見出し画像

世界的教科書による作業療法の未来への方向性(2)

段々、本当に冬を感じさせるような寒い日が増えてきていますね。場所によっては、もう雪が降ったりしているようなので、今年ももう終わるんだなあと思わされます。もう一年が終わるのか…?という感じもしますが、皆さんはいかがでしょうか?

最近は、来年のアジア太平洋作業療法学会に演題を出すことをチャレンジしようと考えて、抄録をまとめていました。日本で国際的な学会が行われるチャンスはあまりないだろうと考え、自身の能力(研究力、文章力、英語力、プレゼン力など)に様々な不安はあるものの、別に不採択でも失うものは何もないし、思い切ってチャレンジって考えて、挑戦してました。公式でもAIを活用することを勧めていますが、流石に足りない英語力に関しては、かなり助けてもらいました。Deep Lはもちろん、Chat GPT、それにGrammaly、そしてGoogleや海外の書籍や論文で表現などを確認しながら…。あと英語力はないのですが、昔、社会人学生の時に学習塾の講師をしていた経験があり、その時に得た知識も採択されるかは別として、やってみる上では役立ったと考えてます。ヘボな英語力の人間が使った本に興味ないかもだけど、参考にした書籍を紹介しておきますね(英語の専門家ではないので、そこは了承してください)。ありがたいことに、演題登録の期間が伸びたので、もう少し良いものになる様、修正を重ねながら演題登録を終えようと考えてます。

今回は、前回の続き、『Willard & Spackman’s Occupational therapy 第14版』の第4章の「現代作業療法実践と未来への方向性」から、世界的教科書が提示する「作業療法の未来」とはどの様なものか?を紹介するという内容の続きです。ちなみに、「作業療法実践の原則」と「未来への方向性」とを合わせると、第4章の「現代作業療法実践と未来への方向性」の主な内容は、ほとんど網羅することになっています。自身の解釈や書籍の紹介も一緒になって、ゴチャゴチャになってますけどね😅


研究から見える未来のヴィジョン

『Willard & Spackman’s Occupational therapy 第14版』では、世界中の国や地域において、作業療法は、「日常生活の問題を解決し、障害の予防に貢献するという専門職の道徳的使命により、成長し続けるだろう」と予想されています。ただし、専門職の組織や個人は、まだニーズが満たされていないところや、新たな問題が生じたときには、変化し、拡大せざるを得ない、ともしています。前回は、それを作業療法は、医療領域だけでなく、地域社会へもという流れを紹介しました。

特にコロナ禍は、作業療法士たちの働き方を大きく変えたようで、「作業療法士たちは、集中治療室から長期にわたってCOVID-19を有する人々のためのコミュニティへとサービスを発展させる革新者であった」と考えられています。それは、遠隔医療を拡大し、隔離や隔離されたコンテクストで作業に取り組むことで、対応し、サービスを変化させていったということでした。確かに『Willard & Spackman’s Occupational therapy 第14版』は遠隔医療の章が新しく追加されましたし、アメリカやオーストラリアなどでは、コロナ禍では、病院やクリニックに通えない、または地域のクライエントに作業療法士が、ZoomやVRなどの技術を使って、対応した様です。特にアメリカは感染者数などが日本とは比較にならないほどだったので、自宅でも介入が続けられるような環境が必要だったのでしょう。日本ではまだまだ作業療法のオンラインでの対応、医療保険では不可能だったと思いますが、今後、発展していくのでしょうか…?

そして『Willard & Spackman’s Occupational therapy 第14版』では、専門職が成長、発展するのは、研究、理論、教育、サービス提供における絶え間ない革新によるものであり、作業療法士の将来は、他の分野(神経科学、テクノロジー、公衆衛生など)における科学の進歩と連動して起こるだろう、としています。科学の進歩は、社会や人の生活方法を変えるものであり、生活方法が変われば、当然日常生活に介入していく作業療法士の在り方もきっと変化しますよね。以下では、研究論文などをもとに紹介されていることを挙げていきますね。

技術の発展による変化

『Willard & Spackman’s Occupational therapy 第14版』では、まず技術の発展は、作業療法士の評価や介入のあり方を変えるだろうと予想しています。実際、今でも評価に関しては、ADOCのようなi Padなどを使った評価はありますし、スマートフォンなどで評価をするアプリも増えてきていますよね。そして、その他にも最新技術がいかに介入の変化をもたらすかを検討しています。特に、これまでもバーチャルリアリティ(VR)、ロボット工学、スマート車載技術、全地球測位システム(GPS)を用いた研究について検討されているようで、注目されているみたいです。対象は、早産児から高齢者まで生涯にわたる方への適用を検討し、ASD、上肢機能、疼痛、加齢に伴う衰え、脳卒中などの研究が進められている様です。

