芸能人がYouTuberに転身する背景とサービスは有料か無料かというリテラシーへの懸念
最近、芸能事務所を辞めるなどをしてYouTuberに転身をする芸能人が増えていますね。(人によっては事務所には所属しながらという人もいるけど)
Googleで「芸能人 YouTuber」というキーワードで調べたところ、
2020年9月26日時点でも出ます、出します、大放出の状態です。
小学生(男子)が将来なりたい職業でもかつてはプロ野球選手とかプロサッカー選手が上位だったでしたが、2019年の調査ではYouTuberがそれらを抑えて第一位だったそうです。
※小学校低学年と小学校高学年を一括りにアンケート調査するというのにそもそも無茶な感じがありますが。
その子が大人になる時まで果たしてYouTuberという職業が社会的にどれくらい定着しているか、芸能界が衰退して現在の芸能界以上の存在感を持っているかもしれないと考える人もいるようです。
YouTuberとして有名な方々といえば、少し前までは個人の方などの中で面白そうなことを配信したりする人たちが主流でした。
しかし気が付くとここ数年、芸能人たちがこぞってYouTuberに転身しています。実はここにはFP・IFAの立場から見た時にも非常に興味深い変化。いえ危惧すべき点がありましたので私なりの視点からまとめてみたいと思います。
ニコ生/やってみた系などから輩出されてきた黎明期
それ以前にも配信系で活躍した人はいたかもしれませんが、代表的なところで今なお多くの人が知っているところだと「LEMON」などのヒット曲で有名な米津玄師はハチ(HACHI)の投稿名で2009年頃(18歳頃)から活躍していました。
当時は初音ミクなどのVOCALOIDで曲を作ったりする人気ボカロPの一人だったそうですが、2012年(21歳の時)に米津玄師の名義で「diorama」をリリースしてソロデビュー。以降の活躍は改めて解説する必要はないでしょう。
音楽や映像などアーティストにとって自分の技や能力を披露する場という意味でインターネットがかつてでは考えられないような使われ方をされ始めてきたことに疑問の余地はありません。
個人的にはニコニコ動画の弾幕、というかコメントが画面に流れるのは大好きなのですがYouTubeはそうはなっていないのも面白い違いですよね。
YouTube創業と日本上陸、収益化まで
米津玄師らが活躍したのは当初は日本のドワンゴ(現KADOKAWA)が2006年12月に国内を中心としてサービスを開始した「ニコニコ動画」ですが、その少し前にあたる2005年2月に世界最大の動画投稿サイトYouTubeはアメリカ・カリフォルニア州で設立されます。
創業者はネット通販などでの決済手段として小売店にクレジットカード情報を教えたくない消費者のための第三者決済を先駆けて提供を始めたPaypalからスピンアウトしたメンバーたちで、いわゆるペイパル・マフィアと呼ばれる人たちです。
セコイア・キャピタルなどのベンチャーキャピタルによる資金援助を受けてチャド・ハーリー、スティーブ・チェン、ジョード・カリム(上図1)らはYouTubeを設立。
誕生の逸話は諸説あります。創業者たちが開いたディナー・パーティーの様子を友人らに共有(シェア)しようと思ったエピソードやスーパーボウルでのハプニング映像をシェアしようとしたなど様々です。
当初はサーバー維持費用だけで月間100万ドル(約1億円)かかり、収益化をどのようにしていくのかが最大の課題であったことが指摘されています。
設立間もない2005年10月には検索エンジンとして破竹の勢いでYahoo!を追い上げていたGoogleが買収を表明します。
当時世界最大の検索エンジンだったYahoo!は1997年に創業間もない段階のGoogleを100万ドル(約1億円)、2002年には30億ドル(約3,700億円)と二度のGoogle買収交渉に失敗したことを転機に検索エンジン市場での転落を始めます。
一方のGoogleがYouTubeに提示した買収額は16.5億ドル(約2,030億円)、当時のGoogleにとっては最大規模のM&Aでしたが、その後のGoogleの飛躍を支える大きなエンジンを手に入れたと言えます。
資金調達によってYouTubeは世界中での展開を始め、2007年6月に日本をはじめとした10か国への進出を果たします。
そして直前2007年5月頃からアメリカでの閲覧数(再生数)の多い配信者に対して「YouTubeパートナープログラム」(以下YPP)と呼ばれる広告料の支払いがされるプログラムを案内し始めたとしています。
この頃から収益化のビジネスモデルが確立していったと言えるかもしれません。
