAFF ONLY」の看板越しにいきなり、見たこともない空間が目の前に広がっていました。嗅覚を刺激する特徴的なオイルの香りを感じながら、ラックに所狭しと並べられる圧倒的な数に驚かされます。
リペア待ちのラックを見ると、それぞれキズの位置も形も具合も異なる様々なジャケット達がずらりと並んでおり、その一点一点からそれぞれの持ち主や、前所有者の癖や生活感が見て取れ、ストーリーを想像したくなります。
中にはかなり使い込まれ、「修復可能なのか?」と疑問に感じる状態のものもあるが、山岸氏とスタッフさんが全てが手作業で試行錯誤しながら修理を施し、最善を尽くしてお客様にお届けするとのこと。
奥にはリペア待ち、リプルーフ待ちのジャケットがかかるラック、値付けを待つ手入れされた商品のラックなど、ゆうに100を超えるBarbourが並んでいます。
オイル特有の香りが店舗で一番濃く感じられる場所で、リプルーフが始まるとヒーターで温められたオイルはさらにその香りを増し、蝋の様な少し甘味のあるクセになる香りが印象的です。
使い終わったオイル缶が無造作に積み上げられた姿からも、ワックスコットン一筋な姿勢を感じられます。
奥にはクリーニングやリプルーフが終わったジャケットを乾燥させる設備も存在。スタッフさんの方の話によると、乾くのに早くて1日、モデルによっては2日かかる物もあるのだとか。それぞれの工程への真摯な向き合い方を知る事もできました。※乾燥用設備は今後改善予定とのこと
「工房」と一括りに言っても、その工程はワックスコットンと向き合う為に一つ一つ考えられた工程が並んでいます。リペアに使うハサミひとつ取っても、定位置管理の工夫がされた実用性に特化した無駄のない作業場は『こだわり』を感じる整えられた空間。この上ない商品や修理品への愛情と、今後の取材への期待感を高めてくれる場所でした。
2F 応接室
その後、2Fへ上がると1Fとは打って変わり、今度は広々と場所を使った空間が拡がっています。ここは商談・メンテナンスの見積もりなどを行う応接室だそう。
ローズウッドの大きなテーブルに椅子
壁際には当時の販促に使われていたであろう看板や英国紳士の格好をしたクマのぬいぐるみ。そして山岸さんのルーツと深い関わりがあるコーヒーを抽出するエスプレッソマシンや、ジンを中心としたヨーロッパのスピリッツが空間を彩っています。
通常の古着屋ではあり得ないような贅沢な空間は、ここでの買い物を「特別な体験」にしているに違いありません。
3F ショッピングフロア
そして、ついに3Fへ。階段をさらに上った空間には、これでもかといった圧巻の商品量が部屋を埋め尽くされている。こちらがショッピングフロアです。
モデルや色を分けながら、所狭しと並んだ商品量から、まさにこの場所に来る意味を感じることができる空間
ここでは、スタッフの皆さんの丁寧な接客を受けながら、
・モデル
・サイズ
・カラー
・年代
を選択しながら、自分に合うお気に入りの一着を選ぶ事ができます。
基本的に1点のアイテムとの「出会い」を楽しむ古着において、1店舗に同じ種類のものが複数並ぶことはかなり珍しく、「選べる」という体験自体が稀です。
増して、Babourという1ブランドで様々な選択肢を準備しているため、自分の生まれた年のBarbourをモデル違い、カラー違い、サイズ違いで選ぶといったワインのような楽しみ方も可能です。
販売からメンテナンスまでの一貫した体制作りや圧倒的な物量で実現するメリット、準備から提供までの距離の近さなどの部分がここ逗子に凝縮し、山岸オーナーの理想の空間を実現できていることがお話を詳しく伺う前の段階で理解できました。
開店時間
見どころたっぷりの店内を見学しているうちに、11時を迎え、店舗がオープン。
さぁ、いよいよお話を伺おうとしたのも束の間、オープンと同時に最初のお客様がご来店。
どうやら都内からいらしゃった親子のようで、父と息子の会話を楽しみながら、熱心にハンガーラックを見ています。それを観察していたところにさらに、もう1組のお客様が来店。こちらは男性1人。OPENから早くも立て続けに2組の来店があり、この立地での目的来店の多さに驚かされます。
我々取材メンバーは、2Fのスペースに移動しタイミングを見計らうことに。
