湯冷ましはひなたぼっこの味?
「うっ、まずい…」
コップの水を口に含んだ娘が顔をしかめた。
え、梅雨でもないのにそんなにまずい?
「なんで冷めたお湯って変な味がするんやろ…」
あぁ、そういうことか。
朝沸かした湯をコップに数時間置いたものを飲んだらしい。
分かる分かる。
それは僕も常々思っていた。
白湯が身体にいいとか言うから、沸かして飲んだりするけど。
冷めるにつれてどんどん変な味になっていくんよな。
——加熱することで水に含まれていた物質が変化するのでは?
イオンが何かと結合するとか、溶け込んでいた気体が蒸発するとか。
娘にそう言ってみた。
「ま、まぁ、そうなんやろけど」
なんや、得意げに言ってみたのに、そんなのあたりまえ的な反応。
まだ不満の残る表情を浮かべる娘が言った。
「この変な味、どう表現したらえぇか…」
う、注目点はイオンとか気体ではなかったようだ。
あの味、あの香り、口と鼻は覚えているが言語化したことはない。
うーん、うーん…
——ひなたぼっこの味?
ひなたに漂う風の匂いをふと思い出して、そう言ってみた。
娘が膝を打ってケタケタと笑いながら叫んだ。
「それな! 分かるー!」
え、まさかのヒット?
娘にはふだんなかなか同意などしてもらえないから、ちょっぴり嬉しい。
ということで昨日、湯冷ましはひなたぼっこの味、に決定した。
(2024/5/22記)
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