小説『共演者未満』#3
#2はこちらから
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舞台『セントラルハウス』
そう遠くない未来、2032年。地球温暖化の進行により、外で活動することができない状況まで深刻な状況に陥っていた。そこで人々を一つの場所に集めた「セントラルハウス」が建設された。数年前まで東京と呼ばれていた地は、建設予定地となりバラバラに立っていたビル街は消滅。観光地は残されつつも、すべて屋根が付く”屋内観光地”へと変わりつつあった。
元・三重県で同じ中学校だった仲良し6人組はタイムカプセルを探しに行くことを計画し始める。しかし、三重県があった地域はセントラルハウスの敷地内ではなく、外に出る必要があった。外に出る手段を探す6人は、セントラルハウスに関わるとある秘密を知ってしまう。
中学の時にした約束・セントラルハウスの秘密・隠された秘密の裏にいる人たちの救出…様々なミッションを抱え翻弄する6人の物語。
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静寂を破って始まった舞台。先日の稽古でやったシーンや、2年前の公演を思い出しながら、私は物語にのめりこんでいった。
そして舞台は終盤。
2年前に私が演じた”五月-サツキ-”と、今飛鳥が演じている”健 -タケル-”。
二人は最後まで諦めずに救出作戦と友達との約束を果たそうとする。必死で、我武者羅で、見ているこっちまで頑張れと応援したくなる。それくらい勢いのあるシーンだった。
二人の想いが届いたのか、6人はタイムカプセルを手にすることができた。思い出の品、自分と他5人、それぞれに向けた手紙、約束の書。懐かしいねと口々に言いながら手紙を交換し、大切なものを手にしていく面々。
五月も皆と同じように手紙を渡しながら、健の前で止まる。
どれくらい長かっただろうか。舞台ではそこまで長くなかったのかもしれない。私にとっては5分にも10分にも感じられるような長い時間だった。
五月が俯きながら、健に手紙を渡す。けれど、健が受け取る前に手紙を自分の方へ引き寄せて告げる。
「今も、中学の時と同じ気持ちだから。変わってないから」
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ー 今も、高校の時と同じ気持ちだから。変わってないから ー
公演後の面会で飛鳥のところへ向かう。面白かった、泣いてしまった、飛鳥が、いや、健がかっこよかった、人並みの感想しか出てこないけれど、それらを伝えた。それから、持ってきていた差し入れを差し出す。私はそれを渡しながら、五月のセリフを借りつつ、言葉を続けた。
差し入れの中には小さな紙切れを入れておいた。高校の時、飛鳥の下駄箱に入れようと思って書いた、たった2文字の言葉。
結局渡せずじまいで机の引き出しにしまい込まれていたものを見つけてしまった。見つけたからには渡してあげなくては。私は義務感のようなものに駆られ届けることにした。
高校の私が報われるように、そして今の私へのほんの少しの勇気になるように。
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「ねえ!なんで共演すること言ってくれなかったの?」
公演から1週間後。突然かかってきた電話をとると、開口一番責め立てられる。
「ごめんって!あまりにも劇がよかったからつい忘れちゃったの」
「まぁそれならしょうがないか。今日桜木さんから聞いてさ」
「私も、公演前に桜木さんと話した時に舞台出ないかって誘われて。誘われたというより半強制的だったけど」
「あ~あのおっちゃんがやりそうなことだよな」
「そう。っていうことだからよろしくね?」
「こちらこそ。どんな舞台ができるのか楽しみだ」
顔合わせの日程や、出演者、もらった台本の話など次の舞台に関する話をしていく。
「ところでさ、この間の話なんだけど」
「へ?」
「告白の返事」
「ええ!?」
「あれ違った? 高校の時と同じ気持ちだからって」
「あぁ、言った。言いました。」
*
「「俺も好きだ。付き合ってください」」
答えは決まっている。
「「はい」」
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