飯田線秘境駅号に乗ってきた (2022年)
「秘境駅」とは 人里離れた場所にあり、鉄道以外では到達困難な駅のことを指します。秘境駅と呼ばれる駅の秘境度という指標などを用いてランキング化サイトとして昔から有名な「秘境駅へ行こう!」という老舗のサイトがあります。
JR飯田線は愛知県豊橋市の豊橋駅から長野県辰野町辰野駅を結ぶローカル線ですが、この路線には秘境駅ランキング10位までのうち4つの駅が含まれている魅力的な路線です。
今回はその飯田線の秘境駅を見て回ろうということで、JR東海が臨時で運行している「飯田線秘境駅号」という列車に乗って遊んできました。
この列車に乗ることで、非常に効率的に秘境駅を回ることができます。普通に行くと、秘境駅で一度列車を降りると次は2時間とか3時間後とか次の列車を待つことになるのでそうそう簡単には行く気になれません。
まずどうやって切符を手配したかなんですが、これがちょっと苦労しまして、居住地のあるJR東日本エリアの指定席券売機では買えず、e5489やえきねっとでも予約ができません。そのため、通常の入手方法としてはみどりの窓口へ行く必要があります。
しかし、この列車は実はかなり人気が高く、乗車日1カ月前の朝10時にみどりの窓口に行って購入できるかどうかも怪しいです。普通の勤め人にはそんなヒマはありません。
そこで、今回は阪急交通社のツアーを利用して乗ることにしました。旅行会社が一定数確保している座席がありますので、これを使えば比較的容易に乗ることができました。
もちろんツアーなので、ツアーの行程に縛られますし、列車の座席は選択できませんが、列車の目的は秘境駅に行くことなので窓際通路側どっちでも良く特に問題ではないとしました。知らない人が隣に来るのが嫌という方は、基本的には偶数名で参加すればその点も問題はないと思います。保証はしませんが。
ちなみにこのツアー商品、JRの臨時列車のツアーほどの争奪戦はなく受付終了まで定員に余裕があるような状態だったように思います。
ツアーは朝8時45分に名古屋駅西口集合で、早朝ののぞみで行っても良いのですが、それはしんどいので前日入りしました。
普通に新幹線で行ってビジネスホテルで1泊するなら、日本旅行のJR・新幹線+宿泊プランがお得なのでこれを事前に予約しておきました。行きはのぞみにしていますが、帰りは若干安いのと空席率が高そうという理由でひかりをわざわざ選びました。
前日に仕事を終えた後、新幹線で名古屋駅へ向かいます。この前にも名古屋駅に来たので特に用事は無く、コンビニに寄った後ホテルへ直行しました。今回、特に贅沢するつもりもなく、名鉄イン名古屋駅前にしました。
名古屋から飯田へ
翌日、朝8時45頃に名古屋駅西口へ集合し、そのまま添乗員の人に案内されて観光バスに乗ります。バスでまずは飯田駅に向かいます。主催は阪急交通社ですが、観光バスは名阪近鉄バスでした。
今回の旅行、なんと全国旅行支援の対象に直前になりまして、ツアー料金の一部払い戻しとクーポン券を受けることができました。https://shinshu-wari.com/sws/ によると、休日の日帰り旅行は1000円分のクーポンを受け取ることが可能だそうです。
飯田から豊橋まで電車に乗ることが目的の旅行で一体どこでクーポン使うよ、ということなんですが、「おいでなんしょ」という地場産品の販売ショップに観光バスで寄るという行程が急遽ツアーに組み込まれることになりました。企画していただいた阪急交通社さんのフットワークの軽さには感謝ですね。
「おいでなんしょ」を含む建物ですが、もともとは飯田工業高校の校舎だった建物を再利用している施設だそう。クーポンを当日中に使わないと他に使う所がないようなので、お土産にドライフルーツを買うことにしました。
まだ電車に乗ってないですが、駅へ向かう前にバス内ではツアー参加者に昼食用の弁当が配られます。
飯田駅
12時過ぎにようやく主目的である飯田線秘境駅号のスタート地点である飯田駅に着きます。
団体での改札入場は12時45分くらいで、それまでは駅舎をウロウロしたり売店が飲み物などを購入したりして待ちます。
改札入場後もドアが開いて出発するまでは時間があるので写真を十分に撮ることができます。
駅舎内に専用ヘッドマークと同じプレートが飾られており、昔飯田線で走っていた青い119系が描かれています。現在はすでに走っておらず、福井県のえちぜん鉄道で改造されてMC7000形として活躍しています。えちぜん鉄道は福井県旅行で数週間前に乗ってきたので感慨深いですね。