待ち時間。3Fから聞こえてくるお客様の楽しそうな声とスタッフのみなさまの熱心な接客から、逗子の地にわざわざ訪れるお客様の”期待”と、それに応えようとするお店側の”覚悟”が伝わってきます。
お客様からの要望やスタッフ側からの提案があり、1組の滞在時間が非常に長いのも印象的。スタッフの方が階段を昇り降りし、様々な商品をニーズに合わせて提案している姿からこう感じました。
「ここはお客様が商品を一人で掘る古着屋ではない。お客様の要望に心から共感した上で、制限を設けず最大限寄り添う古着屋だ。」
無論お客様も立地上、このお店に訪れることを目的に時間を使っている。だが、それだけではない。
圧倒的な物量・商品バリエーションが選択肢の多さに繋がり、スタッフの親身な接客による提案により、あらかじめ買いたいモデルを決めて往訪しても、他の選択肢を吟味した上で最終的に最高の選択をできる場所であると。
ソムリエに最高のワインをセレクトしてもらうような極上の空間であると。
初めのピークを終え、いよいよお話を伺う時間。オーナー山岸さんへお話しを伺うまでの待機時間で更に期待感が増している状態でスタートしました。
(著:古山、T.Y)
インタビュー
Chapter1. 原体験
神谷:お忙しい週末に取材対応いただき本当にありがとうございます!お店や山岸さんのお話を伺う前提として、以前から親交のあるメンバーの古山と山岸さんの出会いから聞いてもよいでしょうか?
山岸:5年程前にお客さんとして来ていただいたのが初めてです。
古山:Barbourがカッコいいなぁと思ってたところ、ちょうどyoutubeでお見かけして真夏に半ズボン履いてお伺いしました!その時買わせていただいたSolway Zipper(ソルウェイジッパー)が僕のファーストBarbourです!
神谷:かなり前からのお付き合いなんですね!それならお互いリラックスした形でインタビューできそうですね。とはいえ、古山は今回が取材初体験なので、最初は私の方で進行させていただこうと思います。
古山:緊張しています!笑
神谷:山岸さんの現在に至る原体験、どういう幼少期を過ごされていたんですか?
山岸:小さい頃からこだわりが強い性格でした。ゲームが趣味で、ポケモンでも全種類制覇しないと気が済まないし、当時大流行していたロックマンエグゼというゲームでも、カード的なものを全て集め切らないと遊びきってないという感覚でした。
祖父が街の電気屋だったんですが、掃除ができずに店舗の7割は在庫が積み上がってカオスな状態だったけどそれを楽しんでて、それがこういう雰囲気に惹かれる原体験になってる気がします。友達呼んでも「ええやろ!」って感じで!
神谷:ファッションはいつ頃から興味を持たれたんですか?
山岸:遅いですね。。高校2年くらいで、友達に「下北沢って面白いところあるから行こう」と誘われたのがきっかけでした。735円の古着屋に感動して、ウエスタンシャツめっちゃ買ってました!
神谷:ちなみにそのシャツどうなりました?
山岸:もちろんないです!笑
今でも鮮明に思い出します!青ベースの、襟が尖ったシャツで。。
神谷:やっぱり初めての一着は覚えてますよね!そこからファッションに興味をもち、一気に今の場所まで駆け上がった感覚ですか?
山岸:それまでダサ坊で、服を自分で買った事なかったんですけど「これ楽しいなぁ」で古着にドハマりしちゃいましたね。友達に教えてもらって、横浜や藤沢のお店によく行ってました。予備校そっちのけで服屋行っちゃって
神谷:服に興味を持つ以前に将来やりたい仕事ってあったんですか?
山岸:結構移り変わっていましたね。高校の時に病気したことがあって、一年くらい再起不能になりかけたことがありました。「健康って大事だな」と食が好きな事もあって管理栄養士を目指してたんですが、理系の勉強で挫折しました。笑
神谷:健康を大切に思うところが、郊外に店を構えるという点に繋がっている部分はありますか?
山岸:根幹には常に病気の事はありましたね。。当時は化学物質に過敏になりまして。「経済活動の結果、環境破壊や化学物質の使用で健康を損なう人が増えるという過激な思考になり、それなら新しい物は作らないで古着の方がいいんじゃないか?」と、『都会は悪』的な極端な考えに行き着いていました。体調悪い時に考え事するもんじゃないですね。笑
神谷:エクストリームではありますが貴重な経験でもあるかと思います。その時のエッセンスが残ってると感じることはありますか?
