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夏まつりで声を張る

普段は教室で声を張っている。
一番後ろの席の学生にも声が届くように、意識している。

だから、夏休みに入ると何だか物足りなさを感じる。
夏休みも後半になると、ちゃんと声が出るか時々確認してみたりもする。
「あー」「あー」「あー↗」「あー↘」「あーーーー~~~~」
家に一人でいると話すことさえしない。全く声は出さない。

あの日の私は、そんな物足りなさを抱えたまま祭り会場に向かっていた。


「えー、今年の7丁目町内会のテントの場所は非常にいい場所を確保できました!皆さん、張り切ってまいりましょう~!」町内会長のご長老は鼻の穴を膨らませて、私たちに報告した。

駅前通りの並木道を約1kmに渡って車を封鎖して開催される市民祭り。引っ越してきた当初は、その規模に驚いた。小学生は運動会で披露した鳴子踊りをこのお祭りでまた披露し、町内会はそれぞれテントを出して飲み物や食べ物などを売る。近隣のレストランは、食べ歩きに相応しい自慢のメニューを売る。もちろん神輿のパレードや太鼓演奏などもあり、実に賑やかだ。

その年、我が家に町内会の当番が回ってきた。お祭りで、フランクフルト、かき氷、綿菓子を売るのがこの町内会の伝統であることを会合で知った。

合計6名の町内会員がお祭りの売り子としてその任を任される。何を担当するかは、じゃんけんで決めることになった。

私は、祈った。(できれば、かき氷係になりますように!)

願いもむなしく。私はフランクフルト係になった。
(ガーン。暑いよ!熱いよ!)


炎天下の中、テントの下で焼き鳥を焼く要領でフランクフルトにこんがりとおいしそうな焼き目をつけていく。首からは、タオルを下げている。もうなりふりなど構ってなどいられない。とにかく、暑い。汗が吹き出してくる。隣のかき氷係のエリアがやけに涼しげに見えた。

ここに長い時間はいられない。
焼きあがったフランクフルトを見つめ私は声を発した。

「いらっしゃいませー!! 

フランクフルトいかがですか~。

焼きたてですよ。安いです。

一本 100円! さ、いらっしゃいませー!!」



自分でもびっくりするぐらい大声が出た。それが証拠にペアを組んだ、私よりだいぶ若い男性の相方さんが一瞬ぎょっとしていた。

しかし、彼もたじろきつつ、

「いらっしゃい!いらっしゃい!

 おいしいフランクフルトいかがですかー!」


と応じた。

一度声を出してからは、恥ずかしくともなんともない。だんだん「なんたらハイ」状態に入り、少しのやけくそ感もあり、どんどん声を出し、汗をかき、化粧なんてしていたのかわからないくらい、顔を赤く上気させて、焼いては売った。声を張って、売りに売った。たぶん最速で。

かき氷や綿菓子にまだまだお客さんの列が長く作られている横で、私たちの任務は早々と終了した。やり切った。

わたしは満足していた。
何に?早々と売り切ったことに?
それもあるが、たぶん、声を張れたことに。



明日は7月期の入学式。授業と違ってそんなに声を張る必要はないけれど、レベル分けのテストがあるから、もしかしたら、大きい声が必要になるかもしれない。場合によっては、2つの教室を一つにして大きなテスト会場にすることもある。その教室の担当にならないかなとひそかに期待している。
なぜそんなに声を張りたいのか。

おそらく、一種のストレス発散だ!んっ!

最後までお読みいただきありがとうございます。
また、次のnoteでお会いしましょう。

見出し画像はひいろさんの作品をお借りしました。
ひいろさん、ありがとうございます!



#なんのはなしですか
#賑やかし帯


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