映画#8『シザーハンズ』/ 捻くれ者のファンタジーに夢を見る
わたしはティム・バートンの大ファンだ。
小さい頃は、毎年クリスマスに『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』を観せてくれるのを指折り数えて楽しみにしていた。そこから『コープス・ブライド』や『チャーリーとチョコレート工場』など彼の映画はたくさん観てきたのだけれど、何よりも決定的だったのは、高校生の時に行った個展「ティム・バートンの世界」。彼が描いたキャラクター原画やその他作品の数々を見て、彼の美意識やメッセージ性にひどく共感し、そこでようやく、自分が昔からティム・バートンのファンであったことを自覚した。
『シザー・ハンズ』を初めて観たのは、この”ファンとしての自覚”の直後。彼の作品の特徴やビジョンを理解した上で観ると、本作は彼の色が惜しみなく全面に出ている数少ない作品であることは一目瞭然だった。
今回はTim Burtonオタク丸出しで、奇妙でダークなファンタジーの世界へといざないます。
< voodoo girl’s 偏愛ポイント >
・ティム・バートンらしさが詰まったダークファンタジー
・音楽の力を感じる「アイス・ダンス」シーン
①ティム・バートンらしさが詰まったダークファンタジー
ホラーでも、悲劇でもない、
“ダークファンタジー”とは何なのか?
定義は諸説ありそうだけれども、それはきっと、捻くれ者のロマンスの琴線に触れる空想物語。
変わり者と周囲から呼ばれることの多いティム・バートンが描く空想は、まさに、この”ダークファンタジー”という言葉がぴったりな要素で溢れている。
ビジュアルのルールは、
モノクロ、ツギハギ、垂直禁止。
そして物語は、
怪物の純粋な心にスポットライトを当てる。
『シザーハンズ』でも、フランケンシュタインなどゴシックホラー的なモチーフを取り入れつつ、誰もが多少なりとも幸せな気持ちを味わえる魔法のような時間「クリスマス」を舞台とすることで、誤解されがちなアウトサイダーたちに夢を見せる。
ちなみに、ティムバートンが本作の主人公エドワード・シザーハンズの原型となる絵を描いたのは彼が高校生の時だったそう。天才すぎる。それをストーリーに落とし込んでいった脚本家キャロライン・トンプソンもまた、天才。手がハサミの男の優しくも切ない物語を実写化できた奇跡に感謝しかない。。。
②音楽の力を感じる「アイス・ダンス」シーン
ティム・バートン作品に欠かせない重要人物といえば、音楽家のダニー・エルフマンだ。
彼は、長編映画の監督デビュー作『ピーウィーの大冒険』に始まり、それ以降ティム・バートン作品の大半において映画音楽の作曲を担当している。彼の音楽はいつも、現実ではないどこかへ連れて行ってくれるような、観客とファンタジーの世界との架け橋のような役割をしてくれる。
本作の最も美しいシーンは、ウィノナ・ライダー演じる少女キムが、シザーハンズが氷像を作る過程で舞う雪の中で踊るシーンで満場一致だろう。そして、この美しさはダニー・エルフマンの音楽の力があってこそだと思う人もまた、多いのではないか。
試しに、このシーンを音無しで観てから、もう一度音ありで観てみてほしい。心の動かされ方がまるで違う。まさに目を奪われる光景なのだけれど、実際には耳から、なんてこともあるかもしれない。
あこがれのあの人
『シザーハンズ』は、モノクロの映像で幕を開ける。不気味さもありつつ、絶妙に可愛げのあるモチーフが次々と映し出されるオープニングクレジット。ここで俳優ヴィンセント・プライスの名前に目を止めてニヤリとした人はきっと”こっち側”の人間だろう。
ヴィンセント・プライスといえば、ゴシックホラー映画の有名な俳優で、ティム・バートンが昔から憧れ続けている人物。彼がまだ長編映画を撮る前、ヴィンセント・プライスに憧れるあまり現実と空想の区別がつかなくなる少年のストップモーション・アニメーション『Vincent』を制作し、ヴィンセント・プライス本人にナレーションを依頼したくらいの大ファンぶりだ。
本作でも、シザーハンズにとっての”フランケンシュタイン博士”である発明家役としてヴィンセント・プライスを起用している。彼の存在がいい味を出しているのは言わずもがな、自分が作り出した世界に憧れの人を登場させてしまうというティム・バートンにとって夢のような瞬間に、観ている側も思わず胸が熱くなってしまうのだ。
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