YPPへの大まかな参加条件は、
チャンネル登録者数1,000人以上
有効な公開動画の総再生時間が直近の 12 か月間で 4,000 時間以上などで、
これら一定の条件を満たす配信者に広告料を支払う仕組みです。
それまでのどうやって収益化をするかから、動画の間に広告を挟むことでスポンサーからの広告料をYouTubeが受け取る仕組みは一見するとテレビ局とCMスポンサーの関係にも似ているように思えます。
しかしこれがテレビ局とは異なることについて触れておきたいと思います。
テレビ局とスポンサーのビジネスモデルとNHK受信料問題
NHKを除きテレビ番組の途中などで「この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りしました」という差し込みシーンを観たことがない人はいないように、民間放送(民放)は広告主(スポンサー)がお金を払うことで番組制作費や出演者のギャラを収益化しています。
そしてスポンサーはその他に番組の途中や前後でコマーシャル(CM)を流すことができます。
これを図に表すと次のようになります。
視聴者は番組を無料で観ることができる代わりに、番組の途中でCMを観させられます。(トイレに行ったりとか、飲み物やお菓子をそろえたりとかでテレビの前を離れる絶好のタイミングだったりもしますが)
ここで大切なのはテレビ局というのは視聴者からお金を頂くのではなく、スポンサーからお金をもらうことで番組を制作し、スポンサーのCMを効果的に流すために視聴率の取れるであろう番組の制作を行うという点です。
テレビがまだ一家に一台あるかないかのような時代や、家族でチャンネル戦争をしていた時代はいざ知らず、今日ではテレビを持っていない若者も増えています。(私も彼是10年ほどテレビを所有していません)
またビデオデッキやレコーダーが普及するとリアルタイムで番組を観るとは限らなくなり、視聴率と実際に番組を観た人の割合の乖離が生まれ始めます。
さらに早送りやCMスキップ機能までこれらの機械に搭載されたことでスポンサーはお金を払って番組の制作を支援しているのに自社のCMはあまり見てくれないという費用対効果の悪化が懸念されていました。
挙句にはこんなことが行われました。
CMというのがスポンサー、またテレビ局にとって如何に重要な収益源であるかが分かる話ですが、視聴者はお金を払わずに番組を観ている以上、メーカーのCMカット機能・スキップ機能の排除に文句を言う立場にないわけです。
CMを否定するならスポンサーの代わりに民放へも受信料を支払えという話です。恐らく殆どの人はCMを流されることに対して賛成をするでしょう。
喩えるならテレビを観れる環境を用意した段階で、テレビ番組を無料で観れる代わりにCMを流される目に見えない契約を強要されていることになります。
そしてそれはNHKの「テレビを受信できる状態にした時点で受信料を支払う義務がある」構図に、とても良く似ています。
NHKを観ている人は当然、受信料を払うべきだと思いますが、
「NHKなんか観ないよ!」という人まで契約を強要させるのは放送法があるからではなくて時代錯誤だと感じませんか?スクランブル放送で受信料の支払いの有無で放送を観れないようにしたり、災害時にはそれを解除したりは容易にできる時代なのに。
そう感じるのであれば民放におけるCMを観る代わりに番組は無料と同時に、民放は受信料を払うからCM流さないという選択肢も同時に視聴者に提供しなければ不公平ではないでしょうか。(実際にはCMを観ていないけど、観ているという建前で現在のテレビ局や放送業界が成り立っているのは知っていますが)
インターネット高速化とYouTubeによるCMビジネスモデル
さて、他方インターネットの通信回線の速度がナローバンド(アナログ回線)からブロードバンドへ進化したのが正に2000年代初頭でした。ADSLやFTTH(光インターネット)の普及を境にして動画広告がPC用のWeb画面のあちこちに登場するようになります。
携帯電話の通信速度も2000年代半ばの3G(ドコモFOMA)から4G(ドコモXiまたはLTE)へ進化する時期(2010年頃)に合わせてスマートフォンやタブレット端末が普及して、テレビ以外の画面で動画を観る人たちが急速に増えていきました。
そこで登場したのが前述のYPPのような動画の間にCMを流すという仕組みの登場です。図にすると次のようになります。
視聴者は相変わらず無料で動画を観れますが、動画の途中で何度かのCMを観させられます。皆さんが日頃どれくらいYouTubeなどを観ているか分かりませんが、数年前よりも1本の動画を観ている間で流れるCMが増えたと感じていませんか?
