とりあえず今晩はパスタにしよう
売場にコメがない。
いや、正確にはあるんだけど、王様クラスがお召しになるようなコメだ。
僕のようなド庶民が慎ましく食べるコメがなくなった。
よく買う銘柄は確か昨年5kg1680円だったが、在庫がだぶついたのか今年に入ったあたりは頻繁に1200円で売場に並んでいた。
それが春を過ぎると1680円以下には下がらなくなり、1800円、2000円と次第に上昇し、暑くなってからは2280円となった。
あまりの上昇ぶりに買うのをためらっているうち…
売場から消えた。
昨年の猛暑が原因で、コメが白濁したり割れたりして商品にならないのだという。
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新社会人として東京で暮らしはじめた1994年も深刻なコメ不足だった。
今年のように売場からコメがみるみる姿を消し、どうする?どうする?とうろたえていたら、タイ米が並んだ。
ジャポニカ米しか知らなかった日本人には衝撃のインディカ米。
くさい!まずい!の大合唱しか聞こえなかった記憶。
どうすればうまく炊ける?といった特集がレシピ雑誌を賑わせた。
いや、全部炒飯にしてしまえ!みたいな極論もよく見かけた。
のちに「平成の米騒動」と呼ばれることになるこの事態は前年の異常冷夏が原因だったが、この年の猛暑で豊作となり1年で解消された。
259万トンにのぼった緊急輸入米は結局98万トンが売れ残り、一部は廃棄されたという。
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令和の米騒動。
今年の政府は、10月には新米が出回るから問題ないと静観の構えだ。
平成の騒動から学んだということか。
慌ててインディカ米を輸入して結局は廃棄するという外聞の悪い事態は避けたいというのはよく分かる。
しかし今回は、気候が翌年には安定することが予想されていた当時とは事情が大きく異なる。
昨年を上回る今年の猛暑は、来年のコメ不足を予言しないのだろうか。
スーパーによっては、これだけ在庫が逼迫していても、精米して1か月が過ぎたコメは売場から撤去し廃棄するような悪習もいまだに多いという。
いったい何をやってるんだ。
さらにはインバウンド需要でコメが日本人の食卓に回りにくくなったという笑えない事情まである。
政府がインバウンドを伸ばそうと躍起になればなるほどコメ不足は加速するのだ。
インディカ米に慣れ親しんだインバウンドにはジャポニカ米を与えなくてよいと思うがそうもいかないのだろうか。
今、コメを買い占め、売り控えている業者もいるに違いない。
10月に思うほど新米が出回らなかったら暴利をむさぼれるのだから。
ド庶民の僕には打つ手が何もない。
とりあえず今晩はパスタにしよう。
(2024/8/6記)