車両はJR東海の373系で、定期運行の特急伊那路1号の折り返しが、上りの飯田線秘境駅号になります。
乗車後、割り当てられた自分の座席に座ります。今回は通路側で相席でした。出発してすぐに弁当をいただきました。座席の背面テーブルではなく、肘掛け内蔵の狭いテーブルしかないのがちょっと辛いですね。
中身は南信州の地元の食材をメインに置いたお弁当です。左下に小さい柿みたいなのがありますが餡子の入った団子です。満足できる内容でした。
千代駅
飯田発の秘境駅号の最初の停車駅は千代駅です。「秘境駅へ行こう!」の HP の 2022 年の秘境駅のランキングでは 20 位にランクインしている駅です。非常に長い年月という意味がある千代ということで、駅名標に触れることで寿命が延びるとかなんとか。ツアー参加者のメインの高齢者の方々は積極的に触っていました。
駅周辺は、天竜川が見えるのと、駅へつながる細い道路と、畑があるくらいの場所です。
秘境号の停車時間は10分しかないので、あまりのんびりしていられませんでした。
金野駅
次は金野駅で、秘境駅のランキングではなんと 6 位にランクインしている駅です。駅前は使われることが滅多になさそうな駐輪場があるだけで自然だけが周りに広がります。最も近い集落でも駅から2kmほどとのこと。
JR東海の社員様曰く、駅名標に触れると金運が上がるということで触っていく人が多数いました。
田本駅
お次は田本駅。秘境駅のランキングで 5 位にランクインしている駅です。この駅の見どころは、崖にへばりつくような配置とコンクリートの擁壁と、ホーム端からトンネル入り口の上に上がった時の景色ですね。
ホーム端の階段が一応駅の出口になるのですが、混雑緩和のため乗務員誘導で、3号車の人から順番に入場(?)する形となります。狭いホームながら点字ブロックは完備されておりバリアフリーにはばっちり対応しています。コンクリートの階段はかなり急なため気を付ける必要があります。
田本駅発車後、温田駅で飯田行きの飯田線秘境駅号とすれ違います。
為栗駅
秘境駅のランキング 13 位、為栗と書いて「してぐり」と読みます。
駅のホームからは天竜川が綺麗見えます。非常に流れが穏やかなので、水面に空が反射してみえるくらいです。もうちょっと遅い時期に来れば紅葉が綺麗なのかもしれません。
逆光になってしまっていますが、駅から徒歩1分もかからないぐらいのところに天竜橋という吊り橋があります。残念ながら時間も限られていたので今回私は行きませんでした。
平岡駅
為栗駅の次は平岡駅です。この駅は天龍村の大都会(!?)に位置します。特に秘境駅ではなく、定期で運行されている伊那路号も停車します。
この駅では16分間の停車時間になりますが、この間には地元の商工観光課からのイベント出店によるおもてなしがあります。
駅に到着すると、皆さんぞろぞろと降りていきます。
五平餅、アマゴの塩焼き、シャインマスカット、リンゴカスタードクリーム入りの今川焼、中井侍茶などの販売が行われていました。駅舎内に自動販売機や売店もあるので、残り2時間半の乗車に備えるにはこの駅で買いそろえる必要があります。
リンゴカスタードクリーム入りの今川焼だけ買わせていただきました。
伊那小沢駅
秘境駅のランキング 61 位の伊那小沢駅です。信州で最も早く春を告げる駅、だそうで桜の木が有名ですが春の季節にぜひ来たいところですね。
2面2線のゆったりした感じの駅ですが、反対側のホームには構内踏切を渡らないと行けず、秘境駅号の発車1分前には踏切が鳴るので滞在時間は短めです。駅周辺ですが、若干住宅があるので他の駅より秘境駅感は薄めです。
中井侍駅
次の中井侍駅は秘境駅のランキング 10 位です。長野県最南端の駅で、駅周辺には若干の集落と茶畑が広がります。駅から見える茶畑で栽培されている中井侍銘茶がこの近辺では名産物だそうです。平岡駅のイベントでもPRしていましたね。
飯田側は鉄橋を挟んですぐトンネルで、こちら側には駅への道路が繋がっています。
小和田駅
お待たせしました小和田駅。ここからは長野県を抜けて政令指定都市の静岡県浜松市に入ります。小和田駅は秘境駅のランキング 3 位の駅で、今回の飯田線秘境駅号で訪れる駅の中では最も秘境度が上位の駅になります。
周辺に集落も民家もなく、駅に通じる車道もないためアクセス手段は鉄道だけの場所になります。最も近い塩沢集落から山道を徒歩で歩けば40分くらいかかるそうです。
