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隣のお姉さん【百合小説】

「ただいまー」
有希が帰宅すると、待ち構えていた母に皿を渡される。首をかしげながら受け取ると、隣の家に持っていくように命じられた。
「隣のお姉さん、海外から帰ってきたんだってー。お土産頂いたからこれ、持って行きなさい。」
オシャレな紙袋を見せられると、自分が渡された皿の中の肉じゃがを見てため息をつく。
どうせ何を言ったってこの母親は折れないのだ。
小さい頃は「ひなこおねえちゃん」と後ろをついて歩き、学生になるとふざけて「陽菜子お姉さま」と呼んでいた。
そんな隣のお姉さんが海外勤務から帰ってきたのだ。
正直顔も見たかったし、少し見ない間に大事な陽菜子お姉さまに虫でもついていたらと気が気じゃない。
有希は着替えもせずに隣に向かった。
 
――ピンポーン
響くインターホンの音。少しして懐かしい声が聞こえた。
「はい」
「有希です!」
「今開けるわ」
扉の向こうに現れた陽菜子は変わっていなくて、有希は心の中でほっとした。
玄関先で母に頼まれた皿を渡すと、家の中に促される。
「帰ってきたばかりで何もないけど・・・」
ココアを渡されて、ソファーに並んで座ると陽菜子にもたれかかる。
 
「お姉ちゃん、変な男に引っかかってないでしょうね。」
「ない」
「じゃぁ、女・・?」
もう一度聞くと「そうねぇ」と言いながら指を折っていって見せる陽菜子をポカポカと叩いた。
「冗談よ」と言って笑う陽菜子を慕う気持ちは今も少しも薄れていなかった。
「こ~んなにも大事にしてる有希がいるんだから、冗談にきまってるじゃない?」
陽菜子はそう言いながら抱きつき頭をなでてくれた。
(絶対・・・1人2人は冗談じゃない・・・・・・)心の中で悪態をつきながらおとなしく撫でられる。
「仕方ないなぁ、陽菜子おねえちゃんは!私がいないとすぐにふらふらするんだからっ!私がしっかり捕まえておいてあげますねっ!」
今度は有希が抱きついて腕にぎゅっとしがみつく。
懐かしいやり取りに彼女が戻ってきたことを実感すると、潤んだ瞳から涙が零れないように目を閉じた。
 

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