貧乏ブリア・サヴァランが暗い季節にピカールに通う訳
パリもこの1、2週間ですっかり冷え込むようになった。ああ、もう冬の到来か…と太陽のない日々をしみじみ嘆く。パリの冬は日本と違って晴れ渡る青空を見ることは稀だ。朝起きても太陽光がないので朝なんだか夕方なんだかよくわからない。
夜型の私は太陽のない朝目を覚ますとつい、「これは朝とは言わない。いっそのこと朝なんかなくなれ!」とひとり毒づく。
そんな時にベッドから起き上がるため、どうにかして生きる喜びを探そうと必死になるとやはり食べ物に行き着く。ほら呪文だ、呪文!
「温かいコーヒーを入れて昨日買ったばかりのシリアルパンにたっぷりの蜂蜜とバターを塗ろう」
というこのフレーズは、
「朝起きたらまず将来自分がなりたい自分をリアルに思い描こう」
という無理難題を朝っぱらから要求してくる引き寄せの法則の10倍は頭を最速でハッピーに、そしてクリアにしてくれる。
午後は午後で日が短いのが気に入らないが、これは何も私が寝坊助だから(というだけでは)ない。冬至が刻一刻と迫る中、どんどん日は短くなって、今では明かりを付けずに過ごせる1日の時間が短い時でたったの6時間である(17時前で既に薄暗い)。
そうなると淡い自然光の中にせよ、明かりをつけずにご飯を食べられるのはお昼だけということになるので、いかに1回1回の食事で楽しくなるかというところにエネルギーを注ぎたくなる。
脳はガツンと分かりやすい 美味しさの食べ物を求めるようになるらしく、最近はなぜかスーパーに行くと子供が食べるような色鮮やかな駄菓子が買いたくなったり、濃厚な味のポテチの前で足が止まったりする。危ない、危ない!
逃げるように棚から離れるが、ふと気が付けば諦めたはずのハリボーのグミをしかと握っていたりするから恐ろしい。
スーパーを出ると今度はブランジュリー(パン屋さん)の灯りが眩しい。フランス人は夕方6時ぐらいになるとまるで配給の列かと思うくらいに長い列を作ってブランジュリーの前に並ぶ。
列嫌いの私としては、そこまで時間を費やして一つのところに並ばなくても(パリでは犬も歩けばブランジュリーに当たるというくらいブランジュリーの数は多いのだから)、他のところへ行けばいいと思うのだけれど、どうもそれぞれに行きつけがあるらしいのだ。
そして列が長すぎてブランジュリーでケーキを買う気にならない時は、私が「魔法の冷凍庫」と呼んでいるピカール(Picard)へ直行する。
ピカールは、怠惰な私にとって生活になくてはならないまさに魔法の冷凍庫だ。エビのコキールからブルターニュの生牡蠣、そして黒ごまのアイスクリームやタルト・タタンに至るまで、自分で用意するとなったらお金や手間暇がかかるものたちがこの店に結集している。
だから憂鬱な時は欲望に任せあれこれと手を伸ばし、結果例えばこんなフルコースが出来上がる。
前菜:
サーモンのタルタル。トリュフ風味のマッシュポテト添え
又は帆立とクリームソースのガレット(そば粉のクレープの事)
メインディッシュ:
ミラノ風カツレツ
又は
シェーブルチーズ、ほうれん草のトマトソースのニョッキ
デザート:
ブルターニュ産フレッシュバターを使ったタルトタタン(ホールサイズ)
又は
イタリア製ティラミス(2個入り)
とこんなふうに思いつくままに私のお気に入りを並べてみた(実際はまだまだある)が、まるでフレンチ・レストランではないか?
これらのものが自宅のテーブルに並ぶところを想像すると私は結構いい気分になる。
ピカールは今日本にも進出しているらしいから、運良く近くにある人は一度覗いてみるといいかもしれない。材料も日本の冷凍食品に比べると極めてシンプルで添加物も少ない。肉もフランス産のものが多いので安心だ。
と言いつつ、
私はいろんな人が褒め称えるびっくりドンキーのモーニングセットに挑戦したくて仕方がないのだけれど、誰かフランスにびっくりドンキーを輸出してくれないものか?
この冬もできるだけ美味しいものをたくさん食べて自分を宥めすかした後は、ある程度の運動もして健康に過ごそうと思う。