僕はきっと、うっとりトロトロの表情になっていただろう
先月末の入院以来、幾度か僕の食について書いた。
口腔手術を受け、ふつうのものがふつうには食べられなくなったと。
最初そう書いたとき、そんな手術とは思わなかったと、なかなかの衝撃をもって受けとめていただいたように思う。
このnoteで食がテーマのマガジンにせっせと記事を書いてきた僕が、ペースト食になるなんて。
まさか一生これとは思わなかったが、僕にとっても衝撃の事実だった。
そして逆に、昨日あげた記事にも驚きの声をいくつもいただいた。
ずいぶん食べられるようになってよかったと、嬉しい声がたくさん。
退院して半月、順調な回復といえるのかもしれない。
しかし正直にいうと、この刻み食は僕にとっては大きな負担だ。
食事するには装具が必要になったが、今つけているのは簡易的なもの。
あくまで欠損をカバーすることを優先しているため、噛めない。
だから上の写真のような刻み食は、甘噛みして呑み込んでいるだけだ。
今の僕にとってはチャレンジでしかない。
なぜ挑むのか。
ひとつには、甘噛みであっても顎の筋力低下を最小限に抑えられるから。
装具が正式なものになったとき、顎が衰えていては話にならない。
そしてもうひとつは、食べることへのあくなき欲だ。
噛まずに呑み込んでも、栄養的には食べたうちに入るのかもしれない。
でもそれではダメなんだ!
自分で噛むことが味わい、食べる喜び、生きる喜びに直結していることを、こんな口になってさらに強く感じるようになったのだ。
気力で刻み食を口に運んでいるといっていい。
僕の食事情、今はそんな段階にある。
*
退院してすぐ、試しにスーパーの安いショートケーキを食べてみた。
ケーキなら大丈夫だろうと思ったが、クリームが生地を包み込んでうまく呑み込めず、あわや窒息かという状況に陥った。
こんな柔らかいものすら食べられなくなったのかとショックを受けた。
それから半月、僕はそのままでいるわけいにはいかなかった。
スポンジ生地が苦しいなら…クレープは?
昨日、三宮東の人気のクレープ店〈HAHAHA crepe〉を訪れた。
民家を改装したらしいこの店は、閑静な住宅街のど真ん中にあって、そこら中に漂う甘い香りと店先の行列がなければとても店には見えない。
店内も狭く、オーダーする人、できあがりを待つ人で足の踏み場もない。
このラインナップに目が回るが、柑橘大好きな僕はオレンジに即決。
次々入るオーダーに、厨房では息つく間もなくクレープを作り続ける。
そしてようやく、オレンジクレープを手に!
前歯がもっとも使えないので、ケーキに続いてこれもダメかもしれない。
そんな思いで恐るおそる口にしてみた。
もちろん噛みきれない。
でも食いちぎった!
ひとたび口の中に入ると、あとはもう大丈夫。
もちもちの皮に包まれた、あっさりたっぷりの生クリーム、そしてごろごろ入ったオレンジ。
これは人気になるはずだ。
住宅街のまん中でペロリとクレープを食べきった僕はきっと、うっとりトロトロの表情になっていただろう。
(2023/4/24記)