また今までならせいぜい動画1つを観る間に1つか2つのCMだったものが、2つ続けてCMが流れたりスキップできないCMも増えています。
YouTube側(またはYouTuberのような配信者側)が明確に収益を稼ぎたいと考えるようになってきた表れでもあります。
またここで重要なのはかつてのテレビ局と異なり、動画配信者がより視聴者寄りに変化しているという点です。
動画を配信する側(YouTuber)は自分が好きなことをガイドラインに違反しない範囲で配信していると言う事もできますが、見方を変えると動画を配信することで収益を得られるから動画を配信するというインセンティブが働いているということを視聴者側は忘れてはいけません。
言い換えると沢山観てもらえるような面白い動画や共感を得やすい動画が増えやすい環境であると言えます。
※これが行き過ぎるとガイドライン違反になったり、再生数を稼ぐために過激な迷惑行為などをする輩が表れ始めます。(そして動画削除BANやアカウント停止などをされる)
facebookやInstagramのようなSNSでも類似の傾向がありますが、「いいね」などを集めたいと思う承認欲求と、動画再生回数やチャンネル登録数には近い関係性があります。
しかもfacebookなどと異なるのはCMを挟むということによる収益化をYouTube(プラットフォーム提供者)だけでなく動画配信者にとってのビジネスにもなっているという点です。
すると何が起きるのか…というのが私の懸念している点です。
ホリエモンによる買収劇失敗で日本版Netflixが生まれなかった可能性
テレビをしばらく所有していない私から言わせてもらうとそれ以前、2005年頃までに「テレビ番組が全く面白くない」と思うことが増えてきたように思えます。
個人的に就職をして、仕事にかまけてテレビを観る時間が十分ではなかったという理由も一因としてはありますが、帰宅してテレビをつけてもやっている番組は正直「だらだらいつまでもくっだらないこと垂れ流しているだけ」という印象でした。
視聴者がテレビ局などに出すクレームに対してイチイチ過剰反応して、出演者が降板したり謝罪会見をしたり、内容も含めてどんどん番組がつまらなくなっていったように感じます。(今も同じようなことを繰り返していますが)
そんな時に起きたのが日本のIT業界で飛ぶ鳥を落とす勢いだった堀江貴文氏が率いるライブドアと村上ファンドによるニッポン放送(フジテレビ)の経営権を巡る買収騒動でした。
結果的に買収は失敗に終わりますが、もしこの買収が実現していたとしたら現在のNetflixまたはHuluのポジションにいたのは日本のメディアだった可能性もあったのではと個人的には感じています。
(Huluは日テレがブランドを借りてサービスを国内で展開)
既得権を抱え込む頭の固い高齢者が自分たちの利益を守ることに官庁を交えながら圧力をかけ続けて、悉く可能性の芽を摘んできたとも言えます。
尚、個人的にはAbema(2016年設立)はお金を払って視聴しています。
やっぱり面白いからね。お金を払って観る価値はあると思っています。
芸能人が最近事務所を止めてYouTuberになる理由
冒頭でふれたとおり芸能事務所を辞めて、独立して自分自身でYouTuberになる芸能人が増えています。
そして上図は日本での場合ですが2018年には地上波テレビの広告費とインターネットでの広告費が並びました。
海外では2017年にインターネット広告がテレビ広告費を上回ったとの発表もありました。
コロナ禍でひたすら不安を煽る報道を繰り返して、多くの人の信頼を損なったテレビ局は2019年圧倒的に衰退して、NetflixやAmazonPrime、HuluやAbemaなどの新興勢力に確実に逆転を許したことでしょう。
