全作品を今からでも集めたいくらいに大好き
その昔、徹底的に読み込んだ絵本がある。
加古里子(かこさとし)の『かわ』(1962、福音館書店)だ。
買ってもらったのは3歳の時。
この本で川を学び、科学を学び、絵を学び、丁寧に表現する心を学んだ。
この絵本は福音館の「《こどものとも》知識の本」というストーリー性を大切にしたシリーズに収められている。
全10巻のこのシリーズのうち、かこさとしの3部作『かわ』『ゆきのひ』『たいふう』だけ買ってもらい、3冊とも繰り返し大切に読んだ。
『かわ』は川の一生とも言うべき、山の雪融け水から始まって大海に注ぐまでを、かこさとし一流の緻密な絵と学びの多い文で解説した絵本。
小さなせせらぎが、ページをめくるたび、次第に大きく広くなっていく。
ただもうそれだけでも子供の目にはワクワクなのに、ページをめくっても前ページと次ページで川の位置がちゃんと繋がるように描かれているのだ。
まるで横に長い絵巻を読んでるがごとく。
まだ見知らぬ山の川、里の川、街の川、そして海に思いを馳せた。
かこさとしは手を抜かない。
川の周辺に人々の暮らしを解説つきで描くことを忘れない。
木材流送、炭焼きなど、今は廃れてしまった生業が描かれ、昭和30年代の日本が詰まっている。
表紙を裏表繋いでみると、左から右へ一本の川が描かれているのが分かる。
火山湖から滝を落ち、ダム湖を経て、崖を通り、田畑を潤し、街を通って…これすなわち、本文で解説されている川だ!
最初にこれに気づいた時、身震いした。
それからというもの、本文を1ページ読み進めるたび、表紙の地図のどのあたりというのを確認するようになった。
おかげでまだ小学校にも上がっていないのに、等高線やら地図記号なども分かるようになってしまう。
もはや、かこさとしマジック。
何度読んだことか。
繰り返し読むたび、せせらぎが大河になり、大河がせせらぎに戻り、また大河になって海に流れ込んだ。
そういえば、ページをめくるたび海がどんどん深くなっていく『海』という作品も大好きだったな。
かこさとし、大好き。
だるまちゃん、かみなりちゃん、からすのパンやさん、どろぼうがっこう、どれも大好き。
かこさとしの全作品を今からでも集めたいくらいに大好き。
手元では300円の『かわ』も、今や990円になっているようだし、60年にも及ぶ創作活動のすべてを揃えるのにいくらいるのか見当もつかないけれど。
(2021/8/26記)