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彫刻家・舟越保武のこと、聖キアーラのことなど

昨年の終わりくらいから、彫刻家の舟越保武ふなこしやすたけさんのことを書こうかとずっと思っていましたが、
まとめるのに時間がかかりそうで、保留にしていました。

そうしたら先日、NHK・Eテレの日曜美術館で「人生で美しいとは何か 彫刻家・舟越保武とこどもたち」が放送されて、あらまあ、なんてタイミングと思いました(今日19日夜に再放送あり)。
特に展覧会もないようだけど、なぜいまこの人だったのかなと。
おかげで、投稿してみるかと腰を上げました。

この方の作品をちゃんと観たのは、2015年の練馬区立美術館。

アッシジの聖キアーラの胸像

練馬は遠いのだけど、なぜ出かけていったのか。
去年亡くなられた息子の舟越桂さんがわりと好きだったので、興味を持ったのかもしれません。
展覧会では、保武さんの主な作品がずらっと展示されていたと思います。

展示を観て初めて、長崎二十六聖人殉教者記念碑を彫った彫刻家だと知りました。
高校の修学旅行で初めて行った長崎で、日本二十六聖人記念館前にある記念碑に、宙に浮くように並んだ二十六聖人の彫刻を見上げた感覚を、うっすらと覚えています。

この展覧会でも、やはり見上げる位置の壁面に「長崎二十六聖人殉教者記念碑」のうちの4人の像が展示されていました。
展示されたものは、カタログを見ると素材がFRP(繊維強化プラスチック)とあります。
制作が1962年で、記念碑と同じ時期に制作されたものだと思いますが、詳細はよくわかりません。

舟越さんは、1948年に1歳にならない長男を亡くしています。
だからなのですね、聖セシリア(チェチーリア)、聖マリア・マグダレナ、聖クララ(キアーラ)などの聖女の像や、ダミアン神父など、キリスト教に関する作品がいくつもあります。

「聖セシリア」1980年(昭和55年)

そのなかで、私も縁のあるアッシジの聖クララ(キアーラ)の胸像には、すこし違和感を感じました。
なぜ眉間にシワが寄っているのか。

舟越保武さんのことを記事にしようと思ったのは、
若松英輔さんがカタログに寄せた文章を読んだからです。
このなかで、保武さんがアッシジを訪ねたときのことが引用されていました。

*若松さんのことは年末に書いいます。
カタログの文章もこの本に入っていました。

 アッシジにある聖フランシスコの聖堂を舟越が訪れたときだった。強いにわか雨が降る。彼は聖堂の回廊で雨が止むのを待っている。すると、彼の後から、そこに若い修道女が飛び込んできたという。この女性はうつむき加減で、石畳を打つ雨を見つめている。「美しい人だった。この世の人とは思われないほど美しい人だった」と舟越は書いている。その横顔を決して忘れまいと思う。そして、「そのとき見た横顔が、数年後のいま、私の中で聖女クララになっている」というのである。

「光を見る者-舟越保武と芸術の秘儀」 若松英輔 より

でもなぜか不思議なことに、そのとき一緒にいた舟越さんの奥さんは「そんな人はいなかった」というのです。
人の記憶というのは、だいたい曖昧なものだけれど・・・。

しかし、私は、はっきりとその修道女を見た記憶を持っている。今でも、あの横顔がこの眼に見える。
 雲間から陽がさして来て、その横顔の輪郭の線が光ったのを覚えている。その光を見たので、やがて雨が上がるとわかったのだから。
(中略)
妻は私の幻想だと言うが、そんなことはない。
 ただ、なぜ、私はその人の立ち去るときの後ろ姿を見ていないのだろうか。小砂利を踏んで立ち去って行く足音も、聞いていない。

「光を見る者-舟越保武と芸術の秘儀」より

私のイメージの聖キアーラは、もうすこし穏やかな表情だったり、
微笑を浮かべていたり、もっと満ちているイメージです。
もちろん、彼女が「なにも所有しない」ことを守り通すには大変なことがたくさんあり、病気も持っていて、こういう憂いの表情をみせることもあっただろうとは思います。

舟越さんの「聖クララ」は彼が見ている「彼女」の一面で、
私の見ている面とは違うということによって、
やはり作品はその創るひとのフィルターを通るものだなと、
当たり前のことを思ってしまうのでした。

キアーラについては以前、長い記事を書いたことがあります。


舟越さんの三男の直木さんも芸術家で、作品を見たことがあります。
残念ながら2017年に亡くなっていますが、
とても好きだと思いました。

舟越桂さんの作品(右側の2点)は、このころのほうが好きでした。
ほおずきのような、ハートのような作品が舟越直木さんのもの。

関係ないけど、直木さんの洗礼名は「ミカエル」だそう。


今晩再放送の「日曜美術館」では、舟越さんのこどもたち(大人ですが)のことも紹介されていて、とてもいい番組だったので、興味のある方はぜひ。


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フランチェスカ
書くこと、描くこと、撮ることで表現し続けたいと思います。チップは自分を豊かにしてさらに循環させていけるよう、大切に使わせていただきます。