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環境コンサルタントというお仕事



はじめに


ここでは環境コンサルタントに勤務して27年の私が、ほとんどの人が、え、それってどんな仕事なの?と思うはずの、「環境コンサルタント」というお仕事について説明します。

と、その前に、「コンサルタント」とは何なのかを説明しましょう。
コンサルタントとは、簡単に言うと、何かしら困りごと(課題や問題)を抱えているお客様から相談を受け、それぞれの分野での専門知識や経験を元に、解決策を提案していく、という仕事です。
その道のプロフェッショナル集団が、お客様のお困りごとに寄り添い、解決していく、またはそのお手伝いをする、というイメージで伝わるでしょうか。
いい加減に言うと、「困っている人や団体を助けるお仕事」とも言えるやりがいのある仕事です。
とはいえ、世の中には色々なコンサルタント業界があり、それぞれで仕事内容は大きく異なりますので、「コンサルタント」と言われても、今一つ想像が難しい職業と言えます。

では、本題の環境コンサルタントの説明に入りましょう。

環境コンサルタントとは


環境コンサルタントとは、主に国や県、市町村といった官公庁や電力会社などの団体が行う活動が、環境に及ぼす影響を調査・評価し、持続可能な手段を提案する専門家です。
官公庁や団体が行う活動とは、大規模な公共事業や開発のことです。
例えば、河川にダムを作ったり、海や山に発電所を作ったりするような大規模な事業をイメージしてください。
一定規模以上の大規模開発事業を行う際には、事業者が、あらかじめその事業が環境に与える影響を予測・評価し、その内容について、住民や関係自治体などの意見を聴くとともに、専門的立場からその内容を審査し、事業実施の際に適正な環境配慮がなされるようにする必要があります。

また最近では、企業の社会的責任(CSR)が重要視されてきていることから、色々な企業の環境への取り組みを向上させるための技術提案なども行っています。

環境コンサルタントは、持続可能な開発と環境保護の両面で、お客様に効果的な解決策を提供し、社会全体の環境への影響を最小限に抑える役割を担っていると言えます。

環境コンサルタントの具体的な仕事内容は多岐にわたっており、私が思いつくだけでも以下の分野があります。

【調査】
・水域調査
・様々な生物調査
・騒音・振動・低周波音調査
・大気・気象調査
・土壌汚染・廃棄物調査
・航空調査

【分析】
・化学分析
・生物分析(生物の同定)

【環境評価・環境計画】
・環境アセスメント(環境影響評価)
・数値解析による予測・評価
・魅力ある持続可能な地域づくりの提案
・自然環境の維持・管理
環境アセスメントって何?っていう方には以下の本がおすすめ。

【リスクの評価】
・環境リスクの評価
・気候変動のリスク評価
・自然劣化が企業に与えるリスク評価
気候変動リスクは企業経営にも影響を与えます。

【対策】
・希少種の保護対策
・生物多様性の保全対策

生物多様性ってそもそも何?って人は、以下を一読するのもありです。

まだほかにもありますが、大きくはこんな感じです。
いかがでしょう。
自然環境のことならほぼ全てを網羅しているといっても過言ではありません。


なにしろ、人間を取り巻くすべての環境を対象としたコンサルタントです。

上記に挙げた分野の仕事を一人でやるわけではありません。
それぞれの分野の専門家が、協働して業務に取り組むことがほとんどです。

入社してからこれまでの、私の具体的な仕事内容は、自然環境の調査や生物同定、データ解析、とりまとめ、報告書作成が主になります。

幼いころから「虫博士」になりたかった私にとって、自然環境調査や生物同定ができる環境コンサルタント業は天職であり、自然環境に身を置き、顕微鏡で生物の観察を行い、そのデータを解析することで社会の役に立てる結果をまとめて報告できる、さらには給与も貰えるなんて、幸せな限りです。

環境コンサルタントになる


では、どうやったら環境コンサルタント業界に入れるのか?
環境コンサルタント会社に勤めるほとんどの人は、大学の学部卒、修士卒、博士卒です。
まずは大学に入ることを目指しましょう。
環境コンサルタント業界は、自然好き、生物好きの人にとって、結構人気の業界です。

〈大学選び〉
大学と言ってもどの学部に行けば良いかといいますと、具体的には、理学部や水産学部など、環境科学に関連した学部のある大学に入ることをお勧めします。
その際、大学の偏差値が低すぎると、入社試験の際に、書類審査で落とされる可能性が高まります。
毎年、新卒採用の時期になると、ものすごい数の人が、応募してきます。
新卒採用の際、建前上は偏差値は考慮していないとしていますが、実際のところ、ものすごい数の応募者を絞り込むために、大学の偏差値はある程度参考にされてしまうのが事実です。
そのため、現時点では、少なくとも偏差値50以上の大学が良いといえるでしょう。
なお、環境コンサルタント業界では、学部卒、修士卒、博士卒のいずれの方でも就職のチャンスがあります。
昨今、博士人材の不遇が問題になっていますが、なんといってもコンサルタントは、その道のプロであることが求められるので、知識や経験は有利となります。

〈資格〉
ここに挙げる資格は、環境コンサルタント業界では重要なものです。もし大学にいる間に取れれば、就職の際に有利になるでしょう。大学生の間での取得が難しい資格も混じっているので、それらは入社後の取得を目指してください。

・技術士補・技術士
・RCCM
・測量士
・作業環境測定士
・環境計量士
・公害防止管理者
・気象予報士
・環境アセスメント士
・港湾海洋調査士
・生物分類技能検定2級
・ビオトープ管理士2級
・情報処理技術者(IPA基準レベル3以上)

