「SDGsに沿って新規事業考えて」の罠
皆さん、こんにちは。柳本です。
突然ですが、皆さんは習慣として継続できているモノはありますか?読書、筋トレ、スポーツ、旅行、ゲーム、サウナなどいろんなものが挙げられるのではないでしょうか?
私の場合は漫画と読書が20年ほど、あと町歩きが10年ほど続く習慣です。特撮チェックも20年以上続く趣味ですね。
では習慣とはなぜ続くのか、これはまずやっていて楽しいというのはあるでしょう。自分自身のリフレッシュになる、交流を楽しめる。新しいことを知るのが楽しい。そういうメリットがあるから続きますね。別の側面はどうか?あなたにとって無理なく続けられるという面もありますよね。
苦しいこと、いやだなぁと思うことはなかなか継続しませんし、続けるのがしんどいです。ただ最初に苦しくとも体や心が慣れてきてできることもあります。無理なく続けられるように順応した結果として。
持続的に何かをし続けるというのはこの自分にとって苦しくない、無理をしない常態でいることが大切だと思います。
この考えを少し広げて地球全体で考えたときに、我々は果たして地球で生きていくということに関して無理なく持続可能的に活動できているのか?今日はそんなSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))について筆を執りたいと思います。
そもそもSDGsって何?
最近はSDGsについて取り上げられる事が多くなってきたので名前や中身について知っているよという読者の皆さんもいるかと思います。初見の人も分かるように簡単に説明しますね。
SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標です。17のゴールとそこにひもづけられた169のターゲットが設けられました。先進国も発展途上国も、行政機関も自治体も、企業もNGOやNPOも個人にも共通する全人類の共通目標です。
SDGsは3年もの歳月をかけてできあがった目標で、世界中の様々な立場の人が協議を重ね、1000万人もの一般生活者の声にも耳を傾け成立したといわれています。つまり一部の偉い人や困っている人のための目標でなく企業人や一市民として我々にも取り組む事のできる目標なのです。
それぞれの目標について概要だけ触れておきますね。
目標 1 あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ
目標 2 飢餓をゼロに
目標 3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
目標 4 すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
目標 5 ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
目標 6 すべての人々に水と衛生へのアクセスを確保する
目標 7 手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
目標 8 すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワークを推進する
目標 9 レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る
目標 10 国内および国家間の不平等を是正する
目標 11 都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする
目標 12 持続可能な消費と生産のパターンを確保する
目標 13 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
目標 14 海洋と海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
目標 15 森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る
目標 16 公正、平和かつ包摂的な社会を推進する
目標 17 持続可能な開発に向けてグローバル・パートナーシップを活性化する
一見するとなかなか取っつきにくい目標のようにも感じられたのではないでしょうか?しかし、どんなモノが目標なのかは見えてきましたね。
世界は果たして良くなっているのか?悪くなっているのか?
この目標を見たときに皆さんはどのように感じられたでしょうか?日本にはあまり関係ないことも多いと思いましたか?そもそも世界ってそんなに危機的な状況なんだっけという疑問を感じましたか?こういう疑問は多角的に物事を見るためにも大切ですね。
もし、世の中の貧困、飢餓やジェンダーの問題が世界的に見てどんどん悪化していて世界は悪い方向に向かっている、そう感じている人はその状況が事実なのか自分の中の思い込みなのかを一度確認してみても良いでしょう。「FACT FULNESS」の著者のハンス・ロスリングスはこうした我々の思い込みについて定量的なデータを示しながら反証をしてくれています。
例えば世界の人口のうち極度の貧困にある人の割合は過去の20年でどう変わったかという問いに対して、
A:2倍になった、B:あまり変わっていない、C:半分になった
この3つのうちどれが正解だと思いますか?
