期せず劇的な再会を果たし、歓喜の雄叫びをあげた
僕は家の文具箱をあさっていた。
夏に新しく始まる仕事がすさまじくボールペンを消費すると聞いたから。
百円ショップで大量に調達しようかとも考えていたが、そういえば新品のペンが何本かあるかもしれないと思ったのだ。
景品や粗品なんかでボールペンをもらうことは案外多い。
文具箱の中には果たして大量の文具が保管されていた。
下の子が小学校を卒業してからめっきり消費が滞った鉛筆も50本を優に超えて入っている。
またどこでもらったものか、赤・黄・緑の蛍光ペンセットも5セットほど。
それらに埋もれて目的のボールペンはなかなか見つからない。
ごそごそ。
ごそ…ごそ…
ん? え? これは!
箱の底から出てきたのは年季の入った朱ペンだ。
高校生の頃、受験勉強で愛用した朱ペンだった。
問題を解いてはこの朱ペンで丸をつけ、あるいはバツをつけ。
その後もしばらく使っていたが、子供が生まれたあたりから記憶が定かでなく、長らくその所在が分からなくなっていた。
もとはといえば、兄が大学生の頃に通信講座の赤ペン先生のバイトで使っていたものだ。
兄がバイトを終えたとき、僕に譲ってくれた。
プラチナ製であることを示すロゴは入っているが、バイト先から支給されたものであるならそんなに大した性能のはずはない。
むしろ同社製の中では最下層の部類かもしれない。
でも僕はこの朱ペンをことのほか気に入っている。
オールプラスチックであるためにいつでも気軽に使える。
それでいて丸みを帯びた紡錘形は指先に負担がかからない。
長い本体が重心バランスをよくするのか、長時間使っても手が疲れない。
とにかくいろんな意味で使いやすいのだ。
その割には長年見失っていたことが本当に申し訳ない。
今回も探すつもりはなく、むしろその存在をすっかり忘れていたほど。
期せず劇的な再会を果たし、歓喜の雄叫びをあげた。
かえすがえすも朱ペンに申し訳ない。
朱インクのカートリッジも数本分いっしょに見つかった。
これで当分はまたこの朱ペンが活躍するだろう。
手始めに、6/16に予定しているエッセイ講座の添削から。
ボールペンでやっていた添削を、この朱ペンに替えてみよう。
受講生のみなさんはまた大量の朱にげんなりするかもしれないが、これが本物の朱かぁと鑑賞いただくことで気を落ち着けていただけると幸いだ。
(2024/6/11記)
チップなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!