なお、環境コンサルタント業界で最も重要な資格は、一番上に挙げた技術士です。
技術士は、官公庁から業務を受注する際に必要となる資格だからです。
中には25年近く受験し続け、未だに合格できない人がいるほど難しい資格です。
技術士については、また別の記事で詳細を紹介しますが、取得すれば給与アップの可能性が高く、環境コンサルタント業界内での転職にも有利になりますので、環境コンサルタント業過に身を置く方には取得はお勧めします。

給与


環境コンサルタント業界の中でも給与については結構大きな開きがあります。

社員が1000人を超えるような中規模以上の会社であれば、額面で、新人なら月額24万円程度、中堅で40万円程度、もしくはそれ以上になります。部長クラスでは50万円以上になるでしょう。多くの場合、ボーナスもあります(額面でおよそ月給与の2~3か月程度)。

しかし、社員数が100名に満たない会社の中には、月額の給与がこれよりも下がる傾向があります。

社員数10名程度の小規模の環境コンサルタント会社に勤めている知り合いの中には、ボーナスが全く無くてつらい、という人もいました。

もちろん一概には言えませんが、会社の規模によって給与が大きく異なる傾向はありますので、就活の際にはご注意ください。

環境コンサルタントのお仕事は、自然環境や生物に関わる仕事もあるため、好きな人には本当にやりがいがある仕事となるでしょう。
しかし、やりがいだけでは生活はできません。

生涯賃金を考えた場合、できれば中規模以上の会社を狙うことをお勧めします。

もし小規模会社に就職されて、その会社に満足できなかった場合には、中規模以上の会社への転職をご検討ください。

技術士を取得すれば、何とかなります。

ブラックorホワイト


環境コンサルタント業界は、今から20年以上前、私が入社したころであれば、間違いなく、お勧めできないブラックな業界でした。

何人もの同僚たちが、精神的な病で退社や休職を余儀なくされたことからも、それは間違いありません。

しかし、ここ10年くらい、ホワイトな業界に変わりつつあることを実感します。

働き方は、会社や部署によって大きく異なりますので一概には言えませんが、業界全体が変わりつつあることは確かです。

未だにブラックな働き方を推奨する会社もありますので、入社後に自分の入った会社は、全体的にやばい、配属された部署がやばい、などと感じた場合は、早めに転職を考えるか、配置転換の願いを出すなどしましょう。

身体的、精神的健康を害するような働き方は、本当にやめた方が良いです。

ちなみに私はこちらの漫画が大好き。

将来性


環境コンサルタントの将来性について、私の意見を書いておきます。
AIが発達してきた昨今、「コンサルタント業界」はAIに取って代わられると予想される分野の一つに挙げられます。
しかし、こと「環境コンサルタント分野」については、AIに対する脅威は、まだそれほど心配することはありません。
何故なら、自然環境には未知な部分が多く、そもそも現状認識自体が正確なのかが不明であること。
そして、自然現象の多くは、複数の要因が絡み合って事象が起きているためです。

例えば、大規模事業を実施した後、生物相に何らかの変化が確認された場合、その変化が大規模事業による影響なのか、それとも、季節的な変動なのか、生物がもつ自然の変動範囲内での誤差なのか、を正確に判断することは、専門家にとっても難しい問題です。
そのため、長期間に渡るモニタリングや膨大なデータを解析することによる検証が不可欠です。
自然環境に対する実際の調査やモニタリングは、AIにはしばらくの間、難しい分野でしょう。

大量のデータが集まってくると、そうは言ってられないかもしれませんけどね。

また、現時点ではWeb上に自然環境に関する正確な分析結果や影響評価に関する情報も多いとは言えないため、AIによる代替が難しい分野と言えます。

しかし、それほど遠くない将来、少子高齢化に伴う日本経済の低迷・国の税収減少により、官公庁を主な発注者とする環境コンサルタント業界自体が、徐々に縮小していくと予想しています。

少子高齢化に伴う日本経済の低迷・国の税収減少は、環境コンサルタント業界に限った話ではなく、官公庁に依存するすべての業界、果ては、日本に存在する多くの業界に負の影響を与えることでしょう。

おわりに


昨今、「AIを活用する、無駄な作業をなくす、作業の効率化」、なんて言葉が巷に溢れています。

内容は、ごもっとも。
しかし、日本社会では多くの場合、それは実行できていません。

私が勤める環境コンサルタント会社でも、残業の削減、業務の効率化、AI活用などが叫ばれていますが、業務とは無関係な社内資料の作成、打合せ、社内研修などが一昔前よりも増加しています。
さらに、AIを活用しろ、という割には、AI使用のたびに、使用目的や内容を会社に申請する必要があり、全く使う気にさせません。
伝統的日本企業のお手本のような慣習がはびこっています。

これは環境コンサルタント業界だけではありません。
このような旧態依然としたわが国の中枢、会社の上層部を見ていると、日本の未来は暗く、希望は薄い、と感じることでしょう。
さらには、そういった古い人たち優位な状況について、若い人たちは、その無力さを痛いほど感じているかもしれません。

そんな古い人達は(心の中で)放っておいて(体面上はうまく付き合って)、まずは皆さんがAIを活用して、効率的に業務を行い、自分のために使える時間を増やしてください。

そうやって作った余裕時間を使って、資格試験の勉強をするなど、さらなるスキルを身につけてください。

今いる会社のプロフェッショナルになるのではなく、環境コンサルタント業界のプロフェッショナルになることで、その会社に縛られない自由を掴むことができます。

人生は一度きり、楽しんでなんぼです。

それではまた。


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