教習所記録⑨

みきわめリベンジの朝は雨天に見舞われていた。教習所の出す朝市イチのバスでは1限のキャンセル待ちに間に合わないと思い、市営バスに乗り込み教習所に辿り着く。
開所時間を待つ5人ほどの若者が自動ドアの前で憂鬱な雰囲気を醸していた。予想していたよりキャンセル待ちの人が少なかったようなので、繁忙期は過ぎたのかもしれない。
チャイムが鳴り、ツカツカと私やってきたおじいちゃん指導員の顔を見てさらに安堵した。修了検定時に担当してくれた温和で優しい指導員だ。
「前回は何ができなかったの?」
「何が不安?」
「いいね、できてるよ」
こんな具合で最初から最後まで穏やかな口調で私の緊張を解してくれるおかげで、なんとか路上走行を終えた。
左折時に車体を左に寄せることができていなかったことを前回のみきわめで指摘されたので、そのことを相談すると「ああ…今日はやらなくていいですよ」と言われた呆気にとられた。おいおい、どういうことだ。話が違うぞ。「雨だし、無理にやると逆に危ないからね」
え…そういうもんなの?とりあえず今回のみきわめでは特に重視されていないようだったが、意識して行うようにはした。
それにしても指導員によって重視する内容が違うのは困るので、これは卒業した後に行うアンケートに書いてみようと思う。

みきわめで走るのは最も難易度の低いコースである。卒検ではどのコースを走るか当日にならねばわからないし、人通りの多いコースを走る可能性の方が高い。大きなポカはないものの、発進前の後方安全確認が甘かった。焦ってつい安全確認を怠ってしまう癖があるため、本番までに修正しなければならない。
所内に戻り縦列、方向転換を行う。
縦列に関しては一度ポカしたが、やり直す時間がなくあっという間に時間切れとなってしまった。

「大丈夫ですよ。良好です」とにこやかに告げられ、やっとの思いで卒検の申込用紙を手に入れた。前回の修了検定前のみきわめもそうだったが、補習は割と大目に見てくれる印象がある。無事に卒検を迎えるわけだが、まったくもって自信がない。

「歩行者保護と信号無視だけは絶対にしないでね」そう告げておじいちゃんは教官室に続く階段をゆっくり昇って行った。

ありがとう、おじいちゃん。
あなたのおかげでなんとか卒業できそうです。