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【大正の少女雑誌から】#5 乙女の恋歌


大正期の少女雑誌の投稿欄からさまざまな言葉をピックアップする本シリーズ、今回のテーマは「和歌」です。

少女雑誌のすぐれた投稿作品のなかでも、和歌の精錬ぶりには特別なものを感じます。
限られた三十一文字(みそひともじ)に当時の少女たちが託しているのは、日常のふとした感動や感傷。そして、思春期の恋です。

知つてます誰のお手々かわかりますけどいつまでもかうされてゐたいの
香川 朝浪るり子

否、「恋」と言い切るのは、おそらく正しくないのでしょう。相手は男性ではなく、これは女の子同士の特別な感情──

うら若い乙女が男性と並んで歩くなど言語道断とされていた当時、女学生たちは小さな箱庭のような校内で、友情を超えた想いを互いに向け合っていたようです。
特に、上級生と下級生が特別な関係を結ぶことは「エス(Sisterの頭文字)」と呼ばれました(彼女たちが実際どのようなやり取りをしていたか等は、『女學生手帖 大正・昭和 乙女らいふ』に詳しく紹介されています)。

こうした背景を踏まえつつ読むと、美しい恋歌がますます美しく、胸打つものに感じられるのです。


薔薇を嗅ぐそれに似かようかんばしき心となりて君に文かく
寶塚 夕待草

星ぞらに君を思へばそのことば銀木犀の香となりて出づ
名古屋 桐谷佳子

我が胸の小舟はあはれかぢとりの君さりてより浪にさすらふ

臺北 舟津つた子

君が名を銀の針もて我むねにふかくきざまん月の光りに

大阪 中村朝代

にほひにほひ若葉のにほい藤のにほひセル着て君と野に行かましよ
東京 山本ひろ子

花見歸りを降り出でし雨は嬉しもよ繪日傘にゐりて二人歸りつ
鹿兒島 郁江

戀ふるにはあまりに遠き人なれど諦めんにはすべなかりけり
東京 まゆみ

くるしみも惱みも淡き虹のごと君のひとみに觸れなば消えむ
東京 葩■子

『少女画報』十五巻三〜五号・大正十五年

いまでは「百合」という言葉がありますが、この歌の数々を読んでいると、どうもそれとは区別しておきたい気持ちになります。
彼女たちの歌う想いがあまりにも透明で、現代の何にも当てはめられない独自のものと感じるからです。また、限られた環境下で生まれたものだと思うと、その透明感がますます崇高に感じられて、手近な言葉でポップに消化してしまうことになおさらためらいを感じます。
ともかく、美しい花は手折らず、花園には足を踏み入れず、といったところでしょうか。

さて、今回はとても初々しく淡い恋歌ばかりを集めましたが、なかには十代とは思えないほどの官能性や情念を感じさせるものもあります。
想いと関係を深めていけば、その先には甘さだけではないものが待っている。それを知る前の自分には、もう戻れない──
次回は、そんな歌をより分けてご紹介します。


※引用についてのお願いです。



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