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面白かったスポーツ選手の自伝など

イギリス生活していて、どうしても日本の本を読みたいときはアマゾンで買って輸入したり、友人に本を回してもらったりしていたが、読みたい本があったりなかったりなので、最近あんまり本を読まない。たまーに洋書を買って読む。

洋書、正直、難しいというか読み通すのにも時間がかかる。英語が苦手で、英語力をのばすという目的で本を読むなら、小説はおすすめしない。やはりかなり難易度が高くなる。簡単と言われているものでも正直難しい。

どうしても小説というのなら、映画化されているものやドラマ化されているもの、そして、筋書きがある程度簡単なものが望ましいであろう。スティーブンキングとか、著作がほとんど映画化されているので、小説で筋を失っても、たぶん自分の父ちゃんや母ちゃんもあの辺の映画なら見ているので「アレってどうだっけ」と聞けるし、ということで、まあ、おすすめするけど、それでもあんまり進めない。ある程度英語の新聞とか読んでいて、英語に自信があるという御仁でも、英語の小説は手ごわいと思う。アイリスマードックとか、何回か挑戦したけど、まあ、10ページも読めなかった。

個人的におすすめするのはノンフィクションか歴史ものである。筋書きがわかるし、背景もわかる。ウィキペディアとかでいろいろ調べられる。私が好きなのはスポーツ選手の自伝である。

パブで読書好きなおっちゃんとかに、誰の自伝が面白かったか聞いてそれを買って読んでみたら当たりだったのを紹介したい。

一冊目は


元アイルランド代表、元マンチェスターユナイテッドのDFポールマグラーの自伝である。サッカー選手の自伝なんですけど、この自伝、正直いろいろな意味で超強烈な自伝だった。スポーツ選手の自伝にしてはかなり重たい自伝で、なんとも言えない後味の悪い自伝である。

この人はお母さんがアイルランドの白人で、お父さんがナイジェリアから来た留学生である。お父さんは医師になるためにアイルランドに留学に来て彼のお母さんと知り合った。そして、お母さんは妊娠するのだが、困ったことに、お母さんはお父さんと正式な結婚をしているわけでもなく、そして、お父さんはただの留学生で黒人、厳格なお父さんにこの事実がばれるのを恐れたお母さんのお母さんとお姉さんは、彼女を無理やりアイルランドから引き離し、ロンドンの修道院が経営する施設に送り込む。(マグラーは1959年生まれ)

「あなたを抱きしめる日まで」とか「マグダレンの祈り」とかあの辺の映画見た人ならわかると思うが、婚前交渉で妊娠するというのは60年代、70年代のアイルランドで大タブーそしてお父さんが黒人なんてもっとタブー、そういう風になった娘は家族から「恥さらし」として扱われ、修道院に送り込まれ、子供をそこで産んだら里子に出して、そして社会に戻ってくるという道を選ばざるを得なかったという事実がある。

結局このお母さんは修道院で子供を産んだが、里子に出すのが嫌になり、アイルランドにこの子供を連れて帰ってくる。しかし、家では育てられないので、施設に出してしまう。このお母さんはカソリックだったのに、出した施設がプロテスタントだったらしい。もう、「?」の選択である。

そして、この彼が物心ついたころ、なんとお母さんはまたナイジェリアからの留学生と懇ろになって、おなかが大きくなってしまう。で、子供を今度はアイルランドで産んだ。厳格なお父さんには隠していたが、産まれた子供は障害を持った女の子で、長くは生きられないと言われた。一人では手に負いきれなくて結局、お父さんに協力を頼んで自宅で育てることになる。一方長男のポールは施設に預けられたままでお父さんには存在は明かされていないまま。お母さんは自分の仕事の休日ごとに自分に会いに来たというが、結局自分は家には連れて帰ってもらえないまま。

病弱な妹は、亡くなってしまった。自分がおじいさんにお目通りがかなったのは、この人がサッカー選手としてキャリアを積み始めたころになる。

なんか、この自伝の中で、「いつもねじれた環境にいて、どうしていいかわからなかった。お母さんやおじいさん、家族はみんなカソリックなのに、自分はプロテスタントの孤児院にいて、正式にはカソリックの洗礼などは受けていない。妹は家族として受け入れられたのに、僕はそうではなかった。結局僕が最後に受け入れられたのはサッカー選手になって、自分がプレーしているのがテレビで放映されるようになってから。僕の居場所はどこか未だにわからない」というようなことを言っていて、この記述がこの本を読んでいる間、ずっと離れなかった。自伝は当時のサッカーのいろいろな面白いエピソードなどがあって、面白いし、カラフルなのだが、全然この自伝カラフルじゃないのだ。

