他愛もないが邪心もない、高校生の頃
この1週間、いろいろあって少し心が疲れている。
でも毎日このnoteで皆さんの記事を読んでほっこりしたり、僕の記事を読んでスキをいただいたりで、皆さんに支えられた1週間だった。
とくにコメントをいただけた時の嬉しさといったらない。
昨日、高1の夏休みにシアトルへ短期語学留学に行った話を書いた。
書き切ったつもりだったが、あといくつかのエピソードを思い出した。
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現地では毎日どっぷり英語漬けだった。
その割に、先日受けたTOEICが聞き取り不能だったのが悲しすぎるけれど。
クラスメイトは男6名、女12名で、高1が4名、高3が1名、残りが高2だった。
その高2の中に、図体のデカい男子がいた。
出国前おとなしかった彼は、現地で豹変する。
クラスには男女1名ずつ現地の高校生チューターがついていたが、この女子チューターがダイアナ似の猛烈にかわいい子だったのだ。
ガタイのいい彼は、自分はラグビーをやっている、スポーツ大好き、アメリカ大好き…うんぬんかんぬん、猛アタック。
メガネをかけた平板な顔立ちはいかにも日本人で、ダイアナとはあまりに不釣り合いだったが、なぜかダイアナもまんざらでもなさそうに見えた。
2週間の努力が実って連絡先をゲットし、彼は帰国後もペンパルとしてダイアナに愛のメッセージを送り続けていたようだった。
今度ダイアナが日本に会いに来てくれることになったと連絡もあった。
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帰国して1か月ほど経った頃、同じクラスの18名で集まってランチを囲んだが、店は神戸・北野の異人館〈旧グラシアニ邸〉だった。
〈旧グラシアニ邸〉
高校生の集まりではあり得ない高級フレンチに驚いたが、その店が選ばれた理由を聞いてさらに驚いた。
クラスメイトの女子が、当時の〈グラシアニ〉のオーナーの娘だったのだ。
彼女は神戸で名のとおった私立のお嬢様学校に通っていた。
いくら2週間とはいえ、語学留学の参加者は金持ちばかりだったのだ。
親に無理を言って参加した貧乏育ちの自分だけ、完全に浮いていた。
ランチが始まると、前述のラガーマンが急に泣いてカミングアウトした。
「皆さんすみません、俺はラグビーなんかやったこともありません…」
もともと静かだったフレンチランチは、さらに音をなくす。
あふれる彼の涙を見て、ダイアナの連絡先をゲットしたことも、ダイアナが来日することも、すべてがウソだったことを悟った。
ハイソな高校生たちの集まりの中で一人ソワソワしていた貧乏な僕。
高級フレンチを前にして2週間がウソだったと吐露したエセラガーマン。
なんだこれ。
おかげでせっかくの〈グラシアニ〉の味はまったく覚えていない。
〈グラシアニ〉の娘は、手紙に僕が書いた「久しぶりに会えるのを楽しみにしすぎて、ろくろ首になりました」というのをいたく気に入ってくれ、それからたくさん手紙が届くようになった。
他愛もないが邪心もない、高校生の頃。
その後の18名は、何度か集まることもあったが、それぞれが大学へ進む中でつながりもなくなり、自然消滅した。
〈グラシアニ〉はその後、オーナーも変わり、不幸にも従業員に放火され全焼したと聞いた。
今は再建され、またおいしいフレンチを提供しているらしいので、また行ってみようかと思っている。
(2021/8/21記)