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いろんな人に会いたい、ただそう思っている

昨日久しぶりに三宮のサロンへ行き、カットをお願いした。
だいたい席に着くなり、いつもの、とだけ言うのが通例だ。

そういえば最近はカラーすることもめっきり減った。
以前はメッシュに染め、転職したての会社では若手社員に「ならずものかと思ってました」と言わしめた。
てっきり西部劇専門用語だと思っていたが、調べてみたら「社会の一員としての義務や役割を果たさない厄介者のこと」だって、ははは。

そんな「ならずもの」も、最近は面倒で染めなくなった。
担当美容師は、今カラーしたら正月にちょうどよい、お盆にちょうどよいなどと言って色を塗りたそうにするが、ごめん、当分そのつもりはない。

なのに昨日はどういうわけか、ツーブロックの下の刈り上げをいつもより刈り込んでほしいと口を衝いて出た。
今さら僕は、何の変化を求めているのだろう。

サロンのあと、大阪の文学フリマへ。
800ブースもある会場は閉場まであと1時間というのに熱気に包まれていた。

文学フリマ。
同人誌の即売会のようなこの場と僕はずっと距離を取ってきた。
文学の存続の危機を救うのがこのイベントの大義だし、この場のおかげで活動を発表できる人たちが多くいることは否定しない。
しかし、逆にもっと大きく羽ばたける実力を持っている人たちが、一定のレベルにとどまる原因にもなっているのではないか。
イベントを支え居並ぶ協賛企業から見えるのは袋小路の未来だ。

昔、崇高な理想を掲げた和製パソコン規格「MSX」というものがあった。
賛同企業は世界中にあって数百万台が売れ、その理想に心酔した僕もMSXを何台も手にしていたのだが、同年発売のファミコンとの競争に敗れたあとMSXの規格は同人サークルの手に渡り、アングラ感を漂わせたまま消えていった。
僕は、世界で戦えたはずの崇高な理想が一部のマニアのおもちゃにされたことをひどく恨んでいるし、最終的にそこにしか活路を見いだせなかったMSXとはいったい何だったのかという思いが今でも拭えないでいる。
そんな思いが文学フリマにもダブって僕の二の足を踏ませていた。

しかし、昨日僕は意を決して足を運んだ。
つる・るるるさんに会いたくて。
noteでおなじみ、軽妙かつ奔放な筆致のエッセイの名手だ。
あふれる言葉の手綱の握り方を心得たカウガールとでも言おうか。
今日はどうも西部劇から足を洗えない。

初めましてのつるさんは緊張の面持ち。
おや、頭上でロープをぐるんぐるん回すか、さもなくば挨拶代わりにガンをぶっ放すカウガールではなかったの?と拍子が抜ける。
でもあと3回会うか1回飲めば、全然違うつるさんを見せてくれるのだろうと思ったのはナイショだ。
その静かな表情の中に穏やかならぬ激情の側面を見たから。
ならずものとカウガールならきっとうまい酒を囲めるだろう。

いっしょに店を出されていたとき子さんとももちろん初めまして。
不覚にも今回つるさんにお会いすべく文学フリマネタを追うまで、とき子さんの存在を知らないでいた。

ふたことみこと交わしただけだが、お話ししてみての印象をひとことでまとめるなら、かわいらしい方。
しかしまだ存在を知っただけで、作品、作風はこれからのお楽しみ。
次お会いする機会があれば、セールスではないふつうのお話をしましょう。

そして家を出る直前、team.サナギさんも出展されることをnoteで知る。
もうこれは絶対会わなくては!

team.サナギさんのブース番号は分からない。
もし別名で出展されていたらお会いすることはまず不可能だ。
老眼にむち打って、会場で配られたパンフで800ブースの一覧を見る。
目がチカチカし、敗色が濃厚になってきたとき、ついに発見!
「こんにちは」
優しく丁寧に話されるteam.サナギさんはとても温かい。
お会いできて舞い上がり、1分ほどしか話さなかったことを後悔している。
さっそくその瞬間を記事にもしてくださっている。

お三方の本を買い求めたら僕は足早に会場を後にし神戸に逃げ帰った。
正直、他のブースにはまったく興味がなかったし、エラそうに出口付近に陣取る協賛企業の面々には唾棄したいくらいの気分だったから。

でもきっと他にも僕がフォローしているnoterさんはいっぱいいただろう。
会いたかったな。

サロンで思いがけず刈り込みをお願いしたのは、明らかに心境の変化だ。
伸びた髪を処分するというのではなく、人の目を意識したのだとも言える。
フリーになった僕は、どうやら仕事ではなく人物に強い関心を抱くようになったようだ。

いろんな人に会いたい。
ただそう思っている。

(2023/9/11記)

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へんいち
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