近年、芸能人が芸能事務所を辞めて独立したり、YouTuberに転身をしたりしているのも実はここに大きな要素があります。
今まではA:スポンサーがB:テレビ局に広告料を支払うことで番組を制作し、CMを流して、そこにC:芸能事務所が仕事をD:芸能人に割り振るという構図でビジネスが成り立っていました。
しかしインターネットが高速・低遅延化した事とYouTubeのようなプラットフォームが提供された事で芸能人は芸能事務所を介さずに自分で仕事ができるようになってしまいます。(a~b~d)
芸能事務所に力があり、仕事をどんどん取ってきて芸能人に仕事を振れるならいいのですが、知名度もあり、元々人を惹きつける一芸に秀でた方々からすれば事務所に中抜きされている収益の方が余程もったいないとなってしまうことも珍しくありません。
ましてやテレビ局の番組はスポンサーの意向が強く反映され続け、もはや偏向報道となっていることも少なくありません。さらに視聴者からのクレームにおびえ、もはやPTAが番組を監修して作るしかないのではないかという有様です。
これも一重に世の中の在り方や仕組みが大きく変わってきていることにメディアも世間も対応しきれていない表れではないかと個人的には思っています。
またスポンサーにとってもYouTubeによるCMは費用対効果が良いとも言えます。これまではちゃんとCMを観てくれているかわからないのに広告料を出さなければCMを流せなかったものが、YouTubeのような動画配信では実際に流れた分だけの支払いで済みます。
これは現行のテレビではなかなか難しい点ですが、テレビメーカーの工夫次第ではCM放送カウント機能を搭載したテレビを作ろうと思えば作れるのではないでしょうか。
視聴者”寄り”の動画配信の何を懸念しているの?
そもそもの大前提として情報に対する”自己責任”があります。
視聴者にとってそのYouTube及びYouTuberが配信する情報の真偽は自分で考えてねということです。
テレビでもラジオでも書籍だって、一応「編集」や倫理委員会のような存在はあります。しかしYouTubeにはそういったものがありません。
言わば一定のフィルターがこれまでのメディアにはかけられていました。
それが機能不全だったり、おもしろくない原因にもなっているのですが。
しかしそれでも倫理規定はあり、そして一応の規制もありました。
それを経た上で作られたものだから一定の質は担保されていたと言えます。
情報とは学校であれ、会社であれ、本質的に自己責任で扱われるものです。
この事を自分で取捨選択し、判断することを”情報リテラシー”と呼びますが、今の多くの日本人に情報リテラシーが果たしてあると言えるでしょうか?
ではYouTubeはどうでしょうか?
一応、ガイドラインはあります。
しかしその情報の裏付けや確証などは基本的にはありません。
裏付けを確認しているはずなのに漏れていたり、テレビなどのメディアでも誤報はよくあるくらいですから、ノーチェックまたは又聞き程度の確証のないものがひたすら垂れ流されている可能性は常にあります。
しかも恐ろしいことにYouTuberは視聴者寄りの動画を好んで作成します。
いわば視聴者にとって耳馴染みが良く、理解・納得・共感を得やすい話をします。
するとそれは反響良く視聴者の周囲の人たちに広がっていきます。
口コミ・マーケティングまたは炎上マーケティングと呼ばれるものです。
その情報の真偽は兎も角、流れてくる情報をその流れのままに考えずに流された方が人間にとって圧倒的に楽だからです。
さて、この状態を利用して世界は一度大変な状態に陥りました。
ご存じでしょうか。
アドルフ・ヒトラー、第二次世界大戦によってユダヤ人の迫害・虐殺や国民の扇動によって欧州中心に世界中を戦火に巻き込んだ人物です。