そして、人生の中で、お父さんという存在がなく、おじいさんはただ恐れるだけの人ということで、この選手、サッカーをやっていて、自分にとって父親的存在になる人や、強権的な父親チックな接し方をする人とは悉くうまく行かない。せっかくマンチェスターユナイテッドというあの頃のサッカー界の一番強くて大きいチームに入ったのに、名物監督サーアレックスファーガソンとうまくいかなくなって、アルコールにおぼれ、怪我がちになり、別のチームに放出されてしまう。もうちょっと世渡りというか、もう少しうまくできなかったのかなと思うが、一度、「怖い」と思った人が自分に向かってくるとなると逃げるしか選択肢がない人のようで、アルコールに逃げ、女に逃げ、そして人生が荒むということで、一度はまってしまった悪いループからなかなか逃れられない。(サーもそこまで悪い人には思えないような気がするんですよね、読んでいて。勝負師としての当たり前の選択をしたのだが、個人的には彼なりに気を使っていたような気もするし。)

正直、重たい自伝だし、あんまり救いはない。救いは自伝の中にはないのだが、これを進めてくれた人達、そして私が読み終わったあと「読みたいから貸してくれ」と言われ、回し読みした人達は涙を流しながら彼の境遇を語り、そして、偉大な選手だったと手放しで褒め称えているいうのが救いか。とにかくアイルランドではある種偶像になった、偉大なるフットボーラーということで、自伝は読みがいがある。英語はそこそこめんどくさい言い回しをしているが、それを上回って面白かった。

2冊目、スヌーカープレーヤーのアレックスヒギンズの自伝、

である。世界スヌーカーチャンピオンに2度輝いた名プレイヤーの自伝である。が、名プレイヤーというよりは「バッドボーイ」として名を成したというか、元祖「悪童」であろう。この人に比べれば、他の悪童なんか大したことないっすよ、というくらい、他の悪童が裸足で逃げ出すくらいの悪童である。

(アレックス全盛期よりちょっとすぎているが、59ポイント差をたった7分くらいでひっくり返した伝説のラウンド。あんまり早すぎて何がなんだかよくわからないうちに終わってしまう。でもよく見るととんでもなくすごい。)

これは、たぶんであるが、BBCでこの人の生涯をテレビ映画化しており、それを見たか予告編を見たかで買いに行って読んだ。確か、日本に帰国したときに持っていて、飛行機の中でずっと読んでいたらいつの間に日本についていたというくらい面白かった。

小柄で、話すときの声が非常に小さくて、ちょっと舌足らずの優しい話し方をする。そして顔は甘いベビーフェイスのハンサムで、女性が喜びそうな、ほんとに「モテただろうな」と思わせる色気のあるハンサムであるが、プレーはかなり強引で、まあ、とんでもなくイマジネーションに富んでおり、外見とは全然違う。そのギャップとか落差でやられるんだろうなあと思う。

際立ってこのプレイーヤーが他と違うのは、サイコ具合というか、天才となんとか紙一重系で、そういう性格の人の自伝なので、ぶっ飛んでいるエピソードがたくさん出てくる。優し気な外見や雰囲気とは裏腹にえぐいエピソードがどんどん出てくるし、とある女性と懇ろになったと思ったら、その女性の旦那に刺されたとか、その手の話もたくさん出てくる。飲む打つ買う全部好きなだけやったらしく、お金を使い果たして、がんになって死んでいった。

人気があるというよりは畏敬の念で見られているちょっともう次元の違うプレイヤーだったと全盛期を見ている人が口をそろえていう。そして、そばにいられたらたまったもんじゃない迷惑キャラだったろうなあ、ともいう。「デモーニッシュな人でしたね。心の中にデーモンがいたんでしょうね。それと戦っていた人なのではないでしょうか」とこの人の話になったときにこう言った人がいたが、これは自伝を読んでみてすぐわかる。躁鬱がかなり激しいというか、もう別次元の人という感じだ。

天才しかわからない境地にあり、そういう境地である程度遊んだと思ったら、さっさとそこからおさらばして後は好きなことをしていたように見えた人でもあるが、そういう境遇にあってもやっぱり勝負師だから、勝負したくてしょうがない。でも衰えた自分を誰もスポンサーしてくれず、結局ギャンブルしかなくて、とだんだん年取ってみじめになっていくところがなんとも言えず苦かった。