あまり引っ張っても仕方がないのでサクッと答えをお伝えすると、Cの半分になったが正解なんですね。
ハンス氏は「FACT FULLNESS」の中で人間には物事をドラマチックに捉える本能があるからファクト(事実)をしっかり確認しようと提唱をしています。
貧困以外にも世界の平均寿命は1800年代の30歳から倍以上の72歳になっていたり、5歳までに亡くなる子供の死亡率も1800年代の44%から4%にまで減少しています。
この本に記載されている内容が正だとすると世界の多くの事象において世の中は良い方向に向かっていると言えるでしょう。そうするとなんでSDGsの目標が必要なんだろう??という話になってきますね。
この2つの異なる話を私なりに解釈すると、FACT FULLNESSの中のデータはあくまで平均の話という点と、全体で減ってきているから万事OKと言うわけにはいかないからだと私は考えています。
世界的に良くなっていても、そこにまだ苦しんでいる人や苦しめられている人がいるならば放っておいてよい道理はありませんよね。今の我々の生活が誰かの苦しみの上に成り立っているとしたら果たしてこのまま笑顔で残りの人生を過ごせるでしょうか?多くの人の答えは否だと思います。
SDGsの土台となった持続可能な開発のための2030アジェンダのなかでも「世界を持続的かつ強靱な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることを決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う」とあります。この誰一人取り残さないというのはキーワードですね。
ではもう少し身近な日本の中で感じる問題点についても触れたいと思います。例えば日本の中に貧困はあるのか、これは結構難しい問題提起です。感覚的に日本には貧困などないのではと思う方もいるかもしれません。
ここは貧困の計り方を意識したいところですね。貧困には絶対的貧困と相対的貧困の基準があります。(詳しくはWikipediaにGo) ただし、その貧困を測る尺度をこれまでは日本では持ち合わせていませんでした。そこで日本の厚生労働省は2012年の国家予算で新しい貧困指数を作成するよう要請しました。新しい指標では貧困に影響を与える重要な要因、すなわち健康、食、衣服、生活条件を含めて提され、2013年に日本政府は16%の相対的貧困率を記録し、これは統計記録上過去最高記録になったとのことです。
自分たちが普段所属する集団内での交流だけだとこうした貧困の実態は見えてきませんね。しかしこの統計はなかなか驚く数字だと思います。我々の身近な所にも問題は転がっているということです。SDGsの項目をきっかけに日本の中の問題に光が当たり、現状を変えていくチャンスです。
ここまでの話をまとめると、世界の問題は相対的に良くなっていることも多い、しかし地域や国により問題はまだ残っており、誰1人取り残さないという考えが大切。日本にも関連する項目は存在し、17の目標をきっかけに身近な問題には何があるのかを理解する、こんな所ではないでしょうか?
SDGsがもたらすビジネスチャンス
SDGsへの取り組みについて、やってみよう、調べてみようという意欲はわきましたか?もしそうであれば嬉しい限りです。しかしここである疑問が浮かびますね。SDGsを企業として取り組む時に果たしてこれは売り上げや利益の向上につながるのかと。
世界経済フォーラムの試算によると、SDGsが達成できると全世界で3億8000万人の雇用が生まれると見られています。またSDGs達成までに必要な資金は97兆ドルとも言われています。誰がこのコストを賄うのかをいったん脇に置いたとしても、そこにはビジネスチャンスが広がっているように感じますね。
また今後投資の観点でもSDGsを機転にしたビジネスの可能性が見えてきます。これまでの投資の評価軸はリスクとリターンの2本柱でしたが、現在はそこにインパクト(社会に与える影響)という評価軸が加わってくるといわれています。今後は環境(Environment)・社会(Social)・統治(Governonce)に配慮したESG投資が増えていくことが予想されます。
しかしSDGsに取り組めばコストばかりがかさんで売り上げや利益につながらなさそう、そういう疑念はまだ残りますね。
SDGsの観点に取り組んだサンプルの1つとしてイギリスの化粧品メーカーの「LUSH」の事例を取り上げたいと思います。
もともとは添加剤をしようしない商品の開発などエシカル(倫理的)であることが企業の存在意義としてきた同社ですが、たった3年で売り上げを3倍にした実績を持ちます。その起爆剤となったのがプラスチック包装を廃ししたことでした。プラスチック包装が適切に処理されず海洋に流れ出ることで海を汚し、生態系や景観を破壊します。まさにSDGsの目標の目標 14 海洋と海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する、に該当する問題です。そうしたプラスチックの問題についてLUSHは包装をなくすというイノベーションで対策を打ったのでした。
化粧品の製造コストのうち、パッケージが占める割合は約半分と言われています。ですからこのパッケージをなくすことができれば環境に優しいだけでなく、より商品そのものの品質を上げることにもお金を割け、かつコストも低減できるのです。
日本も五輪開催のためにレジ袋が有料化されましたが、こうした機会は環境への配慮だけでなくビジネスチャンスにつながるはずなのです。SDGsをきっかけにビジネスの転換点を探る必要があります。
SDGsに対応した新規事業を考えよ!という難しさ
SDGsの可能性やビジネスへの広がりも理解して、いざこれからSDGsについて取り組んでみようと意気込まれた皆様、章のタイトルで早速出鼻を挫いてすいませんw しかし私としては注意喚起を是非したいのです。
