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皆さんでどうぞと言われても

今日no+eの街を散歩していたら、こちらの記事に出会った。

長編小説の中のとあるセリフに目が釘付けになった。

「春キャベツ見ると何だか幼い頃の息子の頭を思い出しちゃうんですよね」

なんのはなしですか。【長編小説】7
おすぬさんのセリフより引用


キャベツと頭というワードから、私はあることを思い出していた…。

20年以上も前のこと。
とある東京の端のほうに住んでいた。

社宅だった。社宅といっても会社で建てたものではなく、借り上げ社宅といって、一棟丸ごと会社で借り上げたアパートだった。

アパートの大家さんは、その辺り一帯の地主さんで農家をされていた。

ある日、仕事から帰宅すると郵便受けの下のスペースに山積みになったキャベツがあった。大家さんの手書きの文字で「皆さんでどうぞ」というメモが添えられていた。

立っていた位置から回れ右をして、もう一度駅に向かいたくなる衝動を覚えた。あるいは、見なかったことにしたいと思った。それぐらいすごい量のキャベツの山だった。

住人で分けることになったのだが、とんでもない量だった。食べ盛りのお子さんがいる世帯は喜び、友達にも配ると言っていた。我が家ともう1世帯夫婦二人世帯は途方に暮れた。

食べ盛りの子どももいなければ、引っ越してきたばかりで地域に知っている人もいなかった。

その日から朝晩、手をかえ品を変えキャベツメニューが続いた。もう1世帯のMさんと会う度にキャベツ談義になった。どうやって食べているか、あと何玉残っているか、顔を見れば私たちはキャベツの話をしていた。

でも、二人で食べるキャベツの量には、やはり限界があった。

冷蔵庫に入りきらない常温のキャベツは傷み始めた。残りのキャベツの末路は…。

Mさんと相談した。
「どうする?」
「もう、怖くてビニール袋を開けられない」
「だよね」
「明日、ごみの日だね」
「うん」
「でも、このサイズと重み、形、ちょっとやばくない?」
「え?」
「人の頭っぽい」
「ええーーー!?」
「全部まとめてじゃなくて、小分けに他のごみと混ぜたほうがよくない?」
「いや、でももう家に置いておくのも…ビニール袋を開ける勇気もないわ」

当時のごみ袋は真っ黒で中身の見えない袋だった。
Mさんはたいへん想像力が豊かだったと思う。黒いゴミ袋に入ったキャベツが人の頭だと勘違いされはしないかと恐れていたのだ。



今まで、スーパーでキャベツが山積みになっていても、この話は思い出さなかった。いや、どうだろう。思い出したくなくて封印していたのかもしれない。けれど、今日はキャベツだけじゃなくて「頭」もセットで出てきたので、当時の記憶がぐわっと一気に呼び起こされた。

今なら、気軽に検索できる便利なサイトがたくさんあるから、違う結果になっていただろうか。なんとも食べ物を粗末にしてしまったようで心が痛い。でもね、あの時のキャベツは本当にすごい量だったのだ!


冒頭の長編小説の中のおすぬさんのセリフの元ネタの記事はこちら。


最後までお読みいただきありがとうございます。
また、次のnoteでお会いしましょう。
(見出し画像:Bing Image Creatorで生成)






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