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『東海道中膝栗毛』を思い出していた

先週に続き、ふたたび東京出張。
もともとは今日の夕方から東京に入る予定だったが、予報官も悩ませる気まぐれな台風のせいで予定を早め、昨日東京に入った。

確認するたびどんどん西寄りにずれる台風から少しでも早く逃げなければと、ほぼ始発ののぞみに飛び乗った。
しかし目論見は大きく外れ、豊橋を過ぎたあたりで急減速し、そのままあえなくストップ。
神戸は晴れていたし、目的地の東京も晴れというが、途中の東海地方は南からの湿った風の影響をまともに受けて豪雨だったのだ。

雨雲レーダーを確認すると雨はすぐに落ち着きそうだと分かったが、新幹線はなかなか動く気配を見せない。
過去1時間の雨量、過去24時間の総雨量ともにJRの基準を上回ったとのことで、運行再開のメドが立たないと繰り返し放送が流れる。
一瞬、5分後には再開できる見通しという放送が入ったこともあったが、やっぱりダメだったり。
やむを得まい。

再開を待つ間、不思議とイライラすることはなかった。
刻一刻と変化する降雨情報を伝える手厚い車内放送のおかげというのはもちろん大きいだろう。
このあたり、外国ではどうだか知らないが、細やかなサービスを標榜する日本ならではかもしれない。

しかしそれ以上に僕は、小学生の頃に大好きだった十返舎一九の『東海道中膝栗毛』を思い出していたのだ。
増水した大井川で足止めを食らい、予定になかった逗留を余儀なくされた弥次さん喜多さん。
止まってしまった新幹線に命運を預けるしかない僕は、彼らの前向きで滑稽な旅を思い、どちらかといえば朗らかに運行再開を待つことができた。
幸い、ほどなく雨は小康状態となって、およそ80分遅れで運行再開となり、その後の徐行を含めて東京には100分遅れでの到着となった。

着いた東京はうそのように晴れ上がって空は青い。
しかし、道中のまっ暗な空と叩きつけるような雨をくぐり抜けてきた僕は、その空の青さがあたりまえに約束されたものでないことを知っている。

いつなんどきどうなるかなんて誰にも分からない。
そんなとき余裕をもってその状況を受け入れ、対応できるかどうか。
弥次さん喜多さんに会ってそんな話をゆっくりしてみたいと思った。

(2024/8/28記)

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へんいち
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