例えば、上肢機能については、市販の手袋型装具とVRを用いて、15人の脳卒中患者の上肢機能評価を行い、基準妥当性を検討するために、4つのVRのIADL活動とゴールドスタンダード評価のバッテリーを実施した研究があります。この研究は実際に読んだことはありませんが、例えばVRを使えば、病院でも自宅に近い環境で作業を行ったり、練習ができたりするのかもしれません。また難易度調整や環境設定、リスク管理もより細かくできるかもしれませんし、何よりも実際の道具がなくても、VRの世界ではすぐに用意ができるとかもあるかもしれません。そういう意味では、非常に楽しみな技術の様な気もします。

スマート車載技術と高齢者という新たな分野については、詳細なスコーピングレビューを通じて、車載情報システム(IVIS)と先進運転支援システム(ADAS)が高齢者の運転能力に与える影響を研究があります。今は運転技術の再獲得、運転免許の返納するかの判断の際などに、作業療法士が関わります。しかし技術が進歩すれば、高齢者の運転能力を補ったり、自動運転で、運転するという楽しみは残念ながらなくなるかもしれないけど、移動手段としては確保できるようになる、とかあるかもしれませんよね。

他にもいろいろありますが、気になる方は以下の論文をぜひ読んでみてください。サイトと研究論文の情報を載せておきます。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1539449219835370

Liu L, Mihailidis A. The Changing Landscape of Occupational Therapy Intervention and Research in an Age of Ubiquitous Technologies. OTJR: Occupational Therapy Journal of Research. 2019;39(2):79-80. doi:10.1177/1539449219835370

気候変動や資源枯渇問題による影響

気候変動と資源の枯渇は、特に低所得地域の人々の作業(生活)に影響を与えるとし、将来の実践の一部として環境の持続可能性に注意を喚起する研究も出てきています。例えば、海外の医療専門職教育では、温室効果ガスの排出による気候変動なの問題を取り上げ、これらの排出量の4.4%は医療部門に起因していると教えるなど、気候変動や環境問題に対する意識づけを持続可能な教育として行い始めているようです。

また作業療法や作業科学の研究者も、作業的公正という概念から、生態系を損なうことなく健康のために作業を促進するという、公正志向のアプローチを提唱しています。環境汚染、気象現象、砂漠化、環境変化などの要因が、公衆衛生、平均寿命、生活の質における重要な要因であり、人間の活動に起因するという、公衆衛生の観点から、持続可能性をどのように作業療法、学術、教育に取り入れるかが検討されています。前回も紹介した、WilcockとHockingの『An Occupational Perspective Of Health』でも、「持続可能な環境と資源」というのが、作業と健康の関係を考える上で重要な概念でした。『An Occupational Perspective Of Health』は、公衆衛生の観点から健康とウェルビーイング、作業の関係性を様々な視点から論じた書籍なので、ある意味では当然なのかもしれませんが…。やはりWilcockの影響は大きいですね。Wilcockの書籍、日本語訳がないのは、個人的に損失だと思いますけど、どうでしょうか?以下に、また気候変動や資源枯渇問題による影響に関係する論文のサイトと情報を書いておきます。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14473828.2020.1733756

Nick Pollard, Roshan Galvaan, Mark Hudson, Ida Kåhlin, Moses Ikiugu, Sonia Roschnik, Samantha Shann & Ben Whittaker (2020) Sustainability in occupational therapy practice, education and scholarship, World Federation of Occupational Therapists Bulletin, 76:1, 2-3, DOI: 10.1080/14473828.2020.1733756

プライマリ・ヘルスケアでの役割とその影響

健康であることを基本的な人権として認め、全ての人が健康になること、そのために地域住民を主体とし、人々の最も重要なニーズに応え、問題を住民自らの力で総合的にかつ平等に解決していくアプローチをプライマリ・ヘルスケア(Primary Health Care)といいます。