山岸:ありますね。心身が健全でありたい、自由で楽しみがあって、縛られたくないみたいな。Barbourって元々は作業着でもあり遊び※の時に使う服じゃないですか?自分が田舎出身で、川遊びとか山遊びで使う服ってところに興味持ちました。
神谷:出逢った時もビビッときたという感じですか?
山岸:はい!カッケェこれ!って。バックグラウンドなど知って、下北の古着屋さんで買って。最初はBorder(ボーダー)でしたね。当時はBedale(ビデイル)とかBeaufort(ビューフォート)とかの短丈がしっくりこなくて。
「やっぱりBorderだな!」と結論に至ったのを今でも覚えています。
神谷:その一着はまだありますか?笑
山岸:ないです!ここだけの話、当時常に金欠のヤフオク魔。笑
けど、今でも思い出しますよ。。
神谷:下北で初めて購入してから、専門店まで至るのがすごいですよね。
下北で初めて羽織ってから、どのタイミングで「お店をやろう!」と決められたんですか?
山岸:元々はそんなに考えてなくて、大学時代は英語教師になろうと思っていました。教育実習にも行ったんですが、「なんか違うな」ってなっちゃって。大事な手続きを忘れてしまうことも多く、いつか致命的な事が起きちゃうかもしれない、『人の将来に関わる仕事』にはついちゃいけないなって。
リラックスして将来を考えようと思い立ち、留学もしたかったので鎌倉で英語を使うバイトを始めて、好きで集めていたBarbourをオンライン販売し始めたのがきっかけです。「23歳のモラトリアムおせーよ!」とか今では思います。。笑
その時はゲストハウスでバイトをしていたのですが、師匠的な方(現在は某ロースタリーカフェのオーナー)と出会って「この人に本気で着いていったら面白い事が起こるかも」とコーヒーの勉強を始めました。
神谷:そこでコーヒーと出会って、イギリスに留学された?
山岸:留学は行きませんでした。笑
でも買い付けには行きました!ヌルッとした始まりで。初めてのPOP UPは1ヶ月やりました。
古山:1ヶ月ですか!?長くないですか??
山岸:長過ぎて途中飽きてたんですが。。笑
そこで片野英二さん、アニキがまたま見かけて入って来てくださって。
神谷:出会いに恵まれてますね!すごいですね!
山岸:運だけで生きてきた様な感じです。
神谷:ご自身の中で運を引き寄せた行動ってありますか?
山岸:いやー。。。特にないですね。。。でも、こだわりは強かったので嫌な事は絶対嫌だったし、信じた物は「これは最強だ!」って思って生きて来てたので、そのタイミング毎に思い切った行動は取れてたと思います。
古山:最初のイギリス仕入れって、ツテなどはあったんですか?
山岸:最初は旅行みたいなもので、ツテもなく。仕入れって言っても最初はお買い物でしたね。
神谷:本国に行って感じられるものはありましたか?
山岸:ありましたね。本物だなと。日本がフェイクとまでは言わないですが、気候に適応するために生まれた物をこういう使い方するんだなぁと思いました。
神谷:Barbourに対する価値観は変わりましたか?
山岸:変わりましたね。街を歩いていても、おしゃれに興味がなさそう人がチャックシャツに、安いチノパンに、コンバースでBarbourみたいな格好をしていて。サラって着ていて、生活に馴染んでいる服でしたね。
古山:老若男女みんな着ている服なんですね。
山岸:本当みんな着てますね!10代後半の男女からおじいちゃんまで。おじいちゃんがボッロボロのネイビーのBedale(ビデイル)を着ていたり、別の方はネイビーのEndurance(エンデュランス)でした。着始めたまだ真新しいものから、使い古されているものまで、みんな着ている服っていうのは見れて良かったです。
古山:それだけ多くの人に使われてる風景を見る経験は「Barbour」を取り扱う事において自信に繋がりそうですね。
山岸:そういう使い方したら楽しくない?カッコよくない?っていうのは良い刺激になりました。
Chapter2. ワックスジャケットの魅力
神谷:改めてワックスジャケットの魅力ってどんなところでしょうか?
