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インポーター開催の試飲会で、予期せぬ収穫

Vol.035
ヴィーノサローネが取り引きする、インポーターの試飲会に参加しました。春の開催にも伺い、今回が2度目。前回試飲したワインの味をもう一度確認することと、ヴィーノサローネで販売中の"看板ワイン”「スキオペット、フリウラーノ」の理解を、より深めることが目的でした。

1965年に誕生した「スキオペット、フリウラーノ」は、いまは亡きオーナーのマリオ・スキオペットさんが、当時ドイツで展開していた、先進的な醸造技術“ハイパーオキシデーション”を取り入れて造った革命的なワインです。“ハイパーオキシデーション”とは、ワインの酸化をうながし、早い段階でブドウの果実味や香りを表現する醸造法です。
しかし、現在の「スキオペット」は、“ハイパーオキシデーション”を経た醸造ではありません。2014年から導入された“還元醸造”という、ワインを空気に極力触れさせない方法で造られています。

あれ? ワインが好きな方なら、前述の矛盾に気づいたのではないでしょうか。
当初用いていた醸造法は、ワインの酸化を早めて果樹実を活かしたのに対し、現在は真逆です。

試飲会場で、担当者に質問しました。
その答えを簡単にいえば、現在の“還元醸造”で十分に果実味のあるワインができる、とのことでした。酸素をワインに触れさせない方が、果樹実が表れるという実証を得たのです。さらに、“還元醸造”は、“ハイパーオキシデーション”に比べ、ワインの品質が安定し、果実味や香りが豊かになる。まさに、ワイン造りの技術的な進歩です。

つまり、“ハイパーオキシデーション”は古い醸造技術となったのです。しかし、担当の方は、再び“ハイパーオキシデーション”の醸造法を取り入れるワイナリーが今後でてくる可能性は、十分にあります、と。あえて古い技術を復活させ、新しい味わいに挑戦する。これって、ファッションの流行の背景と似ている、と主は思いましたね。

ファッションの世界には、かつてこんなことがありました。
いま、皆さんが着用するスーツの服地の多くは、速いスピードで織ることができるスルーザー織機を使ってつくられています。ところが、二十数年前。速度の遅い織機で織った生地の方が、コシがあるうえ、味わい深さが増すということに、ある生地メーカーが気づきました。織機のなかでも、「ドブクロス」というシャトルを使った低速織機に注目が集まったのです。
高速の織機で生地を織れば、生産効率は上がります。しかし、肝心の生地に風合いが乏しく、なにか画一的な面持ちになるなら、低速織機を使った方がいいのではないか。少しコストを上乗せすれば、長く愛用したくなるような、味わい深い生地ができることを、当時、ファッション雑誌でも取り上げていました。

ワインの醸造からファッションの世界への置き換えが長くなりました。先の置き換えは、機械技術の進歩と、手仕事の感覚を重視するものづくりとの闘いともいえます。
醸造技術は、「いまの技術」が最も適した方法なのでしょう。しかし、いつかまた、過去の製造法を見直されることもある、という意味なのです。

そのあとも、担当者とはなしていると、現在のワインマーケットの話題に広がりました。
インポーターが、今回の試飲会に合わせて新たに輸入しはじめ、強く推したワインが“バローロ”。ピエモンテ州を代表する赤ワインであり、イタリアワインの王様です。

試飲した“バローロ”は、雄大な香りで、ネッビオーロ特有の個性が表れていたものの、どこか軽く感じる。即座に、率直な“バローロ”観を担当者に伝えました。
「2000年代初頭、“バローロ”ワインの生産者であり、その改革派と呼ばれたヴォエルツィオが造ったワインは、“バローロ”の魅力が最大限に表現されていました。主にとって“バローロ”ワインの完成形といえるほど、十分な到達点を感じました」
担当者は、「もちろん、ヴォエルツィオは、素晴らしいワインの造り手です」と答えた一方で、「現在のワインマーケットは、ワイン造りのコンセプトや造り手の哲学も大切ですが、第一印象として、飲んでおいしく、軽い、楽しくなるようなものが人気」というのです。

日ごろから、日本のワインマーケットを自分なりに分析していますが、ついに“バローロ”までも、飲んだときのわかりやすさや、ある意味での軽快さが販売に繋がる理由になっている。ワインを販売する際、味わいの重厚さや生産者の哲学的な思いを伝えながらワインを薦めることは、実はセールスポイントになりにくい、ということなんです。
はは~ん、面白くなってきました。現在のマーケットに抜け落ちている重要なポイントも見えてきました。主は、もっともっと造り手の哲学やワイン造りの背景を語っていこうと思います。

ちなみに、ピエモンテ州のワイナリー、「ヴォエルツィオの哲学」については、まだ先になりそうですが、必ず書くつもりです。

次回の“ディアリオ ヴィーノサローネ”に続きます。

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