
高齢者の思い出を地域へ繋げる
フィールドノーツ
質的調査では、メモのことをフィールドノーツということがあります。現場に行ったり、調査対象者に面接・観察したりして記すメモのことです。1)
高齢者の生活史や語りを、地域の社会資源として形にしたい。
この考えは、私が現在ボランティア活動で高齢者施設を訪れ、高齢者の方々のお話を聞かせていただく中で生まれました。
一人ひとりが、二人としていないかけがえのない存在です。
経験や人生、その言葉一つひとつに、生活者としての生きた記録が、それぞれの方の記憶の中に形成されています。
高齢者施設では、私が伺って高齢者の方々にお話を聞かせていただき、その会話から人々のニーズを知り、地域に必要なものを創りたいと考えています。そのような思いからボランティア活動をさせていただいています。
毎回、高齢者の方々が語る生活の記憶に、私は涙が出そうになることがあります。その中でも、生活史はとても貴重なものだと感じています。
今回、ボランティア活動で得た高齢者の方々の語りを、まずはフィードバックしていきたいと考えました。
特に、高齢者の方々の生活史や語りは、その人の人生に深く根差した貴重な記録です。私がボランティア活動を通じて得たもの、それは高齢者一人ひとりの生きた語りです。
その語りの中には、戦争や困難を乗り越えてきた歴史や、親兄弟や地域の子どもたちとの思い出が詰まっています。
~語りの一部を紹介~
・生まれ育った故郷への思い出
「川で野菜や米を洗って、おしめなんかも洗っていたの。川で洗って、窯で炊いたご飯はとてもおいしかったね。兄は兵隊に行っていなかったけど、他の兄弟たちと家族みんなで田んぼや畑で泥だらけになって働いたのよ。服はボロボロで、つぎはぎだらけだったけどね。」
「年に一回の神社のお祭りは、何よりも楽しみだったわね。演芸会や踊りがあって、あんこもちやごまもち、いなりなんかを食べながらみんなで楽しんだのよ。」
・寒冷地で育った方の昔の冬の過ごし方
「炉端に火を焚いて、みんなで暖まったのよ。寝る前には家族で布団を炉端で温めて、温かい布団をかけて寝たんだ。そして、はんてんを着て過ごしていたんだよ。
あのはんてんは、ばあちゃんや母ちゃんが縫ってくれたものだった。親は本当にありがたかった。」
私は、90代の方が語る
「ばあちゃん、母ちゃん」
そして
「親は本当にありがたかった」
と懐かしそうに語る、美しい白髪の高齢者の語りに思わず涙が出そうになりました。
このように、生まれ育った地域ならではの思い出、家族への思い、それはかけがえのないものです。
その方の語りを聞くたびに、私はその時代の光景が目に浮かぶような感覚になりました。
フィードバックの大切さと返し
得た情報や知識は、得た場所に「返す」ことが大切だと私は考えています。この考えは、私が長年地域で歯科衛生士の仕事をしてきた中で身につけたものです。
フィードバックすると、必ず何らかの反応が起こり、それが次のアクションに繋がります。
このプロセスは、地域のニーズを見つける手がかりであり、社会資源をつなげたり、開発する手がかりとなります。
私がボランティア活動を通じて得た高齢者の語りも、同様にフィードバックしていきたいと考えています。
1回の活動につき、誰でも読めるようにワンペーパーにまとめ、施設の管理者にお渡しする予定です。
この情報が施設の方々や利用者の皆さんにとって有益であれば嬉しいです。また、このフィードバックをきっかけに何らかの反応が生まれ、地域とのつながりが広がることを期待しています。
この語りは、高齢者が自分が生まれ育った地域や子どもの頃の生活など、他の誰も知らないままだと消えてしまうものです。
高齢者の語りに耳を傾けると、その方の生きた光景が浮かびます。その思いは今もなお生き続け、その方の中で息づいているのです。
その方の人生のほんの一部でも、会話を通じて関わらせていただくことができる中で、限りある時間だからこそ、その関係を大切にしたいと思います。
認知症を抱える方も多く、毎回自己紹介をさせていただきますが、毎回同じように子どもの頃の思い出を話してくださいます。
そのような大切な思い出を共有させていただいていること、私を受け入れてくださっている施設の方々にも感謝しています。
そして、子どもの頃の思い出を記録させていただくことについて、ご本人と管理者のご了承をいただいています。
「面白く愉快に書いてね」
これが、ご本人からのハードルの高いリクエストです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
私が目指しているのは孤立のない共生社会の実現です。
参考文献
1)斎藤嘉孝著 『社会福祉調査企画・実施の基礎知識とコツ』新曜社 144頁、2014年