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「俺は、どうすれば可愛いか、どうすれば怒られないか、知っていた」

「ねーちゃんが怒られるところを見て、俺はどうすれば良いか知った」

これは、3歳年下の弟が若い頃私に言った言葉。

アルバムを開くと、クリクリの目で、アイスを無理やり口に入れる可愛い弟。

その頃からすでに、
「俺はどうすれば、可愛いか知っている」

と分かっていたのか?
よちよち歩きの赤ちゃんなのに。

ヘルメットや長靴。

それすらも、弟の「可愛い」の武器だった。

その姿格好も、
「それが可愛いと分かっていてやっていた」
と私に話してきた。

その格好をすれば、
大人たちが皆、「可愛い」と言うことを弟は学習していた。

私は全く記憶にないのだが、そんな男、いや、弟の背中に馬乗りになって泣かせていたと聞いた。

弟への嫉妬に狂っていたのだろう。
弟さえ生まれてこなければ、両親の可愛いは私にだけ集められた。

弟はとても気性が激しい。
何かの、スイッチを持っている。

そして、とても運が良い。

弟の名前は父が辞書を手に吟味して決めたと聞いた。

それに比べて、私の名前は姓名判断では大凶となっている、母がとても憧れていた人の名前にされた。

弟は、勉強ができなかった。

でも、良い就職先に運良く転職し安泰だ。

どれくらい馬鹿かというと、高校の再試験の日に昼前に起きてきて、何をしてるのか聞いたら、

「俺だって分からない」

と言って試験日に寝坊して試験を後日受けさせてもらっていた。

ずるい。

また、元朝詣りから父と母がざわついて帰ってきたら、
中学生の弟が両手に女の子と神社にいたというものだった。

弟が高校生の頃、その日は家にいたので、私は弟に毛糸を買ってきて欲しいと頼んだ。

弟は、バイクを持っていたので私の頼みを聞いて買いに行ってくれた。

そして、逆ナンをされたと言って、頼んだ毛糸を渡してきた。

なぜ、コイツがモテる。

なぜ、コイツはいつも運が良い。

母の財布から金を盗んでプラモデルを買っていたのを知っていた。

馬鹿な本人が私に自ら白状した。

しかし、私はそれを母に告げ口した。

「お母さん、◯◯がお母さんの財布から一万円も盗んで、プラモデルを買っていたんだって!」

母に言ったら何かが変わると思ったのだ。

しかし、
母は

「あらそう、気のせいかと思っていたけど、そうだったんだ」

怒らない。

全く。

それどころか笑ってる。

単身赴任の父。
二重生活は決して楽ではなかったはず。

ずるい。

私と弟はよく些細なことで喧嘩をした。

でもある日、死にそうになったので二度と喧嘩をするのをやめた。

蹴られて死ぬと思った。

それに比べ、大人からの可愛いを集めることができなかった私。

弟の影響で、仮面ライダーやウルトラマンを手に持ってアルバムの写真に写ってるものもある。

テレビも、戦隊モノを毎週楽しみにしていた。

いつか、仮面ライダーが私を助けにきてくれると本気で思っていた。

そして、女の子が持っている道具で、魔法の言葉を唱えると変身することも憧れていた。

社宅の地下室に行って、秘密の訓練をしていた。

誰もいないことを見計らって、魔法の杖(ただの拾った長い棒)を振りかざすと、ダンボールを動かす練習をしていた。

もちろん、動く訳などなかった。

それでも魔法は諦めなかった。

今度は少し風が強い日には、傘を持って出かける。

そうだ、魔法使いは傘で空を飛べるのだ。

少し高いところに立ち、傘を広げる。

そして思いっきりジャンプする。

真っ先に傘と落ちる。

これもしばらく練習した。

風が強い日を楽しみに待った。

必ず傘も持って出かけた。

きっと魔法が使える日が来る。

皆知らないけど、私は、魔法使いなんだ。

そんな私もあっという間に歳をとった。

弟は今、近くて遠い血のつながった他人となった。

今も相変わらず要領よく周囲に愛されて幸せなのだろう。

私はというと相変わらず不器用に生きている。

他人になった弟がいることは仕方ないと思っている。

その時、その時で状況は移り変わる。

家族だから、という理由だけで繋がれる時代ではないのかもしれない。

それでも、弟は可愛い。
本当はそう思っていた。

弟が若い頃、会社で女装する機会があった。
「この写真、なんかねーちゃんに似てない?」弟は嬉しそうに、自分のことをシスコンと言っていた。
そんな気味の悪い弟。

ずるい。

弟は、私が欲しかったものを全部受け取っていた。

そんな弟も、歳を取った。

でもまたいつか、

弟が私のことを、

ねーちゃんと呼ぶ日が来る。

そんな魔法を
使える日が来るんじゃないかって、

そう思っている。

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