抄訳・源氏物語〜桐壺 その五〜
祖母を亡くした若君は内裏で暮らすことになった。
七歳になって読書を始めると他の子供たちと違い、聡明で賢いので帝はとても驚いた。
それ以外にも琴や笛などの管弦の才能もあるようで、教えていた者も胸を打たれるほどでした。
帝は母がいない若君を、後宮に連れて行くことが多かった。
女御や更衣たちに「母のいない可哀想な子だから、可愛がってやって下さいね」などと言って、弘徽殿の女御の部屋にも連れて行って、御簾の内にも入れたりしていた。
どんなに恐ろしい武士や仇敵でも、見るとつい微笑まずにいられない若君の可愛さに、
弘徽殿の女御も、自身の二人の皇女より美しいと思わずにはいられなかった。
他の妃たちもいつもなら御簾の内に姿を隠して、顔を見せないが若宮が幼く可愛らしく、そして聡明なので、側近くで遊びの相手をしたりして、可愛がっていた。
ある時、高麗人が来日していて、その中によく当たると言う人相見がいたので、若君を見てもらおうと思ったが、宇多帝が異国の者を御簾内に入れて直接会っては行けないとする掟を作っていたので、誰にも秘密にして右大弁の子供のように思わせて、外国人が旅宿としてた鴻臚館へ行かせた。
高麗人は何度も首をかしげながら不思議そうに、若君の顔を見た。
「帝の位につく方と同じぐらい優れた人相をお持ちの方ですが、そのようにして占ってみると、国が乱れて民が苦労してしまうように思います。また国政を補佐する人として占うと、人相が優れ過ぎているので、何か違うように思われます」とかなりこまり果てた結果となった。
高麗人にしてみれば右大弁の息子として占っているのだから無理もないことだが。
高麗人が「帰る際にこのような優れた相をお持ちの方にお会いできて嬉しいです」
と詩を贈られ、若君が返事を書くと、その返事に心から感銘を受けて色々な贈り物をした。それを知った帝からもお返しにと沢山の贈り物が贈られた。
この様子が噂となり、春宮の祖父の右大臣の耳に入った。右大臣にすれば、わざわざ帝が第二皇子のことを占わせるなんて何か特別な意味があるのではないかと、疑っていた。
息子の幸せな道は何かと、悩んでいた帝は高麗人に占いをしてもらう前に日本流の人相見もさせていた。その人相見の占いと今回の占いに違いがないことで
心を決めたようだった。
無品の親王で後ろ盾が無いのでは、心細い皇族にしてしまう。
自分が生きている間はなんとかしてやれることもあるが、自分の代もいつ終わるかわからない。それならばいっそうのこと臣下にして国家の補佐役としての地位を与える方が、
将来安心して自分の力で暮らしていけるのではないかという結論に至った。
そう決めてからは、以前にもまして若君に色々な勉強をさせた。勉強をすればするほど優れた面が出てきて、「やはり臣下にするのは惜しいかもしれない」と思ってしまう。
だが、親王のままでいると春宮の座を狙っているのでは?という野心の疑いをかけられてしまう。悩みに悩んだ末、元服後には源の姓を与えることにした。
続きは
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「御簾の内」と言う言葉がよく出てきます。
平安貴族の家は「寝殿造り」です。すごくでかい。甲子園球場1つ分ぐらい。
もちろん権力によって大きさは色々だったと思われるが。
寝殿を中心に北の対、東の対、西の対と渡り廊下(渡殿)で結ばれていた。
敷地内には大きな庭があって池や築山(人工的な小山)や唐橋や釣殿などがあって、敷地の外に出れない女性たちの唯一の「外」になります。
寝殿は寝室ではなくリビング的なもの。北、東、西に対屋があってそこに妻など女性がいます。
部屋の中は仕切りのないワンルームです。ど真ん中を母屋と塗籠があり、
それを囲むように「廂(ひさし)」があります。この廂って廊下みたいな部屋です。ここまでを部屋の中的な扱い。
庭に面して「簀(すのこ)」と言う廊下があります。廂と簀間に御簾がある。
御簾の内→部屋の中 御簾の外→廊下にいる(座る)
御簾の内に入っても、女性たちは几帳というもので姿を隠しています。
平安時代、女性の姿をみれるのは家族など限られた人たち、顔を見るのは父親でもあまりなく、裸をみられるくらい恥ずかしいことでした。
陰陽師や僧侶、呪詛、加持祈祷などと同じように、占いの顔相や夢占いなども
生活の一部でした。外国人を部屋の中に入れてはダメ。という規則があったので、仕方なく右大弁の息子になった源氏。高貴な生まれなのに、従四位の息子になったらそりょ占いの内容がおかしくなると思うよね。
後見人のいる第一皇子は春宮にもなったし、なんの心配もいらないけど、
身内が帝だけという源氏のことは心配で仕方なかったようで、かなり悩んだ末の臣下。でも良いチョイスでした。悩む源氏に、のし上がって行く源氏がこの先見れる(読める)から。
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