今様々な企業で、このSDGsという言葉が普及してきてこれに沿ってビジネスをせよという話が出てきているのではないかと私は推察しています。SDGsは個人でもできることがありますが、企業として取り組む場合には実は様々な難しさがあると感じます。
ここでSDGsをベースにしたビジネスで多くの企業(特に大企業)が陥るであろう失敗を予測したいと思います。
①現状の取り組みをとりあえずSDGsにひもつけて満足する
今からSDGsをやるぞ!と言ってとりあえず今やっている仕事でそれっぽいモノをピックアップさせる。(させられる)このこと自体はSDGsの認知を高めるために悪いことでありませんが、自分たちが何かをやれているようになるリスクがあります。必要なのは現状維持でなくSDGsをきっかけとしたイノベーションなのです。
②SGDs軸の新規事業をボトムアップで提案させる
SDGsレベルの取り組みはトップの決意と実行力が新規事業を成功させる上で必要です。ボトムアップベースでは上位者の意識がころころ変わって上手くいかない可能性があります。SDGsの中にある現状の問題について企業としてどう解決に関われるのか。その本気の考察とそれに基づく意思決定が必要です。LUSHの例でもプラスチック包装を廃止したときに消費者からの強い反発がありました。こうした反発にくじけず意思を持ってビジネスを遂行するにはトップがしっかりと号令をかけて組織を動かす必要があります。
③SDGsの17の目標をばらばらに捉える
SDGsの目標はつながっています。1つ1つがばらばらでありません。ビジネスをする場合、いくつかの項目が連動しています。しかしこの目標をしっかりと理解せず、1つ1つについてできることを考える・考えさせる、そうするとなかなかイノベーションにつながらず、大きくビジネスを変えることにはなりません。例えば脱プラをしても原材料を作る人達から搾取していてはSDGsの目標は果たせません。企業活動をする中で環境だけでなく、サプライチェーンに入っている人達の持続可能性についても考える必要があります。
もし現状こうなってしまっているよ、と共感された人がいらっしゃれば教えて頂きたいですね。
ではどのようにSDGsに対して取り組むべきか?皆さんが気になるのはここですね。先ほどのダメな事例の逆をいく必要がありますね。
JICAがSDGsビジネスの成功要因をまとめてくれていました。
出典元リンク:https://www.jica.go.jp/priv_partner/case/success/index.html
ただここに記載があることは基本的なビジネスで行われていることと相違がない部分も多いの(適切な市場選定や商品開発、資金の確保など)で、このJICAのまとめを勘案しつつ私が考える重要な3つのポイントについてお伝えします。
①自社・自ビジネスに関わるSDGsの問題点を深く理解する。SDGsの問題に全て一企業や1つのビジネスで対応する必要はありません。これは地球全体のチーム戦なのです。海洋ゴミ問題、貧困問題、飢餓、森林破壊や生態系の破壊、サプライヤーや調達先の搾取、従業員や関係者の健康の維持、エネルギーの無駄な利用や利用に伴う環境汚染。それぞれのビジネスが直面する、あるいは間接的に悪影響をもたらす問題についてまずは真剣に調べ、考えてみる、まずはこれがスタート地点だと思います。
②SDGsの目標に関わる問題点を明確にして、その問題をビジネスを通してどう解決したいのかを描く。これは世界観を描くのと同じですね。自分たちのビジネスで解決して世の中をどうしたいのか、それを描く必要があります。木材を扱う仕事であれば、森林の保全や生態系の維持をビジネスを通してどうしていきたいか、原材料を輸入して加工する仕事であれば、その輸入元で労働力として子供が搾取されていないか、環境へのダメージを与えず持続的なビジネス我できてWin-Winになれるか、様々な観点があります。
③目指す世界観と現状のビジネスのギャップを明確にして、イノベーションが必要な領域、仕事の改善が必要な領域を可視化し、中長期で具体的な計画を立てる。ここはトップがまず問題を解決するための姿勢を示しつつ、組織としてどのように取り組むかを計画立てていく必要があります。LUSHのような大胆な発想の転換をする場合に、イノベーションが求められたり、それまでのお客様の習慣が変わる事への反発に粘り強く対応をしていく必要があります。イノベーションが必要な領域には戦略的な投資と中長期で取り組む決意が必要ですね。
具体的な手法がなかなか思いつかない場合はSDGsでビジネスを大きく転換している企業を研究しその取り組みを学ぶという手法も有効です。
海外の事例が中心ですが、JICAの下記資料は事業のプロセスやSDGsの目標の相関が非常にわかりやすいのでまずはイメージを膨らませる上でお勧めです。UnileverやDanon、Nestleなど日本でも有名な企業が様々な取り組みをしています。
ここに掲載されている以外の事例もいくつかご紹介しますね。アディダスはもともとエシカルな活動が素晴らしいですが、海洋のゴミを回収して作ったシューズに着手するなどとても興味深い動きをしています。
海外勢ばかりで日本の企業がないと寂しいので1つだけ。日本環境設計株式会社では小売店で古着を回収し、独自開発した独自技術を使ってポリエステル繊維を再生ポリエステル原料に変え、そこからまた新たな服をつくっています。
他社から学びながらどの問題にどう対応していくか、何ができるかをビジネス視点で考え、行動するきっかけとしたいですね。
SDGsは既に始まっている
SDGsの中身について、また同時にその難しさについても理解いただけたのではないでしょうか?大切な事はまずは、問題意識を持ち議論のテーブルに上げるということです。問題として捉えなければ解決されることはないからです。
私自身SDG sの目標に貢献するための仕事に着手し始めています。我々にとってできることは何かを真剣に考えて具体的に打てる手を検討し、前に進めていきましょう。
私たちにできることを一歩ずつ。
【参考文献】
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