声は楽器
子供の頃、3歳くらい…もうすでに歌うのが好きで仕方なかったことを憶えています。父が買ってきたカセットレコーダーの前に陣取って、当時の流行歌を歌い続けたり、団地の前の公園に近所のおばちゃんたちを集めてジャイアンみたいに歌ったりしてたようです。
歌うことに対する想いは成長とともにどんどん強くなっていきました。 とは言え、軽音楽部に入るでもなく、バンドを自分から組むでもなく、歌いたいのに聴いてもらえるチャンスを作れない自分に悶々としていました。
大学生になり大きな転機が、身近なところからやってきます。
私には3つ違いの兄がいて、彼も音楽が大好きでした。
テクノポップのようなジャンルを好んでいた兄には当時参加していたサークルがあって、ある日、そこに私も参加してみないかと誘ってくれたのです。そのサークルの活動は、参加する人たちそれぞれがデモテープを創り、持ち寄って鑑賞する、というもの…
え?デモをつくる...?
曲もまともに書いたこと無いし、 楽器弾けないし、 打ち込みなんて何のことだか全然わかんないし???
となっていると、兄はまるでドラえもんのように、あるマシーンを私に見せてくれました。
MTR (マルチトラックレコーダー)(実物です。壊れてるけど...!)
このマシーンで声を多重録音してアカペラの曲を創ってみたらどうか、と提案してくれたのです。当時、Spike Lee監督の「Do it Acapella」という作品やアカペラグループの作品に夢中になっていたのですが、まさか自分でアカペラ作品に挑戦するとは思いもしていませんでした。
そしていざ声を重ねてみると...楽しい!すっかりハマってしまいました。 ベースライン、簡単なボイスパーカッション、ギターのバッキングをイメージしてリフを歌ってみたり、リードボーカルにコーラスをつけたり... 頭の中にバンドが存在していて、その一人一人の楽器の役割を想像しながら、自分なりに声を楽器の音に近づけていくわけです。
声っておもしろい... それまでの悶々とした世界から一気に抜け出して、声という可能性に満ちた楽器と出会った気分でした。アカペラ多重録音をきっかけに私の「声の実験」遊びはスタートしました。
ちょっとした工夫で声は色々な音色に変化させることができる... これはメロディを歌う上でもとても役に立っています。 『この曲はきっとこんな音色で歌って欲しいんだろうな』とイメージしたり、『このメロディのこの歌詞の中にある感情を音声化すると、きっとこの音色が一番しっくりくる!』と色々試してみたり。
ボーカリストも楽器を弾く人たちと同じように、音色作りに熱心でありたいものです。