ヒトラーは分かりやすい言葉と労働者にとって魅力的な政策で国民からの投票を集めて選挙に勝つと、メディアを掌握して不都合な情報は報道させず、ユダヤ人がすべての悪の元凶であると仮想敵を作りあげ、そして悲劇を生みました。
ヒトラーやナチスドイツというと独裁政治をイメージする人も日本では多いかもしれませんが、それは明らかな勉強不足です。
ヒトラーは民主政治によって選ばれて国のトップにまで駆け上がり、そして権力を掌握したわずか数か月でメディアを掌握。国民を誘導したのです。
人の脳の仕組みはシンプル
心理学の話をすると人間の脳はとてもシンプルです。
入ってくる情報の真偽を判断する能力をそもそも持っていません。
自分の頭の中の情報を真実であると思い込もうとします。
そして自分にとって不都合な情報は受け付けようとしません。
つまり放っておくと楽な方に流されやすい傾向にあります。
だからこそ集中して新聞や書籍を読みながら、自分の中で情報を交通整理する習慣やトレーニングをしていかないとテレビのような黙っていて流れてくる情報は大変危険で、むしろ「洗脳」には持って来いの媒体です。
しかしYouTubeをそこまで心配をする必要もないのではないか、という人もいるでしょう。
視聴者寄りの動画の方がより再生数が稼げるのですから、私はその懸念は否定できないと思います。
特に時事ネタや学習系については自分で新聞や本を読んでいるのでもないのに、知ったつもり・理解したつもりにしやすいので新聞や本を読む時に匹敵する集中力をもって観る必要があると思います。
あと聴き流しはもっと怖いです。ノーフィルター・ノーブレーキで頭の中に情報を垂れ流しています。
つまりはYouTuberが視聴者寄りになればなるほど、思考停止の深みにはまって抜け出せなくなっていくという思考力を奪われる懸念をしているのです。
無料に慣れてしまった日本人にYouTubePremiumはこのままだと普及しない
ちなみにCMがウザいと感じているYouTube視聴者向けに、CMカットのYouTubePremiumという有料サービスも展開しています。
YouTubeオリジナル動画がNetflixやAmazonPrimeみたいなクォリティの番組を作っているとは今のところまだ聞こえてこないんだけれど、選択肢を提示してくれる点ではYouTube(Google)は既存のテレビ局と比べてまだ良心的でしょう。
しかしこの仕組み、音楽のオフライン再生やバックグラウンド(BG)再生など魅力もある反面、たぶん無料になれすぎてしまった日本人のリテラシーの低さではウケないだろうなとは思います。
それにYouTuberも自分にとっての収益がYouTubePremiumの場合には入ってこないんじゃないだろうか?収益分配の仕組みがあるのかな?YPP対象になっているのだろうか。
いずれにしてもYouTubePremiumが主流になるか、それに近い影響力を持ってくる(YouTubeオリジナル番組がNetflixやHuluなどよりもっと面白いなど人気になる)ほどの規模にならないとここを重視するYouTuberは出てこないように思えます。
YouTubeは単独としての付加価値を高めるよりも、Appleが取ろうとしているiCloudやAppleMusic、AppleTV+(まだ日本向けはサービスが不十分)などの合わせ技みたいなものの方が価値を高められると思うのだけれど、またこれはン別な話なので割愛。
FP/IFAとして無料が怖いという話を何故しているのかと言うと…
私はFP・IFAとして働いていますが、つぶさにこの「無料ビジネス」に怖さを感じています。
資本主義社会のこの世の中において「無料」のものは存在しません。
喫茶店でお水をコップ1杯もらうにしても、あなたはお店がサービスをしてくれたと水の代金を払わないことに喜ぶかもしれません。(もはやそれを当然と勘違いしていないでしょうね?)