世界保健機関(WHO)は、非伝染性疾患や慢性疾患の管理、発症リスクの低減を世界的な健康目標としています。そしてWHOは、これらの目標を達成するために、患者、家族、地域社会と協力するプライマリ・ケア環境が重要だとしています。そして、作業療法士は、全人格的アプローチを通して、これらの疾患の自己管理につながる健康行動に取り組むという明確な役割を担っていると考えられています。特に作業療法士は、習慣、日課、家族や地域社会の文化を考慮し、生活の中のコンテクストの中でクライエントと協力しながら、クライエントの価値観の中で機能する活動(作業)や戦略を通して、健康に影響する問題に取り組むことができるという意味で、プライマリ・ヘルスケア領域において、貢献できると考えられているようです。そのため、積極的に地域の中で、地域に合わせた形で専門性を発揮し、役割を果たしていくべきだという意見があります。地域の問題を我が事として考えて、健康につながるように促すということでしょうか。

アメリカをはじめ、先進国は、少子高齢化などによる医療費の増大、医療や介護に対する負担の増大が考えられる中、医療改革が進められていく傾向があると考えられます。日本でも、診療報酬の改定があったり、最近ではXやYouTubeなどを見ても、どこまで治療を行うべきか?などの議論(議論というほどでもないか?)が起きてますね。そうすると、病院ではなく、予防とか障害を有しても地域生活ができる環境というのが必要になってきます。そこで作業療法士はイニシアティブを取ることができるか?というのが重要になりそうということですね。そのためには、作業の視点とか、作業療法理論を地域の人にわかるように伝えるとか、受け入れやすいように伝えるなどの視点も重要になるのかもしれません。そもそも有名なマリー・ライリーの名言や作業行動理論も、当時行われていた医療改革の中で、作業療法士はどのように生き残るのか?という観点から、生まれたそうです。

そしてプライマリ・ケア環境の整備を進める中では、医療が政府から民間企業が介する様になっていく可能性があり(日本の場合は抵抗が大きそうなので、なかなか進まないかもしれませんが)、そうした観点から言うと、やはりますますEvidence-Based Practiceが重要になると考えられています。実践だけでなく、それを裏付ける研究がより重要になるということですね。その上、医療費の削減や民間企業による利益の確保、追求という視点からすると、医療費の削減を進めるための研究や費用対効果に関する研究も重要になるだろうということです。日本でも、医療保険下の医療とそうではない医療と分かれたり、組み合わせる時代が来るのかもしれませんね。以下に、またプライマリ・ヘルスケアに関係する論文のサイトと情報を書いておきます。

Katie Jordan; Occupational Therapy in Primary Care: Positioned and Prepared to Be a Vital Part of the Team. Am J Occup Ther September/October 2019, Vol. 73(5), 7305170010p1–7305170010p6. doi:

自然災害や人災、武力紛争の被害を受けた人たちへの介入

自然災害や人災、武力紛争の結果として起こる個人、コミュニティ、国家レベルの混乱や移民などの人の移動に対する支援として、作業療法士が積極的に支援をしようというのも、アメリカの作業療法士協会などが文書として発表しています。最近では、世界作業療法士連盟がイスラエルとパレスチナのハマスとの紛争の際に、公式文書を出したように、武力紛争はその地域の安心した暮らしを支える作業である、食事、住む場所、教育、仕事、遊び、安心した場所での睡眠をする、医療を受けるなどができなくなってしまいます。そうした権利を平気で奪われるのが「戦争」な訳です。それは自然災害なども同様で、日本も東日本大震災の際は、被災者の方は安心した暮らしを支える作業が奪われました。

戦争や自然災害は、人命を奪ったりするのはもちろん、安心した暮らしを支える作業を奪い、そしてその経験はPTSDやうつ病などの原因となる可能性があります。それは紛争地域の生活者、被害者だけでなく、兵士として戦場へ向かった人もそうです。そのため、自然災害や人災、武力紛争を経験した人への作業療法士の介入が期待されています。WilcockとHockingらは、作業と健康、ウェルビーイングの基礎に、「食料」、「住居」、「平和」「教育」「収入」を挙げてましたが、安心した暮らしには必要不可欠な条件だなあと改めて気付かされます。そして、作業療法士が生まれたばかりの時も、第一次世界大戦で傷ついた兵士や、PTSDやうつ病となった兵士を支援してきました。そうした歴史的背景から考えれば、自然災害や人災、武力紛争の被害を受けた方々の介入は、作業療法が元々になってきた役割なのかもしれません。以下に、アメリカの作業療法士協会などが文書のサイトと情報を書いておきます。

AOTA's Societal Statement on Disaster Response and Risk Reduction. Am J Occup TherNovember/December 2017, Vol. 71(Supplement_2), 7112410060p1–7112410060p3. doi:

作業療法士の労働環境

世界中の作業療法、医療職の仕事や労働環境などの研究も多く行われているようです。そのため、世界中で実施されている作業療法の仕事や労働力に関する研究のスコーピングレビューも出てきています。ただ、作業療法士の多くの仕事や労働の問題は、メイントピックとして取り上げられることはほとんどなく、全体として、明確な傾向はほとんど見られない結果となっているようです。また研究プログラムのエビデンスもごくわずかで、研究内容の網羅性や現代的な研究方法において、さまざまなギャップが見られたとされています。そのためスコーピングレビューでは、作業療法士の仕事や労働環境の研究を、世界的に協調して行っていく必要があるとしています。自身が在籍していた研究室でも、医療従事者の作業機能障害と信念対立と、健康の関連性やワークエンゲージメントとの関連性の研究がいくつかありました。そうした知見も重要になるのかもしれません。以下にそのスコーピングレビューのサイトと情報を書いておきますね。

Jesus, T.S.; Mani, K.; von Zweck, C.; Kamalakannan, S.; Bhattacharjya, S.; Ledgerd, R.; on behalf of the World Federation of Occupational Therapists. Type of Findings Generated by the Occupational Therapy Workforce Research Worldwide: Scoping Review and Content Analysis. Int. J. Environ. Res. Public Health2022, 19, 5307. https://doi.org/10.3390/ijerph19095307

障害を有する人の社会参加や社会的資源拡大のための人権擁護活動

国際法の人間の権利として、ジェンダーや人種、障害を有す人たちの作業を守ることが作業療法士に期待されています。障害者の権利に関する条約(CRPD)を出発点として、(1)人種的または民族的マイノリティに属していて障害を有する人、(2)障害を有する女性、(3)障害児を有する子どもの権利をどう守るべきか?が考えられています。上でも挙げましたが、安心した暮らしを支える毎日の日常的な作業は、人間の最低限の権利として考えられています。この3つのグループは、世界的にも問題になることが多く、作業療法士として何ができるか?が問われているのかもしれません。以下に障害を有する人の社会参加や社会的資源拡大のための人権擁護活動に関する論文のサイトと情報を書いておきますね。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13642987.2019.1661241

Gauthier de Beco (2020) Intersectionality and disability in international human rights law, The International Journal of Human Rights, 24:5, 593-614, DOI: 10.1080/13642987.2019.1661241

最後に

今回は、『Willard & Spackman’s Occupational therapy 第14版』の「作業療法の未来の方向性」にある未来へのビジョンという項目で紹介されている研究を中心に書いていきました。『Willard & Spackman’s Occupational therapy 第14版』の内容だけではちょっとわかりにくいものや内容が薄いなと感じたものは、自身が論文の抄録や本文を読んで、情報を追加しました。皆さんが興味あることが書かれていたでしょうか?

未来の方向性はここに書いていることが全てではなく、作業療法の未来の方向性は、日々、行われている作業療法士の一人一人の実践や新しいチャレンジによって生まれるものだと思います。またここでは挙げられていないけど、興味深い研究もきっとたくさんあるでしょう。読まれている方の中には、沖縄であった日本作業療法学会に参加して、日本の作業療法の未来の方向性をしっかり学んできた方も多かったかもしれません。ただ、前回と今回の記事を見て、英語圏では、教育的には「こういう未来があるよ」と学生に示されていることを知っていただければ幸いです。詳しい内容を知りたい方は、是非、自身で研究論文などを確認してみてください。

とりあえず今回で記事での『Willard & Spackman’s Occupational therapy 第14版』の内容紹介は、ひとまず区切りです。そろそろ違う内容も書いていきたいですし、自身もどんどん先を読み進めていきたいので。でも上でも書きましたが、第4章の「現代作業療法実践と未来への方向性」の重要なポイントはほとんど書いてあると思いますので、最近の世界的な傾向は掴めるんじゃないかなと思います。

次で、書き始めて一年連続になるので、今年の振り返りとかできればいいなと考えてます。もしくは、最近は興味深い本がたくさん出ているので、その感想や個人的な読み解きを書いてもいいかもしれませんね。下には、最近気になった書籍を紹介して終わりにしたいと思います。気になったというだけであって、買った、読んだわけではないのでそこはご了承くださいね。X(旧Twitter)のタイムラインから興味が出たもの、インタビューや動画を見て興味を持ったものを挙げてます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?