山岸:素材のテクスチャー感は魅力の一つですね!
綿でもない、革でもない、ナイロンでもないけど、独特な光沢があってしっかりマテリアル感のある生地って他にないなぁと。金属、鉱物やガラスなどの無機物が好きなんですけど、似た雰囲気を持っている感じがして好きですね。ワックスコットンの色味の魅力にハマってます。
神谷:これは実際に見て、触らないと分からないですよね。オンラインとリアルでお客さんの反応って変わりましたか?
山岸:1番の課題ですね。やはり写真で伝えきるのは難しくて。ただ、オンラインストアでご購入いただけるのも大変ありがたいです。オンラインストアは今ご用意のある商品カタログの役割として見ていただければと思っています。こういう辺鄙(へんぴ)な場所でやってるのでオンラインは重要なツールですね。
古山:現在素材が進化する中で、それでもワックスコットンを貫いている理由はあるのでしょうか?
山岸:やはり色味の可能性ですかね。水を布に付けるのと同じで、コットンにオイルを染み込ませると、色が劇的に暗くなるんです。ベースの色に着色をして、着地点となる色がでるのが面白くて。自分は色味にこだわってしまう人間なので、特定の年代(※)にしかないターコイズブルーのBarbourが好きです。
服としてのトータルの雰囲気って、色見とか細かいディティールや素材感とかの集合体かと思うんですけど、その中で一番大きい要素は色かなと思っていて、そういう面でワックスコットンは他の素材より表現の幅が凄く広いんです!その魅力からまだ抜け出せていないと思います。
古山:めっちゃ綺麗な色ですね。かっこいい!
Chapter3. 大切にしていること
古山:遠くからでも山岸さんからBarbourを買いたいというお客さんも多いかと思います。Barbourに対しての真摯な態度、山岸さん個人の魅力、販売されている場所の魅力が合わさり、お店の魅力になっている様に感じました。お店を運営するにあたって山岸さんが軸として持っていらっしゃる部分はなんですか?
山岸:ワックスジャケットをずっと楽しむための拠点。ゆりかごから墓場までじゃないですが、お選びいただく前の時点を最高の状態まで引き上げて、色んな選択肢の中からその方にとっての至高の一枚をご提案して楽しんでいただいて、トラブルがあった時には頼っていただきまた楽しんでいただく、そういう場所が必要じゃないかと思って。
僕も古着屋が好きだった中で、「買って終わり」というところで不便が生じてた事が何度もあって。シャツやパンツは街のお直し屋さんでもなんとかなるけど、こういう特殊な洋服は販売する者の責任としてケアできるべきだと僕は思っています。古物の販売って状態に対する法律が無くて、「ダメージも込みの状態です」っていうのは「消費者の方にとって不利なときもあるのかなあ」と正直思う部分があって。買って二日でダメになっても、運命として受け入れるしかない。
せっかく楽しんでもらう未来を想像して選んでいただいたのに、そうなっちゃうのは僕は悲しい。できる限りの事は手伝いたいし、それをやるには工房・オフィス・ショップ全て必要で、尚且つ現代では遊びや趣味のジャケットなのでこういう場所でやってた方が楽しいかなと。
古山:全てが一貫してるアウトプットがかっこいいなと思います!
僕も古着が好きで色んなお店に行きましたが、通い続けるお店と、そうじゃないお店の差が今仰った部分に詰まっている気がします。接客されているお客さんが楽しそうなんですよね!!
山岸:楽しくないと楽しくないですよね!笑
生活必需品の真逆じゃないですか?ヴィンテージって!この世から全部消滅しても生きていけるけど、無いと寂しいし。あると楽しいんで、そこは意識して楽しみたいし、楽しんでいただきたいなと思い続けてますね。。
古山:ずっと追いかけさせてもらってる部分が腑に落ちました!笑
神谷:どの瞬間が一番楽しいですか?山岸さんにとって堪らない瞬間は?
山岸:最近だと、リペアが上がってお客様に納品させていただく時に
「最高です!」と言っていただく瞬間ですかね。
ありがたいことに販売に興味があるスタッフさんは集まってくれてきたので、自分は裏方に回ってきたいですね。もちろん、うちが目指している哲学は理解してもらった上でなので販売を担当してもらうのもそれになりに時間はかかります。
Chapter4. Barbourの浸透
鶴田:つい先ほども女性が一人でいらっしゃっていましたが、女性の方々に人気が広がっている事に関しては、どう思われていますか?
