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上から順によそっていくのは、なしだ

炊けたご飯のいちばん上は極上にうまい。
そのうまさを知らない人は試しに食べてみてほしい。
炊きあがりを混ぜず、しゃもじで表面だけを削り取って頬ばるのだ。

下ほど米自身の重みが加わるが、上に行くほど軽くなり、表面あたりはふっくらと炊き上がるからだ。
炊けたらすぐ混ぜろと言われるのは、よけいな水分を飛ばし、ほぐしてかたまりにならないようにするためだが、上下で偏りのあるうまさを均一にする意味合いもある。

でも、せっかくそこにある極上を味わえずに終わるのももったいない。
たまには混ぜず、表面とそれ以外を分けて楽しむのもいい。
もちろん先に食べる人が上から順によそっていくのは、なしだ。

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大学生活を送っていた京都で、一時期、老舗の料理屋でバイトをしていた。
玄関先に立ち、入ってきた客を見て1階のテーブル席へ通すか2階の座敷へ通すか判断して振り分け、2階へ通した客の顔を覚えて靴を預かるという、いわゆる下足番の仕事だった。

夜の営業が始まる前、裏の従業員座敷に全員が集まる。
仕事前にまかないの時間があったのだ。

え! いいなー、老舗のまかない!
夜遅くなるから夕方にまかない出してくれるなんて、超ホワイト~!

と思った人、あまり先走らず、感想はこの先を読んでからにしてほしい。

まず店の主人から、脚つき膳の上に魚・小鉢・汁・たくあん・ご飯が並ぶ。
主人が食べ終わるまではみんな黙って正座で待つ。
その次はベテラン社員が、脚なし膳の上に、小鉢・汁・たくあん・ご飯。
それが終われば一般社員が、膳なし、汁・たくあん・ご飯。
そして最後に自分たち丁稚…いやバイトは、たくあん・ご飯、以上。

かくて毎夕、厳かにしめやかに、まかない大会は繰り広げられた。
さぁ、感想はここでどうぞ。

もしかすると、おかずの多少や膳の差異だけでなく、炊けたご飯を上から順によそっていたかもしれない。

(2021/4/14記)

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