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ラ・フォル・ジュルネ、 本場ナント レポート その3

ナントのレポートの3回目は、3日金曜日の夜のコンサートです。

ガイスター・デュオに注目!

ガイスター・デュオ Geister Duoのメンバーはダヴィッド・サルモン David Salmonマニュエル・ヴィエイヤール Manuel Vieillard で、4手連弾も2台ピアノもこなします。昨年はじめに初CDをリリースしています。
4手連弾の時は、プリモとセコンドの受け持ちを固定しています。それは、オーケストラなどで一つ一つの楽器に特化された役割があるのと同じように、連弾でもそれぞれの役割があってそれを追求したいという考えに基づいています。
この日のプログラムはメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』の4手連弾編曲版(作曲家自身による)、ムソルグスキーの『禿げ山の一夜』をロシアの作曲家ニコライ・アルツィブシェフ(1858〜1937)が編曲したもの、そしてラヴェルの『スペイン狂詩曲』。
メンデルスゾーンを弾き出してしばらくして、会場のどこかから金属が振動するような不快な音が。2曲ほど弾き終えたところで演奏を停止し、客席に向かって「何か変な音が聞こえませんか?」と問いかけました。ピアノかもしれないと、和音を鳴らしてみるものの、楽器には問題がないようです。結局、天井に組み込まれたランプの囲いが振動していることがわかりました。どうしようもないので、仕方なくそのままコンサートを続行。ある音符の周波数に共鳴して振動するのですが、その音が大きく、聞かないようにしてもどうしても耳に入ってきます。
こういう条件で弾かなければならないのも音楽家人生の醍醐味(?)。演奏はというと、隅々まで丁寧に楽譜を読み込んでいるのが伺える素晴らしいものです。かといって丁寧すぎて冒険に欠けるということもなく、繊細さとダイナミズムが絶妙に同居した演奏を聴かせてくれます。会場はナントのフォルジュルネで一番小さな部屋(80席)だったので、かなり力をセーブしたとのこと。
次の日、同じプログラムをもっと大きいホールで演奏。会場近くですれ違った時に、「ホールが大きかったから、昨日とは全然手応えが違う。ところで、5月に東京のフォルジュルネに行くんだよ。日本に行くのは初めてでとっても楽しみ」と、嬉しそうに語っていました。趣向を凝らしたプログラムを披露してくれるのも彼らの特徴。毎回聴くのが楽しみな期待のアーティストです。日本で是非聴いてみて下さい!

ガイスター・デュオのマニュエル・ヴィエイヤール(左)とダヴィッド・サルモン
© Daniel Delang

真夜中の駅コンサート

今年のテーマ「夜への賛歌」に即して、TGVのナント駅のメインホールでなんと真夜中の0時からピアノリサイタルが開かれました。2月3日にウィレム・ラチューミア Wilhem Latchoumia、4日にヴァネッサ・ヴァグネール Vanessa Wagner が登場。ラチューミアはジャズ、アメリカ音楽、現代曲を精力的に取り上げています。一方、ヴァグネールはエレクトロミュージックのアーティストなどとのコラボレーションも多く、二人とも幅広いレパートリーでクラシック以外にも多くのファンがいます。また、二人でデュオを組んで弾くこともしばしば
私は3日のラチューミアのリサイタルを聴きました。ヴィラ・ロボス、ファリャ、ジョージ・クランブという、彼が得意とするプログラムで、演奏時間は1時間ほど。つまり、終了は朝1時でした。
演奏は豪快で熱情的。生まれながら持っている鋭いリズム感に貫かれた彼の演奏にはいつも何かしら新しい発見があり、よく知っている曲でもハッとさせられることがあります。
会場となった駅のメインホールは、最近の改装に伴って新設されたスペースで、地上4〜5階くらいの高さにあります。暖房はないのでじっと座っているととにかく寒い!演奏後にちょっと話した時に、上半身は体温を保存する特別な下着を重ね着し、下半身はズボンの下に厚手のタイツという重装備で弾いたと説明してくれました。「後ろに電気ストーブを置いてくれたけど、途中からすごく暑くなってきて大変だった」とも。お疲れ様でした。

真夜中の駅コンサートでのラチューミア。後方には改札があり、左下には電気ストーブが見える。
© Victoria Okada

ドミトリー・マスレーエフ ピアノリサイタル

時間を遡って18時15分から、ロシアのドミトリー・マスレーエフ Dmitry Masleev を初めて聴きました。2015年のチャイコフスキーコンクールで優勝しているのですが、この時4位に入ったフランスのリュカ・ドバルグ Lucas Debargue の印象が強烈すぎ。マスレーエフは配信で見ましたが、正直なところ、個性が感じられず、彼の1位は無難に消去法で残ったからだろうという印象がありました。ですので、実際はどうなんだろうか、コンクールからどう変わっているのだろうかと、この日のリサイタルには興味津々でした。
プログラムはロシアもののみ。最初に弾いたチャイコフスキーの『四季』と『子守唄』は細やかな抒情性に溢れている上に歌い心も申し分なく、なかなか良いなという印象。その後は、ラフマニノフ作曲『メンデルスゾーン「真夏の夜の夢」のスケルツォによるパラフレーズ』、グリンカの『ノクターン』、キュイの『セレナード』、そしてムソルグスキーの『禿げ山の一夜』(チェルノフ編曲)という技巧的な曲が並んでいます。プログラムが進むにつれて、テクニックはあるのに要求される技巧を完全に消化しきれていないのと、そのことによる粒の荒さと詰めの悪さがだんだんと目立つようになりました。結局、音楽を聴くというよりも、テクニックで推していることの方が気になるようになり、ホールから出るころには耳も頭も飽和状態ではっきり言って疲れました。
この後に聴いたガイスター・デュオの『禿げ山』が描写性に溢れて素晴らしかったので、重ね重ね残念。
もっと違ったプログラムなら全く別の印象を受けていたのでは、とも思います。

2017年、カーネギーホールでのマスレーエフ © Julien Jourdes

この日はもう一つ、弦楽トリオでバッハの『ゴルトベルグ変奏曲』を聴きました。トリオはこの日のための即興編成であるようで、3人ともうまいのですが、室内楽に必要なお互いの呼吸はいまいち。それに加え、アリア以外の全ての変奏を、繰り返しなしで演奏し、なんと45分という超短(最短?)記録で終了。この曲は繰り返しの時に演奏家がどう弾くかが聴きどころなだけに、とても残念でした。

次回は2月4日のリポートです。

トップ写真はヴァネッサ・ヴァグネールの真夜中の駅コンサート。
© Romain Charrier




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