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誰だって何でもできるんやって!

「…はい次、副委員長やりたい人おるか?」
担任がじろりとクラスを見回す。
委員長候補が決まり、次は副委員長候補だ。

クラスのリーダーは、学級委員やクラス委員、級長だったりとさまざまな呼び名があるが、僕が通った中学校では委員長と呼び、その補佐役を副委員長と呼んだ。
昭和だからか、委員長は男子が、副委員長は女子がやる慣習があった。

クラスはその日、委員長と副委員長の改選日を迎えていた。
アメリカの大統領と副大統領がペアで選出されるのと同じように、委員長と副委員長のペア候補がクラスで複数立ち、選ばれるスタイルだった。
いつもはわりとすんなり決まるのに、その日は難航していた。

「誰も手あげへんのか」
担任の語気に苛立ちが含まれる。
「副委員長やぞ、そんなに仕事あらへんし、誰でもできるやろが」

僕はその言葉にカチンときた。

たしかに面倒な委員会や折衝に出なければならない委員長と違い、副委員長は教室移動で出席簿を持ち歩くくらいしか仕事はなかった。
授業で「起立」「礼」「着席」と号令するのも委員長の仕事だ。
だから、「副委員長は誰でもできる」は当たっているかもしれない。

でも僕には担任のその言葉が、副委員長職だけでなく女子を侮辱する言葉に聞こえた。
100%女子が引き受ける仕事と分かっていてのその言葉は、おまえらに違いなんかないやろというニュアンスを感じ取ったのだ。

僕は少し反省していた。
改選が難航しているのは僕のせいでもあったからだ。
僕は小学4年生からずっと5年間、委員長を務めていた(小学校では「学級代表」と呼んだが)。
その日の改選も、また僕がやるだろうという空気がクラスには満ちていた。
でも少し疲れていた僕は今回はパスしようと思って手を挙げなかった。
そのせいで改選は混乱したのだ。

僕は手を挙げた。
「副委員長やります」
クラスがどよめく。
副委員長=女子の不文律を、前委員長が崩そうとしている…

結果として対立候補のペアを破り、僕はもう何年も例がなかった男子としての副委員長職に就いた。
何も言えなくなった担任の顔を見て、僕は溜飲を下げた。

誰だって何でもできるんやって!

(2024/6/28記)

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へんいち
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