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【ベトナムで「賃金テーブル」を検討する場合の主な論点リスト】

(2024年12月10日 改訂)

ベトナム人事労務コンサルティングのアジアゲートベトナム代表の豊田英司です。

人事労務のご相談の中で「賃金テーブルを作らないといけないんですけど、なかなか作れなくて、、、」というお話が非常に多いです。

どうして、なかなか作れないか?の理由で最も多いのが、「賃金テーブル」と言われた時にベトナム人と日本人で思い描く「賃金テーブル」が全然違う、という事情がございます。

もっといえば、ベトナム企業できちんと賃金テーブルを活用して賃金運用している会社が非常に少ない、と言ってしまってもいいかもしれないです。

これは別にベトナム企業がいい加減だから、とかいうだけの理由ではなく、これまでの経済状況なども影響しています。

あまり細かい話をしてもピンとこないと思いますので、まず初歩的な「賃金テーブルを検討する場合の基本的な論点」を列挙します。


これを読んで「ん?全く初耳だ」「全然、意味不明だ」という論点があれば、きちんと検討されたほうが良いかな、と思います。

(論点1)テーブルは職種別にするか?全社統一にするか?

 ベトナムでは日本のような”総合職”という曖昧な概念はなく、営業、経理など「職種による賃金相場」が確立されています。
ですので、賃金テーブルを作る場合に、同じマネジャークラスといっても賃金相場はかなり違いますので、賃金テーブルも最初から別々に作成することをお勧めします。
全ての職種で同じ賃金テーブルを使用した場合、違う職種のマネジャー同士が「どうして、同じマネジャーなのに、私と彼は賃金が違うのですか?」と結局、同じランクの中でいちばん賃金の高い職種の方に吸い寄せられてしまう懸念がありますので。

(論点2)昇給率(額)においてベア部分と定昇部分を分けるか?

 賃金テーブルに記載するのは定期昇給(定昇)部分の金額だけにし、主にインフレ対応部分であるベースアップ(ベア)は毎年、別途決定し、賃金テーブルの金額自体を変更するか?
そうすると、定期昇給自体は平均的に年間2−3%程度になるが、これを見るとベトナム人は「少ない!」というので、きちんと「これはあくまで定昇だけ。ベアは毎年、きちんと計算して、これに加えるので、6−7%程度になる」というような説明をする必要があります。
ベトナムでは、定昇とベアの区別をしていない、知らない、という人事スタッフも多いですので。

(参考記事)


(論点3)「役職(マネジャー、リーダーなど)」と「等級(能力や役割によるランク)」を一体運用する?切り分ける?

 日本の「能力資格」の場合、能力による等級では違うのに、役職としては同じ、ということがあります。
例えば、能力の等級は5等級と6等級の違いがあるが、同じ「課長」という役職である、というケースです。
 しかし、ベトナムでは、このような「能力による等級」という概念は一般的ではなく、あくまでもランクは役職である「マネジャー」「リーダー」とセットになっていることが多いです。

別にセットになっていても問題ないのですが、将来的に、役職の数が足りなくなってきた時、「上司が辞めないと、自分のランクが上がらない」という事態が生じて、若手の有望株がやめて行ってしまいやすくなります。
肩書と能力等級を切り分けておくと、「肩書は上がってないけど、能力は上がったから等級は上がる」ということで、昇格昇給がしやすくなり、若手の離職を止める効果が多少はあります。
今後、ベトナム経済が高度成長から安定成長に推移していく中でポジション数も以前のようには伸びなくなってくると、このような発想も必要になってきます。

(論点4)人事評価の項目は現法で独自設定する?それとも日本本社の人事評価項目を援用する?

ベトナム法人で等級制度や人事考課シート、賃金規定を作成する際に日本本社の人事評価制度を全く考慮しない、という企業様があります。
しかし、ベトナムで全く違う業種業態でビジネスをするならともかく、ほぼ同じようなことをするのに、「そのビジネスにおいて、どんな人材が必要で、それをどうやってやる気にさせるか」のノウハウの塊である人事評価制度を全く無視するというのはかなり勿体無いように思います。
もちろん、ベトナム用にアレンジは必要だとは思いますが、まずは日本での制度を基本として検討を進めてもいいのかなと思います。

(論点5)1ピッチ(1号)ごとの金額をいくらにする?

 標準評価(B評価とか)を得た場合に何ピッチ(号)あげるかにもよります。一般的には標準評価を得ると3ピッチ移動するくらいにしておくと、それより低いC評価で1ピッチ(号)、それより高いA評価で5ピッチ(号)などと運用がしやすいと思います。
そう考えると、1ピッチ(号)は概ね基本給の1%前後の金額にしておくと作成しやすいように思います。

(論点6)賃金テーブルの「天井」に到達した場合の扱いをどうする?

一切、昇給なし?or 青天井?or ベアのみ適用? or 減額昇給(例:上限に達したら通常の半分だけの昇給率(額))など?
詳しくは、こちらをご覧ください。


(論点7)同一テーブル内で賃金額の低い人と高い人では1ランクごとの昇給額に差をつけるか?

 例えば、5等級の賃金レンジが1000万ドン〜2000万ドンの時、現在、1100万ドンの人と1900万ドンの人がいて、同じ「B評価」を得た場合、昇給率(額)は同じにするか?それとも1100万ドンの人は大きく上がり、すでに1900万ドンの人は小さく上がるなどの工夫をするか?など


(昇給を「率」で考えるケース)


(昇給を「額」で考えるケース)


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ざっと考えて、まずはこれくらいの論点は明確にしないときちんとした賃金テーブルの作成はできないと思います。

今回は細かい説明は割愛していますが、現在、ベトナムで賃金テーブルの作成をご検討の方は参考にしていただければと思います。

全体的な賃金施策の改定の場合の流れはこちらをご覧ください
(参考)

(アジアゲートベトナム代表 豊田英司 )

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