📧アメリカ大統領就任式に観る米国民主主義の位置づけと日本的民主主義への危機感⑩(2021年1月)

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　1月20日はアメリカ大統領の就任式ですね。4年前の大統領選挙によるトランプ大統領(共和党候補)誕生の際には様々な不安や懸念が囁かれる一方で、民主党擁立のヒラリー候補を破っての勝利宣言(私は全てのアメリカ人の大統領になる)の後で米国株式市場は空前の株高(為替は103~118円台へ急騰)となりました。

また就任式では「Make America Great Again」と1980年に同じく共和党から選出されたロナルド・レーガン大統領の選挙スローガンを口にして、当時の高い失業率やインフレーションなど経済悪化の対策として行われた”レーガノミクス”を彷彿とさせ、景気対策に力を入れることをアピールしました。(トランプノミクス)

長い大統領選挙によって米国内は大きな世論の対立と分断が露出します。今回は郵便投票が広く実施された事もあり112年ぶりの高い投票率と激戦州での僅差の得票数によって特にそれが顕著であったことが伺えますが、大統領選挙・勝利宣言、そして大統領就任式にはこの分断を統合して、再び民主主義国家として前へ進むためにある効果があると言われています。

今回は主にこの大統領選挙と勝利宣言・就任式が持つ意義について考えてみたいと思います。

是非、11月8日に行われたバイデン大統領候補・ハリス副大統領候補の勝利宣言と重ねながら皆さんも次の３つについて考え頂ければと思います。

1.Democracy(民主主義)  2.Integration(統合) 3.Reincarnation(再生)

政治とは何のためにあるのかを米国大統領選から考える

　第一のDemocracyですが詳しくは号末に記すとして、ここでは概略として選挙という”民主的”な過程を経て、国民の意思に基づいて権力が集約され、移譲される事が大原則です。就任式とはそれを象徴的に表す形式儀礼を取っています。

　第二にIntegration(統合)ですがそもそも選挙とは国政であれ、地方議会であれ、市井の人々が四六時中政治のことや国の行末を気にしている暇がないので、議員が代わって政治をすることでその煩わしさから解放されて、自分や家族が食べていくための仕事や教育や家庭のことに集中できるようにするためのものという面があります。

選挙の時だけは真剣に、普段は考える事のない社会的課題や国家課題を託せる人を問うのが民主主義における選挙です。

特に米国大統領選挙は先日行われた国民投票の結果を踏まえ、選挙人団による投票を行うことで国民が甘言に惑わされて執政者を選ぶことがないように段階が設けられています。

一般的に片方が敗北宣言を行うため、この選挙人団投票は形骸化していますが、敗北宣言がこのまま出なければ、選挙人団投票が事実上の決戦投票になります。
　またアメリカ大統領選挙は国を分断する程のほぼ一年がかりの選挙戦の末に選ばれますが、国民が対立・分断したままでは四年もの間、国がまとまらなくなってしまいます。

そこでそうしたわだかまりを無くし、国民としての統合を図るために勝利宣言や就任式を設け、そして大統領となる人物に宣誓の場を提供することにしています。

分断を繰り返してきた米国大統領選挙と勝利宣言・敗北宣言による統合への呼びかけ

 歴代アメリカ大統領の中で今尚根強い人気の一人、エイブラハム・リンカーン(共和党)は次のように述べました。

「選挙が終われば、自由な人民は次の選挙まで一つの国民だと言うのがふさわしい」

奴隷解放のリンカーンが「共和党」だった理由 『アメリカの政治』 | J-CAST BOOKウォッチ

ジョン・F・ケネディ(民主党)も次のように語っています。

「我々は今日を党派の勝利ではなく、自由を祝福する日だと見なそうではないか」

2001年の就任式でジョージ・W・ブッシュ(共和党)はこんなことを国民に呼びかけました。

「共和党員も民主党員も一緒になってアメリカのために正しいことをしよう」

バイデン大統領候補(民主党)は勝利宣言の中で次のように語りました。

「私は分断でなく団結を目指す大統領になることを誓う」

「再び米国を世界中から尊敬される国にする」

そして注目のハリス副大統領候補は勝利宣言の中でこう語り、呼びかけました。

「私はこの国で最初の女性副大統領になるかもしれませんが、最後ではありません。なぜなら全ての少女たち子供たちが今夜の光景を見て、この国は可能性の国だということを見ているからです。」

四年前のヒラリー候補の演説を想起させる呼びかけを行いました。

“To all the little girls watching...never doubt that you are valuable and powerful & deserving of every chance & opportunity in the world.”
(全ての少女たちへ。あなたたちは、貴重で力強い存在だということを疑わないで。世界中のあらゆるチャンスを追い求める資格があるのだから)
“And to all the young people in particular, I want you to hear this. I’ve spent my entire adult life fighting for what I believe in. I’ve had successes and I’ve had setbacks―sometimes really painful ones. Many of you are at the beginning of your careers. You will have successes and setbacks, too.
This loss hurts. But please, please never stop believing that fighting for what’s right is worth it. It’s always worth it. And we need you keep up these fights now and for the rest of your lives.“
(そして特にすべての若者たちに、ぜひ伝えたいことがあります。私は生涯に渡り、自らが信じるもののために戦ってきました。時に成功を収め、時に挫折を味わい、手酷い痛手に打ちのめされたこともあります。多くの皆さんが、この先ご自身の人生キャリアを積んでいくでしょうし、その先には成功も、また挫折もあるでしょう。今回の敗戦は大きな痛手です。けれどどうか、どうか「正しさのために戦うのは、価値があるんだ」ということを、信じ続けてください。そう、それは常に価値があることなのです。そして今も、この先もずっと、私達はあなたがたが人生を通じて戦い続けることを望みます。)

　多種多様な民族や文化や風習を持つアメリカという国では何か共通の基盤をお互いに持つ事が出来なければ”一つのアメリカ”としてまとまる事が出来ません。

大統領選挙と勝利宣言・就任式は、アメリカという国家の根底をなす価値観や理念を掘り起こし、アメリカを再統合するために式典会場を訪れる人々だけでなく、全米でテレビなどを通じて様子を見守り一体感を持つために行われているとさえ言えます。(まるでお祭りのようだと感じたとすればそれはある意味で正解と言える)

四年ごとに”再生”を繰り返す宗教的アメリカ民主主義

　第三にReincarnation(再生)ですが、就任式は新しい命の息吹を政府に吹き込む儀式です。某国のある政権のようになし崩し的に国のトップになったり、または誰か一人の権力者が長々と国家元首の席に居座ると独裁的だったり、お友達のための政治をしたりするなどの弊害が起こります。

それを防ぐためにアメリカ大統領は任期の上限を二期八年と法律で定め、定期的に新たな価値観や意見を国民投票によって取り入れていこうという仕組みが採用されています。

こうする事で自分が支持した人や政党が大統領とならなかったとしても、その誕生を祝う気持ちをお互いに共有して育むことが出来、分断を統合していくとされています。

またこの”再生”の儀式には、アメリカの国民の多くが信仰しているキリスト教の、イエス復活を重ねている側面もあるのではないでしょうか。アメリカ国民は大統領を神とは思っていない国民が殆どでしょうけれど、その儀式的な宣誓は聖書に手を置き行われています。

日本的”政教分離”の大誤解、アメリカに観る政治と宗教による価値観の多様性を認める社会