山岸:嬉しい傾向だなあ、と思っています。メンテナンスやリプルーフに力を入れだすようになってから、思った以上によごれだったり臭いの原因になる要素が生地に積もっていることに気がつきました。今までほとんど男性のお客さんだったっていうのが正直納得です。
とても着れない状態のBarbourが世に出回るとブランドとしての評判を落とすし、ヴィンテージ界隈特有の「ダメージがいい」という価値観も悪い意味でエクスキューズになってしまいます。なので、一番理想的な状態まで準備を重ねてから商品として出すことで、Barbour全体にとってもよりいいイメージで着ていただけるようになると信じています。そういった姿勢が、ヴィンテージのBarbourも女性の方にも受け入れていただけることにも貢献できているかなと思っています。
山岸:2次流通としてある意味で勝手にやってる身として、Barbourを知れば知るほど、「質を高くしないと」と義務感を感じてしまいます。自意識過剰と言われればそれまでなんですけど、そのぐらいの気持ちでやった方が、いい意味の"ヒリつき"も生まれるかなって。
Chapter5. 今後の展望
神谷:凄く良いお話を聞かせていただけて、今後はリペアに力を入れていかれるとのことですが、改めて今後の展望はどのようにお考えですか?
山岸:今いるスタッフさんもまだ日が浅くて、クリーニングやリプルーフは任せられますが、リペアは一度針を通すと取り返しがつかない事も多いので、練習を繰り返しながら長い目で見て揺り籠から墓場までの精度を向上していきたいと思っています。
古山:改めて、幡ヶ谷から「東逗子」にお店を移転された経緯や、そこでの心境の変化についてお聞きしてもよろしいでしょうか?
山岸:ある程度続けている仕事なので、「すぐにはやめないだろうな」と思いつつ、「根無し草でやってきてしまったな」っていうのが自分の中でひとつ後悔でした。もう覚悟を決めて、腰を据えてやっていきたいっていうので、ここでやることを決めました。これから先はずっとここでやっていきたいです。
以前はとにかくPOP-UPを高頻度で開催していた時期もあったんですけど、今は普通に当たり前のことを毎日コツコツやっていくのが一番かな、と思っています。
古山:1週間前に経堂のRaw Sugar RoastさんでのPOP-UPにお邪魔した際に「自分にとって東京は遊びに来る場所」ということを言われていたのがすごい印象に残っています。この環境があってこそだと言うことがよくわかりました。
山岸:そうですね。東京でこういった物件はそもそも無いし、仮に良い場所があってもすぐ埋まってしまいます。「やりたい所でやりたいことをやる」と思った時に「東京にいていいのかな自分。」と正直開店当初から思っていました。ようやく踏ん切りも頭の整理も着いたので、シーズン終わりに幡ヶ谷を閉めてこっちに移ってこれたという感じです。
神谷:アフターケアについてもう少し詳しく教えてください。
山岸:アフターケアの面でどれだけ信頼ができるかも、商品をお選びいただく一つの要素になると思っています。今ヴィンテージBarbourそのものの魅力や歴史的な部分はある程度世の中に知れ渡っていると思うので、「うちにしかできないことはなんだろう」と思った時に、自然とリペアやメンテナンスの方面に視点が向いていきました。
神谷:とはいえアフターケアの体制を整えるは相当大変ですよね?
山岸:正直、大変です(笑)個体によってダメージが異なるので、出会ったことがない症例をどう手当すれば不自然にならずに元の機能を再生できるか?なかなか思い浮かばないときは沼に入って煮詰まっちゃうときはありますね。
山田:具体的にどういった症例が大変だったりするのですか?
山岸:例えば、10年間冬はこのBarbourしか着ていなくて全体がボロボロに破けちゃっている、というようなケースとかですね。
ずっと使われている背景とかもお聞きすると、「直さないわけにはいかないな」と責任を感じます。僕のスピードとスキルが向上すれば楽しんでできると思うので、今後も頑張っていこうと思います!
神谷:ここから先10年、20年。お店としてどんな状態が理想でしょうか?
