どこかへ行きたい ロックダウン後
久しぶりに髪の毛を切りに行った。なんと半年以上である。
美容師さんに「丸い感じのマッシュショートにしてください」と言ったら真顔で「いや、第二波が来て美容院に行けないことになったらメンテナンスの必要な髪型はリスクが高いと思います。」と言われた。「せっかく伸びているのだから、結べる長さは保って、髪の毛の量を調節するようにします」と言われたのでお任せすることにした。そこまで真面目に考えてくれているなら、いいのではみたいな感じである。
来週の月曜がバンクホリデーで休日。8月のこの休日以降クリスマスまで休日はなしである。このあとはあとはクリスマスまで一瀉千里、日ごとに日照時間が短くなって、涼しくいや寒くなっていく感じである。コートやパーカーを出して、朝はそれを羽織ってという感じである。
普段だとこの時期はGAA(ゲーリックフットボール及びハーリング、アイルランドの独自ルールのスポーツのことを指す。)で持ち切りのはずである。アイルランドは毎年県別対抗でこの2種のスポーツの勝ち抜きをやって、9月の第二日曜が決勝。(イメージ的には夏の甲子園のイメージ)。この時期は準決勝あたりで、だいたい勝ち抜きで残っている県の出身者は応援グッズを作ったり、慌てて自分の県のシャツを買ったりして応援に備える。決勝が行われるクロークパーク(ダブリン)は8万4千人収容の巨大スタジアムで、カンプノウのごとしである。(ノウカンプと規模は同じくらい。FCバルセロナの本拠地。)だが、今年はGAAはすべて3カ月スライドで日程をずらしてなんと無観客で行うらしい。アイリッシュのテンションはダダ下がりである。
しかし、だ。第二波、というのはどうなのだろう。いろんなところに出入りしていて、たくさん電話番号と名前を残してきているのに、何も連絡が来ない。だれかがなったとかそういう話も聞かない。ただし、これは地方ごとによって違う。北に行けば行くほどいろいろあるらしく、規制はそれなりに厳しくなっているという。アイルランドも県ごとにいろいろあるらしく、飲食店に行っても一時間しかいられないという自治体もあるらしい。
現在、イギリスは月曜から水曜までは飲食店は半額(最大一人10ポンドまで)である。外食して外食産業やそれに付随するサービス産業を助けましょうという意図である。もちろん政府負担。ランチタイムから夕食の時間遅くまでレストランはどこもいっぱい、テーブルを待っているお客さんがいるくらいである。一応ソーシャルディスタンスと言われてはいるが、テーブルはつめつめでできるだけお客を入れて回そうという意図が見え見えである。
私も適当に外食している。下手したら自炊より安かったりするので、適当に外食したり、持ち帰りサービスを利用したりしている。自炊用に野菜とか買っていたのに、使っていない。
ちょっと遅い夏の日の夜といった感じなのだろうか。人があっちこっちでうろうろして、歩道にせり出したテーブルで飯を食らって酒を飲んでいる。
お金は使いたくないけど、外出や外食の雰囲気を味わいたい、そういう人の気分に今はマッチしているのだろう。割引がなくなった木曜からレストランは空っぽになる。週末も惨憺たるものである。週末はレストラン独自で割引をしたり、タイムサービスをやったりしてなんとか客集めをしている感じである。
注文も前みたいに取ってもらえなくなって、アプリを店先でダウンロードして、テーブル番号を入れて注文をアプリで出す。お勘定もその場でカード決済が主。ラクといっちゃラクなんだけど、なんだかさみしいことこの上ない。ただし、一人で行ったときはラクだ。いちいち店員呼ばなくてもいいし、この国だいたい店員呼んでも来ないし、というストレスがないから、食券の食堂みたいな感覚で食べて帰れるのはいいのであろう。
こんな時になって、「どこかに行きたい」と思うことしばしば。どかんと休み取って、どこでもいいから旅行でもしたいなあと思う。だいたいイギリスにいるのも、ヨーロッパにアクセスがいいからいるのであって、どこかに行きたいなと思ったらその日にふらっとどこかへ行けるのがいいのであって、どこにも行けなかったら面白くないのである。
しかし、だ、どこへ行っても「帰国後10日間自主隔離」とかそんなルールばかりで、簡単に行って帰ることもかなわない。もっと面倒なのは、それが必要ないと把握して旅行へ行ったのに、滞在中にルールが変わって自主隔離が必要になり会社などを休まないといけなくなるパターンが怖い。結局家でおとなしくしてろということなのだろうね。
ということで、何もできないので、結局生活圏内をふーらふらするのである。この間の休みに、Diptyqueという香水のお店へ行ってきた。なんというか旅情あふるる香水を作るのがうまいフランスの香水やである。
香りは単純、たいして面白くはない。普通に作った香水が面白いブランドで、ちょっと狙い気味の変わったものを作ってみましたという香水はあまり面白くない。ただ、なんというのか、ここの香水は外国を想起させる香水が何個かある。ベトナム、インドネシア、イタリア、ノルマンディ。
特にフローラベリオという香水が結構好きで、たまーにこれをかぎたくてお店を訪れる。りんごの花、レモン、マリンアコード+コーヒーというちょっと面白い匂いである。
これは私にとってはノルマンディーを思い出させる香りなのである。夏が終わったばかりの時に訪れ、ドーヴィルからカーンまでずっと海沿いをバスで走った。潮風なんだけど、ちょっとスモーキーな感じで道端にリンゴの木が鈴なりになっていて、立ち寄ったドライブインで焙煎しすぎた焦げたコーヒーにリンゴのブランデーを垂らして飲んだりしたっけね。ドライブインのおっさんたちは皮ジャンを羽織り、指先が焦げそうになるまでぎりぎりまでたばこを吸い、苦いコーヒーをあおってトラックに乗っていなくなった。なんか、そんな感じを思い起こさせる、旅情はあるが、なんというか現実的というか、リンゴや潮風に混じるたばこやコーヒーといった現実的なにおいのコントラストが面白く、そんな情景をはっきり思い起こさせる香水があるのがうれしいではないか。
ノルマンディを訪れたあと、イギリスのウェイマスというまた海辺の街に遊びに行った。(ほんとか嘘かわからないが、ウェイマス近辺にノルマンディ上陸作戦のアメリカ兵が駐留していたらしく、骨董屋でアメリカ兵のヘルメットなんかが売っていた。)ここもなんだか、ノルマンディに少し似ていた。そのあとアイルランドに遊びに行って、ダブリンから小一時間くらい電車に乗ってたどり着いた、ホース(ハウト)という港町もなんだかぼんやり似ていた。
あの辺、海を挟んで国は違うがそこまでは遠くない。なんとなく似たような空気が流れているような感じがしたのである。
ノルマンディを思い出すと、イギリスの海辺の街を思い出し、そしてダブリンからちょっと離れた港町を思い出す。
どこかに行きたいけどかなわないから、今は思い出をたどるのが一番いいのかもしれない。