だいたい日本人がスヌーカー(ビリヤードに似ている玉つきスポーツの一種だが、台などはかなり大きい。)なんか知らないだろうと思うが、これはイギリスではれっきとした競技スポーツで、毎年5月のワールドチャンピオンシップはBBCで連日生放送、獲得賞金も結構大きな賞金である。現在は中国でこのスポーツはやたらめったら盛り上がっており、チャイナマネーが流入し、賞金は高騰、有名選手が中国のテレビ局で番組持ったりしてるくらい人気があるスポーツである。

外国人の私から言わせれば、このスポーツはルールがある程度簡単で、解説もそこまで難しくないので、つたない英語でもある程度内容が理解でき、テレビで見ててもそこそこ面白い。私が最初イギリスに来て友達もいなかったころ、家でジっとテレビを見ていた時期があったが、スヌーカーをずっと見ていた。そのうち新聞などで関係記事を読みだし、過去のプレイヤーのゲームをyou tubeなどで見るようになった。この時期はサッカーはそこまで見ていなかったので、スヌーカーの話ならなんとかついていけたので、パブでそういう話をよくしていたなと思う。

昔はスヌーカー選手はくわえたばこで、休憩中の飲み物もアルコールオッケーだったので、昔の映像を見ると、休憩中はギネスを飲み、たばこをふかし、そしてゲームをするというとんでもなく不摂生な映像がたくさん残っている。現在、昔の映像を放映するときはアルコールやたばこの部分にモザイクがかかっている。

古き良き時代の男らしさとかが好きなら、スヌーカーははまるスポーツだと思うし、この人や他のプレイヤーの自伝も何冊か読んだが、それなりに面白いので、ハズレはあまりない。そういう意味ではいいジャンルだと思う。

3冊目、ロベルトデュランの「石の拳」(Hands of Stone),

私は英語版しか手に入らなかったので、英語で読みました。(何年か前に映画にもなりましたね。ヒロインの人が本当にきれいでした。)

正直自伝としてはうーんです。この人はパナマのボクサーですが、ライターさんはパナマ時代のエピソードがよっぽど好きだったらしく、それにちょっとページを割きすぎと思ったのが一つ、あと、キャリアを全部包括してるといないなあと思うところがあるのと、ちょっと美化しすぎかなと思うところがあるので、その点は辛くなってしまいますが。

ただ、本としてはやっぱり面白いし、この本を読みだしたら結構止まらなくて、自分でも熱中具合に閉口したくらいです。

自伝を読むと、正直子供がそのまま大きくなったキャラクターの人かなとも思うが、なんというか星占いではないが「風の人」というイメージ。石の拳で、こぶしは重いのだが、人間的にはちょっと捉えどころがなく、ふわっとしている人で、もちろんファイターなのだが、勝負師というタイプでなく、もちろん勝負事にはかなりこだわって、強い闘争心がある人ではあるが、それを人に強制するでもなく、びりびりした雰囲気をまとう人でもないという。あんまりスポーツマンらしいお説教臭い部分や人間臭い部分がないというか、その辺はラテンだなと思う。そういう意味では私の知らない別世界の人なので、それだけでも面白かったりする。とても寓話的というか。

捉えどころがまだよくわからない人なのでもう一回読みたいと思っているが、本が手元にない。誰かに貸してそのままになっているんだろうなあ。確かに4人くらいの手元に渡ったはずだ。

そして、この人全盛期時代にあのガッツ石松とも戦っているので、ガッツについての記述が本にもちゃんと書いてある。(ボクシングは私の人生を380度変えたとか名言もちゃんと紹介されている。)これ読むと、ガッツはそれなりに引退後の人生設計をちゃんと考えて芸能界で成功してスピルバーグの映画に出てしまっているのだから、成功者なんだなと、思ったりして。

英語版は帯のおすすめのコメントがリッキーハットンというイギリスで絶大な人気を誇ったマンチェスターのボクサーですが、この惹句を見て口の悪いイギリス人が「あいつ本読めたんだね」と言ってましたっけ。

おまけですが、ガッツとデュランとも戦って敗れたスコットランド人ボクサーケンブキャナンの自伝も面白かったです。

どうしても読みたくて、結局新品がなかったので古本で買いましたがどのページにもたばこの灰が落ちていたのには閉口した。たぶんくわえたばこで読んでいたんでしょうよ。

英語が簡単なので読みでがありました。でもこの人の人生もほんとうになんとも言えないというか栄光を得て、そして落ちるの典型みたいな感じの人でそれが悲しいのだが、本人は淡々としているところがすごいイギリスぽいななと思わされた本です。意外とイギリスのボクサーの本も面白いんですよね。

まだいろいろ紹介したいがこの辺で。



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