普段であればマニア以外ほとんど誰も降りないであろう駅ですが、今日は秘境駅号という秘境駅を訪れることを目的としている客だけです。駅舎を撮ろうとしてもどうしても誰かが写りこんでしまうので、ゆっくりしたい場合にはまた別の機会ですかね…。
1993年に皇太子徳仁親王(現在の天皇陛下)と皇太子妃雅子(現在の皇后)の結婚の報道がされた際に、雅子様の旧姓が小和田(おわだ)であることからこの駅が注目され、その話題に乗っかる形で様々なイベントが企画されたようです。
そのイベントの中で水窪町(現在は浜松市に吸収)が主催で実際に結婚式が行われ、その時の写真や臨時列車のヘッドマークが現在も飾られています。
駅舎の前には錆びたスーパーカブが放置されていますが、誰が置いたのかなど由来は不明です。
静岡県、長野県、愛知県の境界付近にあるので三県境界駅と書かれた木板が切り株に打ち付けられています。
短い時間ながら駅から通じる道を下って散策することもできました。少し坂道を下るとかつては製茶工場だった廃屋があります。他に住居だった廃墟もあったのですが撮り損ねていました。
さらに駅から通じる細い道を下ると、川沿いにミゼットの廃車が転がっています。このミゼットの由来も諸説ありますがハッキリとしたことは調べてもわかりませんでした。
天竜川上には何か工事をしているのか構造物がありました。調べてみると浚渫船らしく、川底に堆積する土砂を取り去る作業のために使われる船だそうです。
一通り駅周辺を散策してホームに戻って列車に乗り込みます。ホームは1面1線ですが、かつては2面2線で、2008年に棒線駅化されその後片方の線路が撤去されました。ネットに上がっている古い訪問記などを見ると2面2線の頃の写真は結構出てきます。
浦川駅
最後の停車駅は浦川駅。ここまで来ると秘境駅感はなく、田舎の交換駅という感じです。停車時間中もパーキングエリアのトイレ休憩のような空気感です。
「鮎と歌舞伎の里うらかわ」と書かれており、鮎はわかりますがなぜ歌舞伎?ということで調べてみると、これは浦川の地で没した江戸の歌舞伎役者尾上栄三郎を偲んで村人によって伝統的に行われている素人歌舞伎で有名だからだそうです。浦川歌舞伎保存会によって2019年まで毎年公演されていたみたいです。
豊橋駅
浦川駅を最後に、秘境駅号は運転停車を挟みつつもほぼノンストップで終点の豊橋駅まで走ります。市街地に入るころには外はもう真っ暗でした。住宅地も増えてきて、ようやく現実の世界に帰ってきたという感じがしてきます。
ちなみに豊橋駅は東三河地方の中心都市で新幹線も停車する大きな駅です。普段のぞみかサンライズで通過するだけなので今回が実は初下車です。
阪急交通社のツアーではこの後バスで名古屋駅まで戻ります。豊橋で離団しても良かったのですが、名古屋20:43発の新幹線のチケットは持ってるので名古屋駅まで再びバスで向かいます。豊橋駅で離団したツアー客はそれなりに多くて、名古屋駅に向かう観光バスは行きの時よりも空席が目立っていた印象です。
名古屋駅に到着したのは19時30分過ぎぐらいで、帰りの東京方面行きのひかり号の時間までは1時間ほどあったので夕食は名古屋駅でとることにしました。
エスカ地下街のやぶ屋食堂で味噌とんちゃん焼き定食をいただきました。この店にしたのは、ひつまぶしや矢場とんは大混雑だったので、比較的空いていたというのあ主な理由です。後は単純にこの店初めてなので入ってみたかったからです。ちなみに、とんちゃん焼きとは赤味噌ダレに漬け込んだ豚ホルモンを焼いた料理を指します。
この店、居酒屋で本来は席代が別途取られるのですが、定食のみの利用であれば席代は取られません。
食後はコンビニで酒買って新幹線に飛び乗って品川に帰りました。夜遅くのひかり号は浜松まで結構混雑していましたが、浜松以東は少なくとも指定席号車はガラガラでした。品川で降りた客もそんなに多くなかったと思います。
飯田線秘境駅号、これまで飯田線の秘境駅を訪れたことがなく一度は行ってみたい方にはお勧めしたいと思います。また、過去に行ったことがある人でも沿線のおもてなしなど楽しめる観光要素もあるのでお勧めできるんじゃないでしょうか。
ただ、本当に秘境駅感を感じたいのであれば、同じ目的地に大人数で同時に訪れる飯田線秘境駅号ではなく、普通列車で行かれるのが良いかなと思いました。
真の秘境駅感を感じるため、次回は普通列車で訪れたいと思います。また、飯田駅~辰野駅間は未乗車区間ですので、この区間も制覇したいですね。飯田線には近いうちにまた訪れることになりそうです。