見出し画像

どうやら彼は真実をお見通しらしい

僕の通った中学校は、明石にある神戸大学附属だった。
同じ附属校が住吉(神戸)にもあり、いわゆる姉妹校の関係になる。

神戸や芦屋のハイソなお坊ちゃまお嬢ちゃまが通う住吉に対して自分たちは田舎侍――明石の生徒にはそんな劣等感があった。
いやこっちは姫路城もあるで、という意味不明な対抗心といっていい。

場所が離れていることもあり、ふだんは交流がなかったが、年に一度〈定期交歓会〉なるものがあった。
両校が一堂に会し、クラス対抗や部活対抗で交流するのだ。
お坊ちゃまには負けられない、明石の生徒は皆そう意気込んだ。

クラス対抗は1年がバレー、2年はバスケなどスポーツ対抗戦だった。
僕は正直、運動が得意ではない。
短距離走だけは小4から急に学年イチ足が速くなったので陸上部に所属してはいたけれど、球技や団体競技の類いはとくに苦手だった。
だからクラス対抗がバレーと知ったとき、とんでもないと思った。
皆の前で恥かくやん…

バレーは9人制だった。
21点先取は公式ルール通りだが、時間がないので1セットマッチ。
あろうことか、僕のサービスから始まった。
もうやめて…

アンダーハンドからひょろひょろとボールを上げる。
やった、アウトに流れず相手コートに入りそう!
ん? 相手のミスでサービスエース、1-0。
ラッキー!

次のサービスも引き続き僕。
バレーは点を取りつづける限り、サーバーは変わらない。
やった、またうまくいった! ん? 相手のミス、2-0。

(中略)

21回目のサービスも引き続き僕。
相手のミス、21-0。
勝利。

ただの一度もボールは返ってこなかった。
僕以外の明石チーム8人はボールに触れることなく終わり、正直おらんでもよかったやんと皆で笑いあった。

これは決して僕がバレーの名手だという話ではない。
こんなこと言うたらアカンのやけど、相手チームが…
おかげで僕はバレーがうまいと勘違いしてしまった。
そしてその勘違いは今もなお続いている。

先日のバレー・ネーションズリーグをテレビで見ながら、
「あぁもう! そこ、もっと早よトスあげんと」とつい口走ったら、
「はいはい」と息子に軽くいなされた。
息子の前でバレーをやって見せたことなど一度もないのに、どこで知ったか、どうやら彼は真実をお見通しらしい。

(2022/7/31記)

いいなと思ったら応援しよう!

へんいち
チップなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!