しかしあなたがコーヒーやお茶、ケーキなどを注文もせずに水だけ飲んでお店を出たとしたらこのお水のコストはお店が様々な経費から分散して負担をするのであって泥棒も一緒です。ましてやお店をそこに構えるコストや光熱費も含めて代金から回収していくのですから、無料ではなく実質マイナスです。
また身近な例であるのがコンビニなどのトイレを借りるという行為。
「トイレ使わせてくれてありがとう」とせめてガムでもジュース一本でも何か買い物をしていくのが人としての道理です。
喫茶店やコンビニは「何か注文して下さい(買ってください)」とはあえて言いません。ご自由にお使いくださいとしているコンビニもあるほどです。
でもそれは言葉にしないだけで「何か注文してください」と言っている暗黙知です。気持ちよく利用してもらってまた今度使う時には買い物をしていってねという考え方もありますが、それは普段からそのお店を利用している人の場合の話です。
現代にはこの無料ビジネスがあふれています。
しかし無料に慣れすぎてしまい、「無料は当然」と勘違いをしている日本人が最近どんどん増えてきているように思えます。
それが無料でサービスを提供できる裏には、何があるのか。
私が最近、FP・IFAとしてこれを感じるのは「投資信託」の購入時手数料ゼロ円や保険相談無料という風潮です。
購入時手数料が無料なのは誰かに相談をせず、自己判断で商品選定や運用判断ができるという前提の上に成り立っています。
「どの投資信託を買ったらよいか?」と証券外務員やIFAに尋ねるのは彼らの人件費(時給)の搾取と一緒です。
保険相談も同様です。巷には生命保険/損害保険の相談を無料という看板はあちこちで掲げられています。
では本当にその相談は無料でしょうか?
違うことは多くの方が理解して、想像できていることでしょう。
この世の中に無料のものなど存在しない、サービスを受けるためには対価が必要です。
私は顧客にとって私が提案できる最も良いプラン提案のために投資信託や保険の相談料を1相談5千円頂いています。(相談料無しの場合には意向を聞いた上でのプラン作成し報酬によってそのコストを回収)
そうすれば数時間、その顧客の相談のために設計をして印刷をして、資料をそろえて…という労力に対してタダ働きには少なくともならないからです。
(交通費・喫茶店代とインク代がバカにならない…)
こっちの商品の方が報酬・手数料が高いから…という理由では決して商品選定をしません。相談料を頂いているわけですから、利益相反になってしまいます。
顧客の必要性に対してまず最善を尽くすことができます。設計から提案まで含めた時間、少なくともタダ働きにはならないわけですから、ただ目の前の相談者のために提案をします。
その提案プランに納得するかしないかは相談者次第ですが、耳馴染みの良い、自分にとってだけ都合の良い商品など存在しないのですからこれくらいを頂いて保険相談をするくらいが現状はちょうどよいと考えています。
(あまりに相談が増えた場合には値上げして調整しますが、たぶん当面はしなくてもよいだろうと思っています)
相談料を支払わず相談を受けるというのは、つまりそういうことです。
無料相談の場合、取り合えず話を聞いてみようかという安易な相談が増えます。成約率が劇的に落ちます。だってそもそもそんなに本気で考えようと思っていないですから。
そして無料相談の場合、成約率が落ちる分だけかけた労力やコストを成約してくれる人の契約で回収しなくてはなりません。つまり報酬・手数料の高い商品・プランの提案をせざるを得ない悪循環に陥ります。
日本の消費者は無料に毒されすぎています。無料ということはそれを回収するために膨大な手数料や縛り(2~3年または10年超など)を契約していることと同じだというのに。
本当の賢さとは、何か巧い方法を使えばお得になるんじゃないか?ということではありません。
そんな方法は存在しません。あるとすればそれは詐欺です。
あなたが騙され、目に見えない形で巧みに手数料を搾取されているからそう感じるのです。
相談料や手数料が高いと考えるなら有料相談や有償サービスを受けず、無料相談を受けて相談料や販売手数料以上に高いコストを目に見えない形で支払うことになります。
携帯電話やスマートフォンの普及当初もそうでしたよね?機種代を支払わない代わりに通話料・通信料と2年や3年の契約を縛られて…それが不利で、SIMフリー機で機種と通信を分けて契約すべきという議論がありました。
コストを抑えると、コストを支払わないは似ているようで全然別なことです。
YouTuberに転じる芸能人が増えている現象と、様々なところに潜んでいる無料ビジネスという目に見えにくい高コスト。この記事が一人でも多くの人に考えるきっかけになればうれしいです。