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サキミの事例インタビュー③ 『上司は部下の職場環境である』

社会人失格?!

サキミ:
今回は、業務遂行に問題が見られた部下への対応に苦慮した事例をC社の管理職Hさんとともに振り返ります。

Hさん:
私の部下のKさんの事例です。
営業成績がなかなか上がらない中、二週間ほど無断欠勤が続きました。
電話やメール、チャットで、何度も連絡を入れると、ようやく返事があって「家族が急に体調を崩して通院に付き添った」「自分も風邪がうつったみたいで起き上がれなかった」など、その都度もっともらしい理由を言ってくる。最初は私も心配していました。でも、徐々に、本当だろうかと疑わしい気持ちになってしまっていた。
それでね、サキミさんたちEAPの力も借りた方がいいなと思って「自分に話しづらかったら、EAPを使ってみて」と何度も勧めたけれど、一向に連絡した気配がない。

サキミ:
Hさんは、本当に面倒見がいいですよね。部下に困ったことがあったら力になりたいという思いを持っていらっしゃることが、よく伝わってきます。

Hさん:
実際に、Kさんのことも自分なりに一生懸命サポートしてきたつもりでした。入社当初から、手取り足取りで、私自身の経験から身に着けた秘訣なんかも教えたりして。仕事が遅れがちな時は、Kさんからも相談しやすいようにこまめに声かけもしていた。
それなのに、連絡もせずに休むなんて…。
二週間というのは別にして、休むのは仕方ない。ただ、連絡をしてこないというのは、営業以前に社会人として問題だと、正直失望してしまいました。

サキミ:
あのときのHさんは、本当にがっくりなさっていました。

Hさん:
そう、なんだか落ち込んでしまって。自分がやってきたことはなんだったんだろう…って。
やるせない思いをサキミさんがじっくり聴いてくれて、話をしているうちに、そういえば、Kさんは以前から取り繕うことが多かったと、だんだん落ち込みが怒りに変わってきました。
「書類の提出締め切りを守れなかったとき、確かに私の机の上に置いたが、いつの間にか無くなった」とか「依頼された内容の修正ができていなかったときは、自分は聞いていない」とか。
そんなことを思い出したら、“平気で嘘をつく人間なんだ”と呆れるやら、腹が立つやらで。「明日は行きますなんて嘘つかなくていいから、早く辞めると言えばいいのに!」と、サキミさんに向かって半ば吐き捨てるように言ってしまったことを覚えています…。

その熱い思いが、部下を追い詰める

サキミ:
心配を通り越して、怒りが湧いてきてしまったんですよね。Hさんが熱意と愛情を持って部下をサポートなさっていることが改めて感じられて、無理もないと思いましたし、日ごろのご対応に本当に感服しました。

Hさん:
今もその熱意や愛情は変わらないけれど、振り返ると、職場の上司というより、親みたいになっちゃっていたというか、自分の方が必死になってしまっていたと思います。

サキミ:
きっと、その思いはKさんにも伝わっていて、伝わっているだけに、これだけ愛情を注いでくださる方の期待はなかなか裏切れない、裏切りたくないという思いが湧いてきて、苦しくもなってしまいそうだ、とも思いました。

Hさん:
そう、その言葉。
あのときも、サキミさんは、私の熱すぎる思いを受け止めつつ「尊敬している上司がこれだけサポートしてくれると、自分も何とかしなければ!と思ってしまい、つい『やります』『できます』と言ってしまうかも…」と率直な感想を教えてくれた。その感想で、Kさんの思いに急に意識が向いたんです。
特に、Kさんは、私が直接リクルートしてきた人間でした。ちょっとお調子者なところがあって、ビッグマウスだけれど、責任感があって、やると言ったらやり遂げるところを見込んだことを思い出して…。

サキミ:
「ご本人も、何とかしたいと本気で思って、もがいているのではないか…」と思い当たりましたよね。

Hさん:
そうなんですよね。どうしても自分には、連絡すらできない状況というのはなかなか想像しづらいけれど、Kさんが必死になんとかしようとする姿はありありと想像ができて。
となると、私が「連絡くらいできるだろう」と、連日、一日に何度も連絡を入れていたとき、Kさんはどんな思いだったろうと、怒りの気持ちが落ち着いてきて、今度は胸が痛くなっていました…。

