子どもたちが早帰りする水曜日。 外は眩暈がするほどの暑さ。 仕事はお休み。 午後からの出勤を前に「お昼どうする?」と身支度しながら聞いてきた夫に「私は家で済まそうかな〜」と一度は返事をしたはずだった。だけど、きっかりお昼時、私は新宿南口の駅上にあるラーメン屋さんにいた。 10代が終わるころ予備校帰りによく立ち寄ったそのビルは、40を目前にした夫婦で入るには少し気恥ずかしい青い空気を相変わらず纏っていた。冷たいものが食べたいねと入った店で注文した冷やし坦々麺は、綺麗なガラス
リビングで窓の外に目を向け、思わずため息が洩れる。大型のクルーズ船や、レトロ可愛いスターフェリーがゆっくりと行き交うビクトリアハーバーはそこにはない。開放感あふれる景色を一望できた香港島の海沿いのマンションの一室から、東京へと引っ越して来て1年が過ぎた。 この部屋の窓から見えるのは、名前の分からない機器がごつごつ付いた電柱と、そこから複雑に伸びる黒い電線。加えて、ベランダ同士が向かい合うようにして建つお向かいのマンションと、その奥に西新宿あたりのオフィスビルやホテルの上層階
こども達の夏休みに合わせて日本に一時帰国をした。その合間に、学生時代の友人と2年ぶりに会うことになったので、久しぶりにひとりで上洛した。特に用事があったわけではないけれど、なんとなく待ち合わせより40分ほど早く、地下鉄烏丸線の烏丸御池の駅に到着した。 喉も渇いていたし、続きが気になる読みかけの本も持参していたから、珈琲と共に馴染みのある安心感を提供してくれるスターバックスのような店を目にしたら、吸い込まれるように入って行ったと思う。でも、幸か不幸か改札口を出て視界に入ってき
香港島を走るタクシーは赤い。ロンドンのブラックキャブやニューヨークのイエローキャブのようなお洒落な佇まいはないけど、車体に「的士 TAXI」と書かれたこの乗り物がとても好きだ。乗り物を好きになるだなんて、まるで典型的な男の子の母なのだけど、まあ私はそのド典型だ。 そんな赤いタクシーの、決して座り心地の良くない後部座席に座って窓の外を眺めていたら、突然、激しい雨が降り出した。濡れない場所で降りられるよう、頭の中に中環エリアの地図を広げる。「やっぱりランドマークマンダリンの前で
末っ子が幼稚園に通い始めた。始めの数日は笑顔で行って、その後数日は行きたくないと泣き、でもお迎えに行くと「まだ遊びたいからお母さん来ないで」と泣き、今では行きも帰りも笑顔で意気揚々と通っている。あと4日で夏休みだ。 私はというと、1人で町を歩く事に完全に不慣れになっていることが分かった。これまではチョロチョロするチビがいたので、いつでもダッシュできるスニーカーを履いて、息子に登られても気にならない安物のジーンズにTシャツで胸を張ってベビーカーを押して我が物顔で街を闊歩してい