見出し画像

抄訳・源氏物語〜帚木 その一〜

長雨の梅雨のころ。なかなか晴れ間がない中、宮中の物忌が続いていて、
正妻の葵上がいる左大臣家に帰れなく、御所の桐壺で過ごすことが多くなっていた。
左大臣はあまり家に居付かない源氏のことを恨めしく思うことはあっても、
やはり心配な息子の一人として、着替えや新しい衣服などを用意して、自分のの息子たちに御所に届けに行かせていた。息子たちは他のどの用事よりも、源氏のいる御所の桐壺へ行くのが楽しみだった。

左大臣の息子たちの中に、葵上と同じ母から生まれた頭の中将がいる。
この中将と源氏は仲が良く遊びや何かをするときにはいつも一緒だった。
頭の中将の妻は右大臣の四の姫なので、右大臣家でも中将に気を配って、大切に世話をしているが、この人は遊びの方が好きなので、妻の家にはあまり通わなかった。
頭の中将は実家にまだ自分の部屋があり、そこを立派にしつらえて、居心地の良い場所にしていてる。
源氏が左大臣家に行くときは必ずお供をして、昼夜、勉強や音楽をするときも二人一緒に過ごしている。頭の中将は帝の息子である源氏に、なんの遠慮もしないで、思ったことを気軽に言ったり、何かにつけて源氏と競ったりする仲だった。

雨続きのなか、ゆったりと桐壺で過ごしていると、源氏が秘密にやりとりしている女性の手紙を中将が見つけて、「この手紙の主は…」などと当て物でもするように勝手に読み出した。源氏は止めたが聞く耳を持たない。
源氏自身も本当に大切な文は誰かの目につくような所に置いてるはずもないので、そのまま好きにさせていた。
すると、文を見ながら中将がどんな女性が好みか、などとを話し出した。
「噂通りの完璧な女性など、どこにもいない。かしずかれている上流の姫の欠点は周りの女房が隠してしまって、わからないまま結婚した後にその欠点が出てきてしまう。それよりも中流の女性の中に、稀に良い女性だなと思うもような人が居たりするんですよ。」
などと心当たりでもあるような話ぶりで、少し興味があり続きを聞こうとしていたら、
左馬頭と藤式部丞が源氏の部屋を訪ねに来て、そのまま加わって話が盛り上がった。左馬頭は従五位で藤式部丞従六位、二人は身軽な身分なので、遊びなれている。恋の上級者で色々面白い話もありそうだから、みんなで聞いてみようとなった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

頭の中将は源氏にとっての悪友、いやいや親友です。しかも従兄弟同士。
そして妻が葵上なので義理の兄弟。実は頭の中将は葵上の兄なのか弟なのかはっきりしていないらしいが、抄訳・源氏物語では「兄」とします。
血筋的には源氏の方が上だけど、両親が揃っていて父親が官僚トップクラスの左大臣、母親は帝の妹の内親王。本人は源氏と自分にはさほど差がないと思っていて、良きライバルで親友と思っている。確かに光源氏と言われるほどの男に挑めるのは、頭の中将以外いませんでした。ただかなりの浮気者。
源氏は秘密主義者で自分のことはあまり話さないタイプ。
この「帚木」の冒頭は作者からの源氏の悪口っぽいものから始まる。
「光る源氏と名前が立派すぎて、自由奔放で好き者的に思われるが、実際のところ噂ほでなない。」的な感じで書かれている。そして締めくくりは
「妻以外に女性がいるように言われているが、世間にあるような浮気ぽいことは好きではない。でもたまに変わった恋に落ちることがあったり、禁断の恋に悩んでしまう、悪い癖もある」的に書いてある。
そして、「秘密主義で女性との浮名を後世に残したくないと言ってても、恋の失敗談はこの源氏物語に書かれているけどね〜」的に書いてあるのがすごく面白い。
紫式部ってお茶目さんですやん。

サポートしていただければ、励みになります。よろしくお願いします。