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卒業式の呼名

普段、出席を取る際、学生の名前はフルネームでは呼ばない。
ファーストネームに「さん」付けして呼ぶことが多い。

卒業式での呼名はフルネームで読み上げる。

昨年の卒業式の10日ほど前だったと思う。
呼名の呼び方の確認と練習として、クラスで一人一人の名前を読み上げた時のことだった。

「先生~、そんな発音で呼ばれても誰のことかわかりません。ちゃんとベトナム語の発音で読んでください!」
いつも、私に厳しい要求(半分冗談が混じっている)をつきつけてくる学生が真顔で言う。

「え~~、他の先生たちもみんなカタカナ読みですよー。」
「ダメです。ちゃんと発音してください」

なんだか挑まれてしまった。

少しそれっぽく発音してみても、すぐにダメ出しをされてしまう。

「わかりました。じゃあ、読み上げて。録音するから」
私は自分のスマホを彼女に向ける。

私たちの様子を見守るクラスの学生たちはニヤニヤ。

その日から私の発音練習が始まった。

卒業に向けて毎日必ず10~15分のシャドーイング。
朝の電車の中でも録音の音声を必ず聞いた。

ベトナム語の発音は難しい。

救いだったことが二つあった。
一つは他の国籍の学生は、カタカナ読みでもいいと言ってくれたこと。
もう一つは、ベトナム人の苗字は NGUYEN VAN(グエン ヴァン)で始まる名前がとても多いので、クラスの大半の学生が NGUYEN VANさんでファミリーネームの種類は少なかったことだ。

卒業式は、900人ぐらい入るホールで行う。
呼名は卒業クラスを受け持つ担任の先生が壇上からスタンドマイクの前に立ち、厳かな曲が流れる中読み上げていく。

一人目の先生の声が潤んでいたりすると、その「潤み」が伝染して、アブナイ。

本番当日、緊張しながらも丁寧に心を込めて一人一人の名前を読み上げていった。途中で会場が少しざわつき始めたのがわかった。カタカナ読みではない、ベトナム語の発音にベトナム人学生が反応してくれたのだった。

心の中で小さくガッツポーズを決めながら、最後の一人を読み上げる。
「以上、20名」と言い終わると、立ち上がっていたクラスの学生が着席する。

全卒業クラスの呼名と卒業証書授与が終わり、壇上から教師たちがそれぞれの担任のクラスの座席にもどる。

私が戻ると学生たちが拍手と笑顔で迎えてくれた。
「先生!よかったよ!」
「すごい!すごい!」
「イェーイ!」(←ハイタッチを求めてくる)

私に要求を突き付けた彼女も親指を立てている。
大変だったけど、喜んでもらえてうれしかった。

今年の呼名は、カタカナ読みでいいと言ってくれるだろうか。



最後までお読みいただきありがとうございます。
また次のnoteでお会いしましょう。


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