山岸:現状クオリティーに関しては、毎年、前年より良い状態まで引き上げたものを用意できていますし、珍しいものに関しては、どんどん入らなくなっていくので、今までみたいに希少性に重点を置いたものを頑張って集めてご提案するっていうよりかは、ベーシックでメンテナンスされた品質の良いものを、"普通"に提案したいと思っています。メンテナンスの体制だけは、追々僕だけじゃなくスタッフみんなでできるようになっていくのが今後目指して行きたい形です。
また扱った品物に関しては、メンテナンスのサーティフィケーション(証明書)を用意しようと準備していて、いつ誰がメンテナンスやケアをしたか、書面でお渡ししていこうと思っています。
(著:古山・鶴田・神谷)
ものときろくメンバーの試着・購入
古山 : 山岸氏に魅せられた男の3rdBarbour
取材前からずっと狙っていたBurghley(バーレイ)を購入。心に決めたモデルがあっても、迷ってしまう品揃えが嬉しくも辛いところでした。
山岸さんから購入するのは三着目、商品状態やいただくご提案は以前から信頼していましたが取材後にはアフターケアへの安心感もより大きいものになりました。妻とシェアできるサイズを選び、夫婦で着用していきます!
鶴田:いつかのBarbourを夢見て
Barbour初心者の私でしたが、山岸さんに色々とご提案いただき、カラーもモデルも異なる、たくさんのBarbourを試させていただきました!
年代やカラーが同じでも、色落ち具合が違っていたりと、僅かな違いでも雰囲気が全く異なっていました。着用するとさらに印象が変わって、それぞれ別のアウターを試しているみたいで楽しかったです!
いずれは私もヴィンテージBarbourを!と夢見ています…
神谷:生まれ年が欲しくなりますよね
やっぱり運命ってあるんですかね?取材前週に経堂Raw Sugar RoastさんのPOP-UPに伺った際、山岸さんとお話ししながら横目でいいなーと思っていたBedale(ビデイル)
「まーでもGamefair(ゲームフェア)の1crestを持っているしBarbourは2着なくて良いかな。」っと気持ちを整理している中で、
山岸さんから「これ、神谷さんの生まれ年ですよ。」という言葉に揺らぎまくる心臓。最初は試着するのを躊躇っていましたが、それはそれで山岸さんにも服にも失礼だと、意を決して試着。
似合うやないですか。。
その日は冷静を装って購入は避けましたが、翌週のPOP-UP。試着する前から、いやお店に到着する前から、いや数日前から心に決めてました(笑)
取材を終えて
取材とお会計を終え雑談へ。
取材中何度も登場した山岸さんの「マテリアル好き」の一面。
カメラマンの鷹羽が初Barbour試着中にジップが真鍮なことに気づき、マテリアル好きな山岸さんと真鍮好きの鷹羽は大盛り上がり。
マテリアルの話はそのまま、カメラの話に。
ニコン党の山岸さん、ライカ党の鷹羽のカメラ談義に花が咲く。
そんなオタク話を繰り広げる中でお出しいただいたコーヒー(豆はもちろんRaw Sugar Roastさん)から、コーヒーオタク神谷とのコーヒー対談に移行。
繰り広げられる異次元のオタク談義に笑顔で頷く事しかできない古山。
【一つの物事をより深く探究する姿勢】
Barbourはもちろん、
・マテリアル
・カメラ
・コーヒー
一見繋がりの無い様に見える物事も『なんか好き』という自身の心の赴くままに探究するその姿勢が、この山岸さんの世界観を作っている事を感じることができた貴重な時間でした。
(著:古山)
終わりに
1週間前のPOP-UPから、取材当日は終日お店に滞在させていただき、山岸さんが作っている世界観とこれから目指した姿を思う存分感じさせていただきました。
British wax-jacket Marketさんは、数々のメディアで取り上げられ、古着・Barbour好きにはかなり知られた存在であることは言うまでもありませんが、これほど深く掘り下げたメディアは我々以外にないと自負していますし、今後も山岸さん・お店の未来を追っていきたいと思っています。
また我々「ものときろく」との共同イベントなども企画していく計画です。
我々のような名も知れていないメディアに真摯に取材対応いただき山岸さん・スタッフの皆様には本当に感謝してもしきれません。この記事も含め、今後少しでも山岸さんの目指す姿に貢献できるように頑張っていきたいと思います。
ものときろく代表 神谷