サキミ:
そこから、ご一緒にKさんの立場から状況を見直していき、Hさんから、具体的に負担軽減できそうなご提案が出てきましたよね。

Hさん:
連絡は、上司の自分ではなく、仲良くしていた先輩から入れてもらう。
1日に原則1回。それと、サキミさんから、連絡の目的は『まず心配していることを伝える』という大事なことを明確にしてもらって、連絡をしてこないという事実を問い詰めるのではなく、何よりも自分や周りが心配していることが伝わるように、内容も工夫しました。
先輩とやりとりができるようになってから、EAP利用についても、上司である自分は心配が軽減されるし、Kさんはプレッシャーを感じることなく、現状を改善する方法を考えることができると思うと、メリットを具体的に伝えられました。

サキミ:
そこからはすんなりでしたね。Kさん、すぐにEAPにご連絡をくださいました。

Hさん:
意外なくらいに…。

サキミ:
EAPでもKさんと直接お話ができて、事情を伺うと、ご家族の体調不良や受診は事実であり、ご自身も心配や看病が続いて不眠や倦怠感があったことがわかりました。
また、やはり上司であるHさんに憧れて入社したことから、仕事に集中できていない状況が申し訳なく、見放されたくないと無理をしていたことも教えてくれました。
もちろん、Hさんとの信頼関係はしっかり築けていましたから、Hさんにご報告する同意をいただいて、「やっぱり期待にこたえたい気持ちが強くて、苦しんでいました」とお伝えしましたよね。

Hさん:
こちらとしては、早いうちに何とかしなければと思って必死だったけれど、それが、Kさんを余計に追い詰めちゃっていたのかと思うと、猛省でした。
サポートしているつもりが、追いつめていたなんて…。
でも、やはり上司としては、“困っているときこそ、相談してほしい”とも思いました。それで、サキミさんに「どうしたら、部下のサポートになる対応ができるのか」と、自分も相談したんです。
どうしても自分は熱くなってしまって、プレッシャーをかけていることに気づけなさそうだと思ったので。


罪を憎んで人を憎まず

サキミ:
そこからも協働作業が続きましたね。EAPからKさんのご様子を報告する際に、Kさんの特徴や状況を話し合い、それを踏まえた効果的なサポートをご一緒に検討して、Hさんに実践いただくようになりました。

Hさん:
不思議と、Kさんの特徴だけでなく、自分の熱量というか感情も把握できるようになってきて、以前と熱意や愛情は変わっていないけれど、落ち着いて対応ができるようになってきました。
次第に、Kさんから直接相談されるようになって、嬉しかったなあ。
正直、成績はまだまだなんですが、うまくいかないことも隠さず話してくれて、本当によりよい仕事をしようという思いが伝わってくるようになりました。これも、非常に嬉しいことです。

サキミ:
うまくいかないことも共有できる関係って、素晴らしいですね。
Hさんが、うまくいかないという課題・問題行動とKさん自身やKさんの持つ力を分けて捉えて、Kさんを信じているからこそだと思います。
Kさんも、安心感を持って自分の力を高めることができる職場環境で、Hさんに負けない熱意と愛情で仕事に取り組んでいらっしゃるのではないでしょうか。

Hさん:
罪を憎んで人を憎まず…ではないですが、問題と人格を分けて考えることが本当に大事だと思いました。問題が重なると、ついその人自体を問題視してしまい、そこから不信感まで生じてしまいます。不信感を持ってサポートしても、部下が安心できるサポートになるわけがないんです。
『部下の問題と人格を分けて捉える、変えるのは問題行動』という前提で関わると、こちらも部下を信じる気持ちを持って見守れるようになる、それにより、部下も安心して仕事ができる環境を維持することになる…、上司の自分は部下の職場環境の一部ということですね。

サキミ:
その通りですね!非常に重要で、大きな一部だと思います。
管理職の対応の影響力とマネコンの重要性を改めて実感して、ますます気合いの入ったサキミでした。


■サキミのプロフィール
ビジョン・クラフティング研究所 シニアコンサルタント
臨床心理士・公認心理師・
1級キャリアコンサルティング技能士

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